無慈悲な白狼
市街地から少し離れた場所、城下町・中層 天門街
そこでは、一人の男と女が対峙していた
「ここら辺の空気っていいよな。腐った貴族の連中の手も届かないしある程度景色も良くて気に入ってるんだ」
「そうですか」
そっけない態度で返事を返す
そんな女の態度にやれやれと肩をすくめる
「冷静だな。目の前で人がバラされてるのによ」
突き刺さった刃を引き抜かれる
力なく倒れた人は地面を血で染めていく
何人もの人で積み重ねられた死体の山は吐き気を催すほどの異臭を放っていた
「私が子供の頃は日常茶飯事でしたので。役立たずは死ぬ、聞き分けのないモノも死ぬ、利用価値のないモノも死ぬ。そのような日常を過ごしていたので」
「っは。なるほどな、元奴隷か」
銀髪が風になびいて揺れる
「元奴隷でも今はゴミ溜めの使いッ走りだろ?なら殺すターゲットに入ってるぜ」
「そうですか」
心底興味なさそうに返事をする女
その態度に男は笑顔で返す
「冥土の土産に教えといてやるよ。俺はテムペラ。腐った世界をぶっ壊す男の名だ」
「名乗られたのなら返しましょう。私の名はグレイラット。アルベリ・ラーフィット様の世話係です」
臨戦態勢に入りながら名乗る
互いが臨戦態勢に入ることで戦いの火蓋は静かに切られた
「不抜の繭」
極小の糸がテムペラの体を包んでいく
「早めにアルベリ様の所へ戻る約束をしているので、手短に終わらせましょう」
空気の通る隙間すらない繭が市街地に作られる
「くはっ。糸かよ、なぁグレイラットさんよ」
繭の中から糸が断たれる音がする
「あんた、運が無いな。俺の能力と相性最悪だよ」
繭を切り破りテムペラが姿を現す
身体のいたるところから鋭利な刃が生えている
まさに異形の姿
「……」
「あんたの能力が糸なら俺が負けることはない。さぁ、蹂躙だ。いい悲鳴、期待してるぜ?」
肘から生えた刃が一直線にグレイの伸びてくる
「格子牢・斑」
格子状の糸が向かってくる刃をからめとり静止させる
刃に当たる部分は糸を厚くすることで多少切れても問題はない
「やるじゃんかよ。ならこれならどうだ」
テムペラの手の中に刃が収束していく
身体の至るところから出ていた刃も全て一点へ
やがていくつもの刃は切れ味を持った巨大な鉄塊へと変貌する
さながら無慈悲な断頭台の刃の如く
「糸如きでとめれねぇだろぉ!? 潰れちまえ!!」
全てを斬り潰さんとする鉄塊が迫る中、グレイは言う
「哀れ、ですね」
技名すらないただの糸を掲げ、鉄塊を迎え撃つ
その糸は鉄塊の勢いを容易いなし、両断する
「なっ!? たかが糸如きに俺の剣が……?」
断面を見つめ驚愕の色を見せるテムペラに告げる
「失礼、あまりにお粗末な物でしたので……技を使う事すら忘れてました」
「てめぇ!!」
テムペラは激高し折れた刃を振り上げる
「本当に、お粗末な技ですね」
向かってくるテムペラを視線から外し手元に目を向ける
魔力を使い糸を出し、編む
より硬く細く繊細に……
「うおおおおおおお!!」
「よしっ、出来た」
全力の咆哮、それに相対するは冷静な独り言
振り上げられたその刃が今……
「絞殺の銀糸」
地面に届くことなく両断された
両断したのは、見る事さえやっとなほど細い、一本の糸
音もなく二つに別かれた刃はその切れ味を発揮する事なく地面に横たわる
「絹の監獄」
呆気にとられたテムペラを容赦のない糸が絡めとる
手をふさがれ腕を固定され身動き一つできなくされる
「ま、待て。落ち着け。話せばわかる」
拘束された男は叫ぶ
身近に迫った死の足音におびえながら
「悪かった。謝るから」
一歩、また一歩と足音を立てて近づいていく
「やめろぉ!! 来るなぁ!! 死にたくないっ!!」
涙を流し懇願する
グレイはその言葉を無視しテムペラの横を通り過ぎる
「はぇ?? お、俺助かっ──」
ゴトリと音を立て首が落ちる
血の雫が噴水のように噴き出て、グレイの銀髪を染め上げていく
グレイはたった今、人の命を奪った糸を捨てる
言葉と一緒に
「散々殺しておいて自分だけは、なんて通用しません。地獄で手に掛けた人々に詫びるといいです」
テムペラの凶刃に倒れた民間人達の力なく倒れた骸を糸で優しく包み込む
「助けられなくてすみません。せめて遺体だけでも綺麗なまま、ご家族とお別れを」
死者への手向けに作った糸の花が静かに揺れる
城下町・中層 天門街の戦い 勝者 グレイテット
テムペラはすっごい小物になったけど、案外強かったんだよ?




