第三十七幕 予断を許さない状況
暇、その一言が現状を表すには最適の言葉であった
テレイズ・フォン・アライヤは仕事部屋の傍らで珈琲を飲みながら窓の外を見る
昨日の何事もなかった城下町とは違い、各地に戦いの後が見受けられる
ここはユグレシア王国騎士団が運営する医療施設、その中でも特に重傷者が運び込まれてくる場所だ
治療系の能力者は数が少なくどんな所でも引く手数多だ
この世界を生きる人のほぼ全てが住むこの王国では、小さな怪我から大きな怪我まで頻繁に起こる
だから治療系能力者っていうのは暇だなんだと言いながら珈琲をすする暇なんてないはずなんだけど……
「はぁ、あいつら優秀すぎるでしょ……」
私と同時期に入った連中
私含めほぼ全員がスピード出世して今や隊長格にまで上り詰めている
ちなみに今でも頻繁に飲みに行くくらい仲は良い
大体のケースとして、避難と鎮圧が早くに終わる
だから重傷者が出る前に事が終わる
今回も今までのパターンと同じで今回も私は暇かな~
不謹慎だけど少しくらいは仕事が欲しいよね
「テレーズさん!!」
バンッ!! っと大きな音を立てて扉が開かれる
勢いのまま扉が跳ね返り声の主の頭を打ち抜く
小さく「イタッ」っと間抜けな声が耳に入り声の主が何者なのかを教えてくれる
予定ではあと数日は来ないはずだったんだけどな
「まぁまぁ落ち着いて、私は逃げないよ」
声の主、ソラに向かってそう諭す
その言葉が聞こえていないかのようにソラは声を荒げて言う
「お願い!! マサミチ君を助けて!!」
久しぶりに聞く助けを求める悲痛な叫び
あぁ久々に、私に仕事がやってきたようだ
「オーケー。容体は?」
ソラはハッとしたように顔を上げる
その瞳には確かな希望が宿っていた
「左手が半分以上吹き飛んでて、腹の大部分が損傷してるけど臓器は傷ついてない。でも、私も治そうとしたけど血が足りなくて……!」
なかなかに重症、それでこそやりがいがるってものよ
「メノー!! 左と腹部パーツ持ってきてー!!」
治療に必要なものを用意しつつ白衣を羽織る
ソラの能力で運ばれてきた少年、いや青年かな?
聞いてたよりも重症ね、今一番やるべきは……
「輸血ね。このままだと傷の治療前に死ぬわ」
この世界の輸血はマサミチのいた元の世界と全く違うものだ
血=魔力のこの世界では他人の血をただ身体に入れるだけと正常に魔力が廻らない
正常に魔力が流れるようにするためにはある技術を使わなくてはならない
「パラ・メノル。ただいま現着しました。輸血用の血もご用意しましたが必要ですか?」
「ええ、気が利くわね、すぐに頂戴。今すぐに始めるわ」
メノに持ってこさせた〝パーツ〟を青年の身体に近付ける
「命の繋ぎ」
能力を発動するのとほぼ同時に輸血を始める
ある技術、それは最古の純人であり、永久凍土の大賢者と呼ばれた者が編み出した〝魔力技術〟の一つ
魔力技術〝浄〟
本来は身体の中の毒素を魔力で押し流し、浄化するための技術だが、今は輸血パックに残っている採血元の人間の魔力を消すために使う
それと併用して魔力技術〝調〟も使う
青年の身体の魔力に馴染むように血液の成分を魔力で調和する
気配を空間に存在する魔力と同調させる技術の応用だ
血液が零れないように器を借り修復する
私の能力〝命の繋ぎ〟は失われたパーツを接合して、その者の身体と馴染ませる
全く違和感なく接合する事が出来るがデメリットもある
私の能力は特定の個人に使えば使うほど効力が弱まっていく
違和感なく接合させているもののもとはと言えば別人の身体だ
何度も繰り返せば私の能力に免疫ができてパーツを受け付けなくなってしまう
腕と腹、一度に繋ぐ部分が比較的に多い
もし次に治療することになっても今回の様にはいかないだろう
けど、今回は絶対に助ける
腹の接合を終えて腕の接合に取り掛かる。
ただ少しだけ違和感がある
もとから拒否反応が微弱ながらあることだ
このケースはなかなかに珍しい
だからこそ原因が分かりやすい
「ねぇソラちゃん。この子もしかして純人族?」
しまったと言わんばかりの表情をしたソラに思わずため息が出る
今使っているのはここの住人用のパーツだ
純人用のパーツは他にあるというのに……
「今からじゃ間に合わないからこのままでいくよ」
額の汗を拭いながら治療を進める
メノにちぎれた部分の形を整えてもらいながらくっつけていく
メノは私を除いて使える人がほぼほぼいない魔力技術〝命〟の使い手の一人だ
「メノ、もうちょっと出力上げて。中の繊維と細胞の治りがちょっと遅いから」
「了」
一瞬のミスも許されないこのヒリつきが癖になる
ミスをすればやぶ医者だが、成功すれば名声も金も入ってくる最高のギャンブルみたいなもの
まぁ実力で結果が変わるから私にとって部のいい賭けだ
不純な考え方だがそうでもしてないとプレッシャーで押しつぶされかねない
それで潰れた人間を知ってるから
「……よし、終わったよ」
腕と腹の接合が終わり能力を解除する
接合した腕は外れることなくくっついている
やることが終わり飲みかけの珈琲に手をかける
もうぬるくなってしまった珈琲を一気に飲み干しソラの方を向く
「さてと、この子が起きるまで話に付き合って貰うよ」
色々と聞きたいことがあるしね




