運命の出会い
「なんで僕は死んでないんだ?」
薄暗い森の中で佇んでいる少年はつぶやく。
現状を理解してもなお意味が分からない。
(僕は確かに首を切ったはずなのにどうして……?)
喉を触ってみても出血どころか傷すらない、忌々しい僕の心臓は確かな鼓動を繰り返している。
それは僕の命が確かにそこにあることを示している。
森の木々の間を通り抜け、木の葉を運ぶ風が僕の身体を冷やしていく。
僕の手元には先ほど自分の首を切ったナイフがある。
母さんの、形見だ。
握った時に感じる冷たくも触り心地のいい革の感触がひどく寂しく感じる。
「……どうでもいいな、もうどうでも。」
そう吐き捨てた僕の瞳に希望などない。
世界に絶望し〝人間〟に絶望した少年はとうに生きる気力を失っていた。
そうして僕は首にナイフを当てた。
一刻も早く何も考えなくて済むように、天国にいるであろう母親に再び会う為に。
『ヴォォォォ!!』
森の木々に反響して、遠くから聞き覚えのない雄叫びが聞こえてきた。
家の近くの山にいた野犬の唸り声とは似ても似つかない恐ろしい声。
「なんだ? 今の鳴き声……」
でも僕には関係ないな。
そう、思っていたのに……。
自分の思いとは裏腹に、僕の体は鳴き声のした方に歩みを進める。
なんでこんなことしてんだろう……。
無意味な自問自答を繰り返しぽつりぽつりと歩いていく。
あんなに興奮した動物の鳴き声は初めてだ、縄張り争いでもしているのだろうか?
そんなことを考えながら歩いていると森の中を二つの影が駆け抜けていく。
互いに速度は引けを取っていない。
言わば膠着状態のようなものなんだろう。
しかし不意に影のうちの一つが体勢を崩した。
その影は動物のような影ではなく、人の形をしていた。
人がいるのか、と思い影のほうに向かった僕の目に映ったのは、頭には角が生え、牙が異常なほど発達しているオオカミのような化け物が女の子を襲っている所だった。
女性は怪我をしているらしく足から血が流れていた。
(ああ、あれは助からないな、あの変なオオカミ、凄く興奮している。あの子を餌としか思っていないな。)
あの人はもう助からない、死ぬんだ……。
そう思っていたのも束の間、オオカミのような化け物が女性に飛びついていた。
ブシュッ!
目の前が真っ赤に染まった。
目と鼻の先にオオカミモドキの毛が見える。
ああそうか、僕は女の子を助けるために……。
とっさに伸ばした左腕を容赦なく牙が貫通し腕の肉が貫かれる感覚がそのまま痛みとして脳に伝達された。
今までに感じたことのない激痛が意識を失うことを許さない。
獲物を狩ることを邪魔されたオオカミモドキは血走った目で僕を睨みつける。
痛みでまともに考えることのできない脳は、今まで蓄積された知識から最適解を生み出す。
奥歯を噛み締め、手に持っていたナイフでオオカミモドキの目を突く。
「ヴァォォォォ!?」
生き物を刺す感覚が全身に不快感を与える。
オオカミモドキは目を刺されたことでひるんだのか、腕に刺さっている牙で腕を切り裂き、森の奥に消えていった。
オオカミモドキが森に消え、緊張の糸が切れたのか僕の意識は暗転していった。
「……すか!? …かり……く…さい!! ……様!?」
かすかに聞こえたその声が女性の無事を示していた。
あぁ良かった、無事……なんだ……。
そこで完全に僕の意識は途切れた……。




