価値観が変わる
大きな世界樹の木漏れ日を浴びながらランニングをする。
起きる時間を少し遅くして人のいる時間帯に日課をする。
目を背けてきた景色は活気にあふれている。
人々のみせる表情はどんなものでも幸せがにじみ出ていた。
息が詰まるような思いをしてきたけど、今は空気が美味しい。
すがすがしい気分だ。
最高潮の気分で駆け回っているとある少女の事を思い出す。
朝が弱いって言っていたし早めに起こしてあげた方がいいかな。
そう思い宿に直帰して寝室に行く。
宿にて
「朝だ……よ?」
あれ?いない。
昨日一緒に寝ていた部屋に戻ったが誰もいない
でも靴も全部残っていたから外に行ったとかじゃないと思うんだけど
とりあえずカーテンでも開けて見やすくするか……
そう思いカーテンを開け部屋に光を入れる
「うぎゅぁー」
「うぇ!?」
カーテンを開け光が部屋に入った瞬間、ベットからチョーが生えた
「うぅ、マサミチさぁん眩しいっス。閉めてほしいっス~」
布団の上でもぞもぞと身じろぎしながら懇願する
「もう朝なんスか?でももうちょっと寝てたいっス」
「びっくりしたぁ。まぁそれはそれで……ソイッ」
「うぎゃーーーー!?」
氷の塊を背中に入れ強制的に起こす
夏場とはいえ寝起きに冷たい思いをしたらすぐに目が覚めるだろう
チョーは背中に入った氷の粒を取りだそうとして布団の上でくねくねしてる
「ひどいっス。鬼っス悪魔っス」
「誰が鬼だよ。ほら、おはよう。ご飯、いらないの?」
「うぅ……いるっスぅ」
眠い目をこするチョーの手を引いてリビングに向かう
日課の後、宿の朝の仕込みを手伝ったら朝ごはんをちょっと豪華にしてもらえたし、今日はいい日だ
しょぼしょぼの目でむぐむぐとご飯を食べているチョー
「うまいっス……うまいっスぅ……眠いっス。ふ、布団……」
「また氷入れようか?」
「うぅ、それだけは勘弁っス」
軽口をたたきながら食器を片す
一緒に食べるつもりが早い段階で食べ終わってしまった
とりあえずお皿洗っとこう
「あ、そういえばベットの中から出てきてたけど、それがチョーの能力?」
「そうっス。けど厳密には違うっス。部屋の影の中から出てきたんス。〝影〟がチョーの能力っスから」
「影か……だから夜型なの?」
ソラが言っていた人としての在り方に含まれるのかな?
「関係ねぇえっス。ただ朝に弱いだけっス」
「弱いだけなのか……」
ちょっと違ったか
でもまぁ人間だれしも弱い所の一つや二つあるものなんだな
ちょっと親近感がわく
「頑張って目を覚まして。今日は出かける予定だから一緒に行こうって話だったでしょ?」
「そうっスね。ふわぁ~ぁ、頑張って起きないとっス」
あくびをしながら言われても……
まぁいいか。取りあえず今日の予定は其の二に書いてあったコロシアムに行く予定だ
ソラのガイドブックに挟まってた地図を見る限りだと昨日チョーにあった所から世界樹に向かって進めば行けるらしい
本来なら下層から中層に行くにはお金が必要なんだけど
コロシアムがあるのは無法区
無法区は殺人以外の犯罪がすべて黙認されている場所
だからこそ中層で唯一、下層民が気楽に行ける中層なんだとか
「ごちそーさまっス」
「もう食べ終わったの?早いね」
「いや、ギルとガッシュにも食わせてあげただけっス」
「ギルとガッシュ?」
「チョーの能力から生まれた二匹の精霊っス」
「精霊?」
ケルトとか北欧系の歴史書に書いてある様なのだろうか
というか精霊なんて居たんだ……
「世界樹って生命力が強すぎて溢れてんスよね。その溢れた生命力が空気中にある魔力に影響を及ぼすと、稀に精霊が生まれるんっスよ。チョーのは偶々っス」
「ほえー、そうなんだ」
「ほえーってなんスか。めちゃ間抜けっぽい返事っスね」
ニコニコしながら言っているけど寝ぐせ立ってるんだよな
それにしても空気中の魔力って言うのはなんだろうか
酸素とは別個のものなのかな?
まぁいいか、着替えも選び終わったし大丈夫かな?
「ほら、食べ終わったんならチョーも着替えな」
そそくさと布団に戻ろうとした所を襟首掴んで止める
「ぐえー。やめてっス~」
「いいから早く起きな。……これ何度目のやり取りなの?」
ぐだぐだと時間を使いながら準備をさせる
まさかここまで朝が弱いとは思ってなかったけどゆったり朝を過ごすのも悪くない
皿を洗いながら氷の礫を作ってみる
いろいろやってみて思ったけど氷を遠くに飛ばすには回転させるのが一番効率がいいことに気づいた
正直言うと暇つぶしの的当てくらいにしか使えないけど
「着替え終わったっス。せっかく早く起きたんで早めに出かけませんっスか」
「洗い物が終わったらね。ちょっとだけ待ってね」
「そんな待てねぇっス。ギル、手伝うっス」
チョーの右手が黒く大きくなっていく
「乾かすのも洗い流すのも面倒っス。全部食べちゃえ、ギル」
呼びかけに答えるように大きくなった右手が皿を全部飲み込んでしまった
むぐむぐと租借音が聞こえてくるんだけど時折パリンといった怖い音が聞こえるのだが、あのーチョーさんやこれ大丈夫なの?
「そんな表情しないでくださいっス。ギルはまだ子供の精霊なんっス。堪忍っス」
「わかったよ。……これいつまでもぐもぐするの?」
「もうそろっス。あっほらペッとしなさいペッと」
手の口の部分?から出てきた皿はめちゃめちゃ綺麗だった
三枚ほど割れているのを除くとだけど
後で謝っておこう
「あはは……ほ、ほらもう終わったっスよ。出かけようっス」
割れたお皿をギルに食べさせながら苦笑いを浮かべる
「……まぁいいか。手伝ってくれてありがとね。行こうか」
「はいっス」
コロシアム前にて
「でっかぁ!」
まんまローマのコロッセオの様な大きな建物の前に着いた
すんなり着いた訳ではないけど早めにこれた
お昼前、のはずなんだけどな
「人、多いっスね」
「そうだね」
コロシアムの中から聞こえる声が鼓膜を震わしている
聞こえる限りだと満席でも可笑しくないんだけど……
すっごい列が長い
前の僕なら卒倒してたんじゃないか?
「どうしようか、このままじゃ夜になったって入れないよ」
「仕方ないっスよ、今日大会の決勝らしいっスし、それにここは王都区を除けば根の籠が一番すごい所っス。パワースポットみたいなもんなんでもともと人が多いんスよね」
今日が決勝なのか
ならこの人数もわかる気がする
にしてもこんなに多くの人に期待を掛けられて戦うなんて僕には一生できそうにないや
「マサミチさんマサミチさん」
「どうしたの?」
「マサミチさんは嫌がるかもしれないっスけど入る方法あるっスよ」
なぬ、僕が嫌がるかもだけど入る方法があるのか
嫌がるって言ったって何をするのか来てないから何とも……
まぁ聞くだけ聞いてみよう
「入る方法って言うのは?」
「無理やりっス」
「えーっと?」
「まぁ怒られるって言っても合法何で後で個人的に怒ってっス」
イマイチ分からない
……ギルを出してるけど何をするつもりなんだろう
申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ているチョーはギルを纏った手を肩に置いた
「謝罪は後で、聞くっスよ!」
「え、うわっ!?」
肩に置かれた手の力が強くなり、
僕の身体が地面に〝沈み込む〟
「影方 影の道」
全身に重い水が纏わりつくような感覚に包まれる
光が微かに上の方に見える以外何も見えない黒の世界
初めての感覚に気を取られていると波に流される感覚と共に風を感じた
「吐き出せっス」
「おべっ」
影の空間から吐き出され受け身をとれずに地面にぶつかる
手の表面に氷の膜を創り、顔をぶつけた位置に当てる
滅茶苦茶痛かったし、今の感覚はなんだったんだ?
「ほら、特等席っスよ」
チョーの声に反応するように辺りを見回す
「えっ……」
ここは、コロシアムの縁の上?
ていうかどうやって
「チョー、これって――」
「文句も質問も後で聞くっス。それよりも、これから始まるっスよ。」
視線が会場に向く
どんどん増していく会場の熱
今か今かと待ち望む期待のこもった眼差しがある一点に注がれる
硝子張りのいかにも解説席のような場所の上にある時計の針が、正午を指す
『さぁー!! 野郎どもー!! 準備はできたかー!!』
「「「「「「ぅおおおおおおおお!!!」」」」」」
『さぁー!! 野郎どもー!! 新時代の幕開けをみたいかー!!』
「「「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」」」
『実況席から右手側! 会場の期待と熱を一身に受け、伝説の壁を越え歴史に名を残そうとする者がいる!! 世にある理が一つ、重力を操る者!! 彼を人は天才と呼ぶ!!』
鉄格子の扉が上がり、広い広い砂のリングに、一人の男が入って来る
『昨年、一昨年、絶対的王者を前に立ちはだかり、確かな爪痕を残していった!! その爪痕は、人を期待させるには十分な証だ!! 今年こそ、歴史を変えてやると名乗りを上げ、勝ち進んできた若き天才!!』
リングの真ん中に立ち、 着ているローブに手をかける
実況の熱の籠った声に応えるように宙にローブを投げ捨てる
『特異点の王!! 〝ガルマ・グランベル〟だァァァ!!!!』
「「「「「「わああああああ!!!!!!」」」」」」
かつてないほどの熱気が身体を包む
生唾を飲み込み、いつしか限界ギリギリまで身を乗り出していた
遠くにいても感じる絶対的強者の圧に身体の芯が震える
そして、不思議と笑みがこぼれてしまう
期待しているのだ
これほどまでの圧を放つ強者であろう者を二度も退け、未だ絶対王者としてその栄光を離さぬ者に
『実況席から左手側! 堂々たる威厳を持ち、確かな実力を持つ!! 正に〝皇帝〟と、そう呼ばれるに相応しい者がいる!! 数多の武具を創り出し、未来を切り開く者!! 史実に存在する鍛冶の神がごとく!! 戦闘だけではない、鍛冶師としての実力を併せ持つ男!!』
鉄の格子が豆腐の様に切られ、砂埃を立てて落下する
砂埃の中を、一歩一歩踏みしめるようにリングの中に歩き、入って来る
『何年、何十年、何百年を行われてきた大会!! その中でもまさしく異例! 異例中の異例!! 平民出身の優勝者!! その実力を買われ、何千年と変わりが無かった貴族の末席を掴み取った史上初の人物!』
姿が見えないのに、一歩、一歩、歩くごとに息が詰まる
『歴史上、彼より優れた者はいないだろう!!』
砂埃の中、魔力の起こりが六個
『歴史上、彼の記録を越えた者はいないだろう!!』
砂埃の中、魔力の起こりが形を成す
『さぁ全員で見届けよう!! 新たな歴史の誕生を!! 新時代の幕開けを!!!』
六の剣がある人物の周りに円を作るように地面に突き刺さる
そして新たに、人影の前に一本の剣が刺さる
両の手にしっかりと握られている柄
新に刺さった剣は砂埃の中でさえその輝きをいかんなく発揮する
地面に刺さった光が引き抜かれ、砂埃が晴れる
西洋の騎士の様なポーズだ
胸の前で天に突き立てられた黄金の剣は、歓声に応えるように綺麗に光る
『六冠皇帝!!! 〝アルドルフ・グラドーワ〟だァァァァ!!!!!』
「「「「「「わああああああ!!!!!!」」」」」」
「さあ、新時代の幕開けと行こうか、ガルマ」
「はっ、言ってろ。お前を下し、歴史に名を刻むのは俺だ。アルドルフ、お前じゃない」
二人の男が向き合うように立つ
『それでは!! 試合!!! 開始!!!!!!』
実況の声と同時に、二人の男はぶつかり合う。
無法区なので能力使っても基本はお咎めなしです




