よーいドンの合図
マサミチが連れ去られた後、ソラ、グレイ、アルベリは誘拐者を追うために外に出ていた
時間は昼下がり、木々の間からさんさんと太陽が照り輝いていた
大きな斧を軽々と持ちながらアルベリが問う
「追うって言ったはいいが、こっからどうするよ。俺もグレイも探すのは得意じゃねぇぞ?ソラ、お前の能力だって捜索向きじゃねぇ。どうすんだ?」
アルベリの問いはもっともだ
私は支配系の植物操作だし、あの二人も概念系と変化系
捜索に最も向いているとされるのは変化系だけど、グレイのは支配よりのだからきびしい
けど、
「任せて。策はあるの。ちょっとだけ時間を頂戴」
そう言いながら地面に手を触れる
ソラは手に魔力を込めて呟く
「芽吹け。新しい命。〝開花〟」
近くに生えている木からポンっと音がした
音のした木には不自然な位置に新しい芽が生えている
「やっぱりね。足跡が残らないように木を使って移動したっぽい」
音のした方を指さしながら言葉を続ける
「木を飛び移りながら移動したんなら少なからず木が傷ついてる。だから傷んだところを治したらどっちに行ったかわかるって考えたんだけどあってたみたい」
ソラの言った通りそこら辺の木からどんどん道を作るように真新しい芽が出てきている。
「やっぱすげぇな。つってもこの森結構どころじゃないくらい広いだろ?魔力大丈夫なのか?」
「問題ないよ。言ってなかったっけ?この森、全部私の魔力でできてるから」
サラッと言っていい内容じゃない事を言いやがった
「嘘だろ?この範囲は流石に……」
規模が規模だ
中層の二区画分の広さはあるぞ
姉貴でもこんな芸当出来ない
「無理じゃないよ。種や苗を創るのにそんなに魔力いらないからさ」
そういう物なのか、とアルベリは納得する
種も仕掛けもない訳じゃなくて種があったのか
「だからこんなに魔力濃度が高いのか。でもよ、雑多な奴らじゃこの魔力に充てられて近づけねぇけどよ。神獣の住処にお誂え向きじゃねぇの?」
「そうだね。現に私は一回襲われてるしね。マサミチ君が助けてくれなきゃ死んでたかも」
もちろん死ぬ気はさらさらなかったからね、とシャドーボクシングをしながら言う
そんな中恐る恐るグレイが口を開く
「もしかして、神獣を攻撃してしまったのですか?」
今まで黙っていたグレイ口に出して心配するのには訳がある
神獣、すごく昔にあった戦争、そこで今私たちのいるユグレシア王国の勝利に一躍買ったのが神獣の始祖だったといわれている
それ故に神獣に危害を加えることは死罪とされている
グレイが心配する理由には十分だ
「まぁ、うん。やったよ。目にさ、ナイフをこうグサッと刺してたよ」
「はっ!! 大物だな。やるじゃねぇか。」
「何を呑気なことを言っているのですか。死罪ですよ?神伝師は神獣の考えを理解できるんですよ?知らぬ存ぜぬで通せるものではありません。」
呑気に笑う二人に只ならぬモノを感じながら心配する
「あの陰気臭い連中が何言おうが信じる奴なんていねぇよ。心配すんな」
「ですが……」
いつものように頭をワシワシと撫でられ、口ごもっているグレイ
顔赤くしちゃって
アルベリ(鈍感クソボケ)が早く気づけばゴールインまで秒読みでしょうに
「ほら、いつまでもやってないで早く行こう。マサミチ君は純人族だから、もしかしたら奴隷市に売られるかもしれない。そうなる前に助けるよ」
そうして走り出す
目印を頼りに、マサミチのもとへ
少し後
「大体ここら辺っぽいね」
連れ去った奴の目的が分からない以上警戒するに越したことはない
アルベリはこんなでも有力貴族の跡取りだし、私は……
そんなことを考えながら森の奥へと進んでいく
「そろそろ着くかも。グレイ、アレ頼める?」
「任せてください。囲え、蜘蛛の庭」
グレイの手から数えきれないほどの数の糸が広がっていく
二秒ほどたった時にグレイがぴくっと動いた
ドーム状に広がって行った糸に何かの反応があったのだろう
「見つけました。ここから左の方向にそれなりに移動した先に大きな建物があります。人の反応は五、いや六います」
「おっけー! ソッコーでかち込もうぜ。ひっさびさに暴れてやる」
「あんまり油断しないでよ。能力持ちいるかもなんだからさ」
慎重になるに越したことは無い
アルベリやグレイの実力を疑っている訳ではない
時と場合によってはどんな強者も、どんなに優れた能力、技術を持った人も死ぬのだ
「はいはい。わかって――」
アルベリの言葉を遮るようにして銃声が響く
聞きなれない音に三人の身が一瞬硬直するがすぐさま行動を起こす
グレイは先ほど展開した〝蜘蛛の庭〟を使い狙撃手の位置を特定する
ソラは森に魔力を通し建物までの視界を開く
アルベリは目に魔力を集中させ、銃弾の位置を補足する
斧を構え、息を少し吐く
「おっっっせぇ!!」
手に持っていた斧を弾めがけて振り下ろす
時速約千三百キロの弾は地面に当たることなく斧に粉砕された
地割れを形成した斧を抜き、攻撃に備えるように構える
「はっ!! 相手やる気満々じゃねぇか。テンション上がるぜ」
ソラが森を開いたことで狙撃手の姿がはっきりと見えた
「あそこか。よっしグレイ。乗れ!!」
斧の面を横に傾ける
アルベリの狙いをすぐさま理解し、斧に飛び乗る
「行ってぇこぉぉぉぉい!!」
グレイを狙撃手の位置に向かって思いっきりぶっ飛ばす
ハッキリと目標をとらえながら
「はぁ!?」
アキラの打った球が着弾する前に叩き壊された
魔力を込めて作った弾は鉄製の物よりもはるかに硬いはずなのに
ていうかなんで弾を正確にとらえて壊せるんだよ
「どうしたんですか?」
後ろにいるマサミチは不安そうにこちらを見つめている
下手に嘘ついても仕方ないしな
「やべぇ奴が来た。わざと外して撃ったにしても時速千キロは優に超える弾をたたき落としやがった。しかも位置もばれてやがる」
自分で言ってて悲しくなるほど状況が悪い
焦りながらももう一度相手の方を見る
「ん?何やって……。ッ!? まずい……」
相手の思惑が瞬時に理解できた
オレだけじゃない、あいつらまで危険になる
「〝創水晶・伝〟」
魔力を通し作った結晶を床の木に埋め込む
『総員、詳しい事は省く。取り敢えず』
渾身の力をもって叫ぶ
『しゃがめっ!!』
細い細い糸が、硬い壁をいともたやすく切り抜ける
今さっきまで身体があったその場所を鋭利な糸が通り抜ける
今聞こえたのは技の声だろうか
「撫で切れ、蜘蛛結び」だと?
あれで撫で切るなんて解釈ならオレらの防御なんて濡れた段ボールを割くより簡単に切られる
住み慣れたアジトはあっという間に輪切りにされた
咄嗟に庇ったせいでマサミチは頭を打ってしまったが意識はある
一撃で終わるわけがない、と次を警戒しながら部屋から出る
もちろんマサミチも連れていく
危険な場所にガキ一人おいていけるかよ
「走れ‼ ボス達の所に行くぞ。一人より二人、二人より三人だ!」
変な切られ方をしたせいで開かなくなった扉を蹴破り、外に飛び出す
ボス達のいる大広間に向かおうとする
その瞬間、全身に嫌な予感が駆け巡る
ただ、周りに魔力反応はない
四方八方を警戒するけどそれらしいのは見えない
ただの嫌な予感だ、とそう思った時にマサミチが話しかけてくる
「なんか下の方に違和感あるんですけど。この光って何ですか?」
「あ?」
マサミチに言われ床を見る
床、と言うよりは地面から魔力の光が漏れ出ている
やばいと思った瞬間思いっきりマサミチを上に放り投げる
直後、真下から大量の尖った根が床をえぐりながら出てきた
全魔力防御に回してもなお傷を負った
幸いあまり深い傷はできなかったが足場が乱されたせいで踏ん張りがきかない
あークッソ判断ミスった
結晶柱で二人とも上にいっときゃよかった
後悔しながら上に投げたマサミチをキャッチする
足場が悪い中、先に進もうとすると轟音が聞こえてきた
大広間の方からだ
嫌な予感がする
「オイオイどーした!! そんなもんかぁ!?」
聞きなじみのない声、さっきの大男か
うちで近接バリバリにできるのはボスとシンジ、うちで最強なアカツキくらいだ
今、アカツキが仕事でいないのが悔やまれる
だが流石にあの男には分が悪そうに思える
「どっせーい!!」
その間も音は鳴りやまない
早く加勢しないと
焦りに突き動かされ大広間の戸に手をかける
扉を開いた先にはボロボロの仲間たち
たった一人に三人がかりでも負けたのか
ウツミは部屋で籠ってるのか?
「おっ。追加きたな。」
土煙が舞い上がり視界が悪い
腕があるときは近接も全然できたんだが、今は流石に無理だ
それに足場も悪い
瓦礫や土が散乱している
足元の悪さが戦いの激しさを物語っている
「さてと、お前は強い事を願っとくぜ。まだまだ不完全燃焼なんだよっ」
アキラの背丈ほどの大きさの大斧を片手でひょいと持ち上げ、すさまじい勢いで突進してくる
待ったなしか
「〝創水晶・盾〟!!」
馬鹿正直に突っ込んできてる
その勢いだけの突進、止めてやる!!
「やっぱ引っかかってくれるよなぁ!!」
突進の勢いをすべて斧に乗せて振り下ろす
その一撃はいとも簡単に結晶の盾を粉砕する
完全に油断していた
もし攻撃が止められずとも、威力を落とすことくらいはできると慢心していた
大男の振り下ろす斧にはオレの能力壁なんてなかったかのように迫りくる
あっ死んだ。とそう悟るのには十分すぎる一撃だった
その斧は俺の体を真っ二つに
することはなかった
死を悟ったときに瞑った瞼を開ける
そこには少年がマサミチがいた
大男の斧はアキラから少しそれた位置の地面を破壊している
状況が呑み込めてきた
マサミチはアキラを庇ったのだ
大男は急に出てきたマサミチに驚き斧をそらしたのではないか、と
だが実際は違った
目の前でアキラが死にそうになった時、マサミチは能力を使い大男の斧を逸らしたのだ
ただ、数か月前まで能力どころか魔力のない世界で過ごしていた、そんなマサミチが創った能力壁は不完全だった
だが、不完全だったからこそアキラの命を救ったのだ
形は歪で中はスッカスカの氷の塊
真正面から斧の一撃を喰らっていればアキラの能力壁のように砕かれていた
歪な形の氷の塊は斧の切っ先を滑らせ軌道をずらした
それでも不完全なものは不完全
焦って庇った時、勢い余ってずらした軌道に手が入っていた
能力壁を簡単に粉々にする威力に、手はなすすべなく切り落とされた
マサミチは声もなく切れた手を抑えうずくまる
「マジか。おいマサミチ大丈夫か?」
腕を抑えるマサミチに大男が駆け寄る
「すまねぇ。お前までいるとは思わなかった」
傷を見て顔をしかめながら服を破り傷口に当てる
「おーーーい!! ソラーーーーー!!」
大声で人を呼んでいる
きっと治療ができる人間なんだろう
大男の対処は正確だ
対する私は腰が抜けて動けない
明確に死を感じたのはテロの時以来だ
助けてくれたマサミチが苦しんでいるのに何もできない
悔しさに歯がゆい思いをしていると、二人の女が来た
二人とも先ほどスコープ越しに見た女だ
金髪の女の方はマサミチを見た瞬間血相を変えて走ってきた
大柄の男と少し話した後、顔面に回し蹴りしてた
すっげぇ勢いでオレのすぐ横辺りに吹き飛んできた
それでも何事もなかったかのようにガラガラと音を立てながら瓦礫の山から出てくる
バケモンがよ
心の中でそう憎まれ口をたたいていると大柄の男はオレが腰を抜かしていることに気づき手を差し伸べてきた
「すまねぇな。昔っから状況を見る前に手ぇ出しちまうタイプだからよ」
差し出された手を使い、静かに起き上る
マサミチの方を見ると、金髪の女と話してる
あっ、チョップされてる
頭を押さえてるマサミチを横目に、金髪の女がこちらに向かってくる
「さて、貴女がボスよね?いろいろと話聞かせてもらうよ」
……あ?
何を言い出すかと思えば、
「いや、ボスは俺じゃねぇ。あそこでノビてる空色の髪のやつだ」
「えっ。本当?」
「ああ、嘘偽りはない。」
金髪女はその言葉を聞いた後ええっと頭を抱えて悩んでいる。
それにしてもあの大男強すぎるだろ
アカツキを抜いたらボスはオレらの中なら一番強いのに……
それにオレらと戦い方の相性が悪すぎだ
能力主体で戦うやつに対して耐久力と勢いでゴリ押してくるタイプは戦いずらい
だからって言い訳はしないけどな
それにしてもどういうことだ?
来てた話といろいろ違う
新しい純人が現われて、そいつが辺境の地で現地民にボコボコにされてるって、そう聞いたんだが……
マサミチとほか二人の絡み合いを見ていると、年相応の友達のように見えてくる
おおよそ分かったが、なるほど。
デマを流されたのだろう
もっとも、ボスの能力に嘘は通じない
情報を流した本人は百パー善意で言ってたんだろうな
情報の行き違いが起こした事故みたいなものなんだろうか
こっち側からしたら異世界の洗礼を受けている同胞を助け出したって感じだが、相手側からしたら仲良くしていた友人が急に人さらいにでもあったようなもんだろう
ミレイもボスも判断を早まったみたいだな
はあまったく……ひどい目にあったもんだ
ただ、なんとなくこっからの日々は忙しくなりそうな、そんな予感がする




