お友達第一号?
夜が明け日付が変わる
いつもの日課のついでにとある場所に寄る
いつもの日課より距離が短くなってしまうがそこは気にしても仕方がないだろうと割り切っている
二日前くらいにここには寄ったけど、あの時とは少しだけ違うな
鉄を一定のリズムで打つ音が聞こえる
素人が聞いても洗礼されていると感じる鉄が打たれる音は一種の音楽のようにさえ聞こえる
まぁこの音を聞きに来たわけじゃないんだけど
店の裏手側にある工房に向けて歩みを進める
そこには昨日とは違い作業着のような姿で鉄を打っているアルドルフの姿が見えた
彼も僕が来た事に気が付いたようで作業の手を止める
身体に付いた埃を払い歓迎の言葉を述べる
「やぁやぁよく来たね。まぁ入りたまえ手狭な所だが存外悪い所ではないと思っているのでな。どこへでも座ってくれ」
「ありがとうございます」
丁度入り口付近にある不思議な形をした椅子に腰を掛ける
するといかにも上機嫌のアルドルフが口を開く
「やはり君はその椅子に座ると思っていたよ。何を隠そう私の創った椅子だからね! それにしても自分の作品が選ばれるというのは気分がいい物だね」
何も意図せず近くにあった椅子に座っただけなのに……
まぁ本人が喜んでいる様なのでいいだろう
それよりも今日はある用事があって寄ったのだ
アルドルフもそのことに気づいているのだろう
昨日よりも口数が少ない
「あの、今日はこの霊神玉について話が聞きたいんですが」
「もちろん問題はないさ、存分に語らせてくれ」
アルドルフの方も乗り気なようで何よりだ
合意の上での語らいあいなので何かを気にする必要もないしな
「さて、まずは何が聞きたいのかね?」
「まずは昨日の続きからお願いします」
「ふん、良いだろう。確か昨日は人光のところだったかな、あれはね――」
――霊神玉――
アルドルフが初めて能力を使い創り出した魔道具らしい
魔道具というのは魔力を通すことで効果を発揮する道具の事だ
アルドルフの話では最高傑作の中で五本の指に入るほどの物らしい
ではなぜアルドルフ本人が持っていないのか
それは、本人に霊神玉を使う適性がなかったからだ
霊神玉が放つ光は導らしい
「まぁ作者としては、この光の意味を自分で知って欲しいのでね、具体的な説明は割愛させてもらうよ」
む、教えてくれる流れかと思ったのだが、そううまくはいかないらしい
それにしてもコレの光って意味があったんだ
また今度いろいろ試してみようか
教えてくれないのは作者の意向らしいしね
「なに、そんな顔をしないでおくれ。私は意地悪がしたいのではない、一種のこだわりの様な物だ。寛容な心で理解してもらえると助かる」
「大丈夫ですよ、いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「ふふっ、君は本当に素晴らしい人間だな。」
笑顔を浮かべるアルドルフの姿と昨日見た試合での姿が重なってどうもギャップを感じる
こんがり焼けたちょうどいい日焼け具合と煤で汚れた頬に親近感を感じるのだが……少し怖い
茶目っ気がある人なのはわかるのだけどね
「そうだ、君にやってみて欲しい事があってね。是非引き受けて欲しいのだが」
「やりますよ」
「いい返事だ、だがいいのか? 私は何も説明をしていないのだが」
「大丈夫ですよ。アルドルフさんが悪い人じゃないって期待してるんで」
チョーとソラの教えのおかげかな、無条件というわけではないけど人から感じていた気持ち悪さはなりを潜めている
それにアルドルフが悪い人なら僕は抵抗すらできずに死ぬだろうから心配しても仕方がないのだ
だから〝期待〟する
「あっはっは! 期待か! 面白いじゃないか! 私、アルドルフはその期待に応えると約束しよう!」
「それは良かったです」
「では早速なのだが、これであの鉄を打ってみて欲しいんだ」
差し出された金槌は先ほどまでアルドルフが使っていたものだろう
何も言わず受け取ってみたのだが、これが意外に重い
片手で渡してきたのを見て片手で受け取ったのだが速攻で取り落としてしまった
もし接着剤か何かであの金槌と手がくっついていたら指がちぎれてたんじゃないか?
「ふむ、君には少し重すぎたか。どれ別の物でも……」
「――っふぐっ!」
別の金槌をアルドルフが探そうとした瞬間、マサミチが金槌を持ち上げた
「おおっ! 君は私が思っているよりもすごいのだな」
アルドルフの視界には手と金槌を氷で接合し、持ち上げている少年がいた
「なんだ、お粗末だがきちんと魔力も使えているじゃないか。それに能力まであるとは素晴らしいな、っと言っている場合ではないな」
僕の血管が千切れるんじゃないかと思うくらいには力を入れているのにやっと持ち上がるレベルだ
どうせまた取り落としてしまう、ならくっつけてしまえばいいと思ったのだが変わらずキツイ
魔力での身体強化は昨日の試合を見よう見まねでやっているだけだからあってるのかわからない
いやホント
重すぎないか
この金槌
あー、字余りぃ
限界ギリギリで変な事を考えているマサミチの前に白く光っているすでに剣の形をした物が置かれた
白く熱された鉄の剣が金床の上にごとりと置かれた
「こいつに思いっきりガツンとやってやってくれ」
「ふぐ……?うぁ、っとぉ!!」
腕の力だけでは持ち上がらないのが分かっていたため遠心力で無理に振り上げる
でもそれだけじゃ足りないから、魔力もフルで使う
まだ完全に制御できる訳でも扱える訳でもないけど、使わないよりかはマシだ
腕にどうにかして魔力を籠めようとしていると、少し重さが楽になった
まだ全然きついけど……
そう思っているとアルドルフが金槌の柄の部分を持ち、支えてくれる
「ダメダメじゃないか、もっとリラックスしなければ上手く使えないよ?目を閉じてイメージするんだ、聞いたことはあるだろう?魔力はイメージの世界なんだ。魔力を纏いたい部分に水、いや泥が纏わりついている様な、それでいて優しく、暖かい波動を感じようとしてみたまえ」
「……ッ!」
驚くほどに僕の魔力は安定し始めた
アルドルフの言ったイメージは分かりやすかった
これなら、と思い切って剣を叩く
ガチンと言って白い火花が散る
白く光っていた剣は溢れ出した熱気をすべて取り込み、形を変えた
杖だった
今まで鉄の剣だったのにどう見ても木の杖だ
これも能力なんだろうか
そう思いアルドルフの方をちらりと見ると物悲しそうな表情で杖を手に取っていた
「……なるほど、君はこういう人物なんだな」
「えっと?」
「君が今打ったのは〝選定剣〟だ。これはこの剣の仕上げを担った人の経験、人柄、特徴が色濃く出るものだ。人によっては武器種も変わる代物さ。剣に槍、斧に弓、メイスだった人もいるくらいさ。でも、私も初めての経験だよ……人を傷つけることに特化していない武器に変わるのを見るのは」
「それは悪い事なんですか?」
「ああ悪い事さ、勿論いい事でもある」
そう言い杖を僕に差し出してくる
「これには君の善性が現われている、とてもいい美徳だ。だが、足枷でもある。この世界ではね」
受け取った杖は熱くもなく、冷たくもない
悲しいほどに静かな印象を受けるのは何故だろうか
優しいのはこの世界では足枷なのだといろんな人に言われてきた
僕自身が実感していないだけできっとそうなのだろう
アルドルフは深いため息をつき、少し上を見上げる
「君の過去を見たよ。あれほどのことがあってもまだその善性を保っている。親が支えになってくれたのだろうな。あんなやり方以外にも方法はあったと思うのだが、君はいい親に恵まれたようだね」
「……はい。母親がいなければ今の僕はありませんでした」
そういうとアルドルフは不思議な顔を見せたがすぐに話をつづけた
「母親?……まぁそこはいい。兎に角、私は君を心底気に入ったよ。これからは私の事を価値感の合う友人として扱ってくれ」
「友達として、か」
「ま、君が私をどういう風に認識するかは君次第だ。口を挟むまい」
そう言いながらアルドルフは空中に手を入れ何かを弄る
それにしても友達か
いやな思いでしかないからなけどアルドルフなら抵抗はない
むしろ嬉しくもある
アルドルフには期待してもいいと、信じれるから
「これを、君に」
いつの間にかアルドルフの手には蒼い華があった
「今から用事があってね、出なきゃいけない、だがせっかく来てくれた客に何も持たせずに帰らせるのも忍びないんで、この魔道具〝寂蘭華〟をプレゼントしよう」
「寂蘭華、これは何の魔道具なんですか?」
「別に特別な物じゃないさ、毎日形を変える花だと思ってくれればいいさ。君の能力が少しでも使いやすくなればと思ってね。まぁ私からの粋な計らいさ」
少し僕の方を見た後、アルドルフは手に持っている寂蘭華を急に握りつぶした
普通ならビックリするけど、魔力が見えているから何も驚くことは無い
能力を使い形を変えているのだろうと、そうわかっているから
「花を急に渡されたとしても邪魔になるだけだろう?だから髪留めとしてでも使ってくれると嬉しいな」
簪のような形の氷がアルドルフの手から生まれる
多分僕の髪が長いからくれたのだろう
「つけてあげよう、頭をこっちへ向けてくれ──よしっと、なんだ意外と似合っているじゃないか」
「そうですか?」
「見た目もすっきりしているし、中々……っとすまない。もうそろそろだ」
アルドルフはいそいそと準備をし始めた
もう日が真上まで登っている
意外と長い間いたな……
アルドルフも忙しそうだし、早めにお暇させてもらうか
「それでは、また来ます」
「ああ、今日は楽しかったよ! また是非来てくれたまえ!」
慌ただしい音と共に別れの言葉が聞こえる
自分の準備もあるというのにわざわざ声をかけるなんて律儀だな
小さな笑いが漏れる
まぁいいや、チョーはたぶんまだ寝ているだろうし起こさなければな
さぁ、宿に帰ろう……
書いてたらこの話だけ長くなった……




