ちょっとした観光
僕の涙が枯れるころに宿に着いた
僕が走った距離はすごい距離らしく、宿のほぼ真反対の場所だった
そういえばソラの旅行ガイド?に書いてあったコロシアムは中層の丁度あのあたりだったんだろうか
まぁそんな事より今はチョーの事だ
「うわぁ……いい宿に泊まってるっスね。羨まっスわ」
辺りを物珍しそうに見渡すチョー
「チョーの住んでるところ灰落街って言う下層で一番人がいない町なんスよね。なんで、こんな人がいっぱいいるの新鮮っス」
「チョーも僕の部屋に入る?多分もう一人くらいなら問題ないと思うから」
野宿するよりかは何倍もマシだろう
それに歩いて宿まで帰ったから辺りはすっかり日が落ちて暗くなっている
独りで帰るより一緒にいた方がいいだろう
僕としても何か恩返しがしたいしね
「ええ!? いいんスか?やったっス。嬉しいっス」
飛んだり跳ねたりして喜びを表現するチョー
なんでも布団で寝ること自体久々なんだとか
「コレは僕なりの感謝だよ。チョーのおかげで心にあった靄が晴れたからさ」
「それは良かったっス。野宿はもう勘弁っスから」
野宿かぁ、僕も経験あるけど冬が特にキツイんだよな
けど、キツさを知っているからこそイメージしやすい
だから相性が良かったのかもな
あっそういえば
「何か食べたいものない?お金あるから食べに行けるよ」
「ホントっスか!? マジ嬉しいっス。肉っス、肉食べたいっス」
「わかった。近くのお店でいい?あの酒池肉林~極楽世界~って所でいい?友達にオススメされててさ、僕も行ってみたかったんだ」
「ひゅー! サイコーっス!」
見えない尻尾がブンブンと風を切ってるような、なんていうかテンションがすっごく高い
でも喜んでくれているのなら何よりだ
店内にて
店に入った瞬間とクラッと来る
今にも胸焼けしそうな肉と油のにおい
酒を飲んだ大人たちが美味しそうに幸せそうに肉を食べている
「うひゃ~♪いい匂いっス。テンション上がるっス。店員さーんあの人が食べてるのと同じのくださいっス」
「あ、じゃあ僕も同じのでお願いします」
言った直後に後悔した。
チョーの指さしていた肉は僕の腕ほどの長さで僕の胴体ほど太い肉だったから
気づいたころにはもう遅く、すでに料理が運ばれてきていた
全部食えるのかな、なんて心配しつつもお昼ご飯が食べれていなかった僕のお腹は獣の唸り声の様な音を立てて空腹を主張している
目の前に置かれた食事を前にかぶりつきたくなる衝動を抑え、一節を唱える
日本にずっと昔から伝わる礼儀の言葉
「「いただきます」っス。」
できる限り大きく口を開けかぶりつく
あふれんばかりの肉汁が口の中を満たしていく
見た目とは裏腹にすっきりとした油が堪能し終えた肉を綺麗に運んで喉を通る
今食べたっていうのに満たされるどころかどんどん食欲が湧いてくる
「「うんまー!!」」
一心不乱に肉を堪能した
多いと思っていたが絶妙な味付けと重くない油が食欲を刺激し続けもう一ついけるんじゃないかと思えるような感覚と最高の満足感が身体を満たす
やみつきだ、中毒性がある
でも正直また来たい
「マジ感謝っス。マジリスペクトっス。一生ついていくっス」
満足そうにおなかを撫でるチョーを見ていると少し笑顔がこぼれた
僕からのささやかな恩返しはうまくいったようだ
そうしてアルベリから貰ったお金で店を出た
「さっきの店員さんおもろかったっスね」
「僕もびっくりしたよ」
アルベリから貰っていたお金の入った袋を渡してみたら悲鳴を上げて倒れてしまった
僕も確認してみたけど木彫りの刀が置いてあった
無事に会計自体はできたけどあれ何だったんだろう
「とりあえず部屋に戻るから、ついてきて」
「了解っス。どんな部屋なのか楽しみっス」
談笑しながら宿に向かっている
だが話に夢中になっていたせいで人にぶつかってしまった
「あっすいません。よそ見していて」
ぶつかってしまった男はひょうひょうと笑う
「俺もすまねぇな。周り見てへんかったわ」
夜の闇の中ですらはっきりとわかる深紅の髪が揺れる
「最近は物騒やからな。気を付けておかな痛い目見るで?」
「そうっスか?今まで通り平和そのものだと思うっスけど」
「今はな。もうじき祭りやから」
特徴的なギザ歯を見せカッカッカと笑う
「おい、火花。余計なことを言うな。もう行くぞ」
連れの男に声を掛けられ肩をわざとらしくすくめる
「ヘイヘイ。ファラドーさんはお堅いねぇ。じゃあな、少年。人生謳歌しよーぜ」
カランコロンと下駄特有のな足音を鳴らしながら去っていく
「祭りってなんスかね?下層で祭りなんてそうそうないんでチョーも知ってるハズなんスけどね」
「そうなんだ。ていうか今の人多分純人だと思うよ」
「そうなんスか?」
「うん。下駄をはいてたからね」
本物は見たことなかったけど
多分あれは日本特有のものだったはず
「それよりも祭りか。参加してみる?」
「いいっスね。賛成っス」
祭りが始まったら何をするか、どんなものを食べるかを話しながら部屋に戻った
「お邪魔するっス~。うわ、なんスかこの状況」
完全に忘れていた
水浸しのまま放置していた部屋を
多少乾いているが所々に水溜まりが残っている
「……片付け手伝うっス」
「……ありがとう」
申し訳ない気持ちでいっぱいだが背に腹は代えられないのでチョーに手伝ってもらうことにした
「にしても何をどうやったらこうなるっスか?」
「調子乗って能力使って、消し方わかんなかったから能力で溶かしてたら倒れちゃって。それで……」
「もしかしなくてもマサミチさんポンコツっスね」
辛辣な言葉を受けつつも片付けを終わらせ寝る準備をする
「チョー寝起き悪いっスけど大丈夫っスか?」
「問題ないよ。日課が終わったら起こすから安心して」
「感謝感激槍の雨っス」
他愛もない事を離しながら布団に入る
「誰かと寝るのなんて久しぶりっス」
「僕も。なんかちょっと楽しいね」
「そっスね。おやすみなさいっス」
「うん。おやすみ」
いつもよりはるかに軽くなった心は体をリラックスさせる
目をつぶる前に傍らにいる少女に目を向ける
偶然が生んだ奇跡に感謝しよう
母さん、僕成長できたよ
そっちで誇れる最高の息子になる
見ててほしい、今度は何も諦めないからさ
木彫りの刀(世界樹の枯れ枝)は大体日本円にして一億以上の価値が……




