第三十六幕 優しい少年の意志
何なんだ今の爆発……
戦場から離れた位置に避難させられたマサミチは言いようもない不安に駆られていた
能力を持っても僕はまだ守られる対象でしかないのか
自分が情けない、変われたって思ったのに、思ってたのに僕は……
「うわっ!?」
一際大きな爆発音が鼓膜を揺らす
続けて離れたところで大きな火柱が立つ
僕の知らないところでも戦ってるんだ、それなのに僕は……、というかさっきのは今までのより爆音よりなんか嫌な感じがした
なんか心配だ、チョーやソラさんは大丈夫だろうか
危険だと分かっているのに足が勝手に現場へ向かっていく
その間も二度三度爆発音が響く
その度に嫌な予感がよぎり背筋に冷たいものが伝っていく
無事でいて欲しい、その一心で歩む足は速度を増していく
「っ!? チョー!! 大丈夫か?!」
ボロボロの状態で蹲るチョーを見つけ、すぐに駆け寄りチョーの傷を治そうとする
傷の治りが遅い、火傷も酷いし腕が変な方を向いてる
初めて会った時よりも酷い傷だ
「……マサミチさん、チョーの事はいいっス。……ソラさんの方がやばいっス。行ってあげた方がいいっス」
「でも……」
真剣な眼差しがマサミチを打ち抜く
その眼差しには有無を言わさないモノがあった
「わかった。でも、すぐに戻るから」
不器用な強化を足に施し魔力の波動を感じる場所へ駆けていく
そんな後ろ姿を見ながらチョーは呟く
「……ほんっと、お人好しなんスっから」
その一言にマサミチのすべてが詰められていた
どんなことも耐えて、反撃なんて、人を傷つける事なんて選択肢にも上がらない
それがユイガマサミチだ
……今までのユイガマサミチだ
「こっちか……?あちこち壊れててどこがどこだか……」
バラバラになった木屑に足を取られながらも悪路を進む
ん?声が聞こえる
こっちか?
そこで見えたのは首を掴まれ宙吊りにされたソラだった
能力の事に疎いマサミチでもソラの命が今すぐにでも奪われることが容易にわかる
それほどの魔力濃度と光だった
気づいた時にはもう手を前に出していた
本能が、マサミチを動かす
僕が何とかしなければソラが死ぬ
大切な人がまたいなくなってしまう
でも、どうすれば
(腕を打ち抜けばいい)
せっかく能力があるっていうのに肝心なところで僕は役に立たない
(すぐにでも氷の矢を出して撃てばいいんだよ)
また僕は変われないままなのか……
(ソラを助けるんだろう?ユイガマサミチ!!)
そうだ、とうの昔にわかっていたことだ、そしてずっと目を背けていたことだ
けどもう目をそらさない
覚悟は決まった、僕は……ソラを助ける!!
「四季・冬式 雹槍」
氷の矢を作り出しヒバナの腕めがけて発射する
何者かに身体を乗っ取られたような気分だった
口が、僕の知らない僕の技を口に出していた
ヒバナの意識外から放たれた一撃は容易に腕を貫き、吹き飛ばすことに成功した
「っつ……てめぇ!!」
失った腕を押さえマサミチを睨むヒバナ
恨みと怒りが込められた視線がマサミチを貫く
今までのマサミチなら動揺していた、恨まれたことを傷つけたことを抱え塞ぎ込んでいた
ただもう動揺しない、何も揺るがない
マサミチは真っすぐにヒバナを見つめ、次の矢を作り出す
打ち落とされることを考慮し何本も何本も空中に生成される
後に白氷と呼ばれる技の原型が今ここに完成した
「もう迷わない。僕はもう大切な人を失わないように!! 弱いままの僕を捨てる!!」
「ンのガキが!! 爆轟!!」
来るッ!!
直感が身体を動かし、役に立たない形だけの手を身を守るように前へ突き出す
光と熱が目を、皮膚を焼いた後に痛みが電流のように走る
魔力を完璧に纏う事の出来ないマサミチは、ソラさえ防げなかった爆撃を耐えることはできない
肉の破片となって飛び散った指が宙を舞い、鮮血で辺りを彩る
だがそれでも止まらない
これくらいの痛みどうってことはない
もとから使えなかったんだからあってもなくても変わらない
痛みなら、僕はずっと前から受けてきた
今でも慣れる事はないけど、我慢はできる
それに、僕が戦っていない間ソラが、チョーがこの痛みに耐えてきたんだ
そのことを思えば僕のなんて痛くもない!!
「──ッオォォォ!!」
爆炎と自分の血で姿をくらまし、ヒバナに体当たりをする
痛みで冷静になれていないヒバナは予想外の攻撃に反応できずよろける
叫びながら既に形を失った手を振り上げる
血が噴き出し続ける腕が青く光り深紅の氷を作り出す
それは大きく精巧な氷の拳だった
体勢を崩したヒバナはその拳を受け止めることなく一撃をくらう
ただしヒバナもただではやられない
拳を振り切ったマサミチは大量に吐血し地に膝をつく
「ぅぶっ──ゲボォ」
マサミチの横腹には臓物が飛び出すほどの風穴が空いていた
爆炎で傷口が焼けたことが不幸中の幸いで傷口からの出血はあまり多くはなかった
だが手を失った時にもマサミチは血を流していた
身体に穴が開くほどの甚大な欠損
マサミチは既に失血死寸前だった
「────!!」
吐き出してもなお、溢れ出す血を散らしながら声にならない雄叫びを上げ立ち上がる
マサミチは知ってしまった
自らが命の危険に瀕した事で、その危険がソラにまで影響を及ぼすことを
半ば意識を失っているマサミチにはもう痛覚と呼べるものは残っておらず、その身体は痛みを忘れ、ただ目の前の敵を倒すため為だけに動き出す
魔力の源である〝血〟それは今マサミチの魔力を帯びた液体として、その力を存分に発揮する
血塗られた氷塊は空気中の水分をも凍らせながらヒバナの命を奪う為に向かっていく
「……ンのダボがァァ!!」
マサミチに殴られたことで出血した頭部の血を燃料にさらなる爆発を起こす
全力で放たれたその一撃はマサミチの全身全霊を打ち砕くには十分な威力だった
そしてマサミチの全身全霊はそれを乗り越えるほどの力を持っていた
粉々になった氷の刃先は空中で静止し、新たな形を成す
素となった赤い氷から更に空気は凍り、幾つもの刃を持った殺意の氷像を創り出す
それは容易にヒバナの命を奪──
「はいストップー」
氷が命を貫通する刹那、何者かが間に割ってに入る
圧倒的な質量をもった氷像は粉々に砕けその勢いを失う
「……クッソ。なんでここにおるんや?」
「迎えに来たんだよ。これ以上メンバーが減ったら計画に支障が出るからね」
「ッ……誰か死んだのか」
「ああそうさ、君まで失うわけにはいかない。だからここまでだ」
ソラが話を聞く限りヒバナの仲間の一人がやられ、ここから撤退するのだろう
「逃がすわけ──」
ソラがそう言おうとしたとき辺りを異質な圧が制圧する
「今ここで殺ったっていいんだ。見逃してやると言っているんだ。黙っていろ」
強気な性格のソラなら言い返す、ただそのソラさえも黙らす圧がそこにはあった
ヒバナ達が逃げるのを見ている事しかソラにはできなかった
マサミチの意識が完全に失われる最中、こんな言葉が聞こえてきた
「マサミチっつたか。覚えとけよ、左手の借り絶対に返したるからな」
その言葉を最後に去っていったヒバナ達
いなくなった途端に喪失感が襲ってくる
アドレナリンが切れ痛みが全身を支配することで何とか意識が保たれている
「マサミチ君っ」
青い顔をして近寄ってくるソラに笑顔で返す
「よかった、無事で」
自分では言えているつもりだった……もはや声を出すこともできない状況だったのに
僕の言葉を皮切りにソラは涙を流し始めた
「ごめんね。守るって約束したのに……お願いッ死なないで、マサミチ君」
血が溢れ始めた横腹に布を押し当てながら精一杯能力を使うソラ
あの家で何度も感じたぬくもりが傷を包む
それでも血はとめどなく流れていく
傷付いて倒れた身体は僕に言葉を許さない
それでも何とか伝えたいその言葉を思いを魔力に込め、ソラの顔に手を添える
守るって言われたけど、いいんだ
僕は守られてばっかりだったから、そのままは嫌だったからさ
今度は僕が守るよ、ソラ、だから泣かないで、僕はソラの笑った顔が一番好きなんだから
「~~ッ!!」
確かに伝えられたその想い
泣きながら、不器用な笑顔を見せるソラを見て笑う
薄れていく意識の中で僕は思う
ずっと笑顔でいて欲しいな
それが、今の僕の幸せだから──
城下町・下層の戦い 勝者 ソラ チョー マサミチ




