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私は、二人に謝りたい……

酷い表現を使っているので気を付けてください。

 体が重い……

 起きてすぐに思ったことはそれだった

 疲労が抜けきっておらず体を起こすことすら億劫だった


 重い瞼を開け日の光に目を慣らす

 決して澄んでいるとは言えない空気を取り込み脳を起こす

「んぅ~」

 凝り固まった身体を伸びでほぐす

 完全に目が覚めた頭で今までの情報を整理する


 未だに外からは以前として焦げ臭さが漂っている

 けれども助けを求める声や悲鳴はもうどこにもなかった

 後に知ったのはこのテロがたった一人の手によって起こされた物だったという事

 円城エンジョウ 火花ヒバナによる 無差別同時爆発テロ(史上最悪のお祭り騒ぎ)と、そう呼ばれる事件

 オレが死ぬ前くらいに犯人が捕まったらしいがなんでテロを起こしたか、その真相は誰も知らねぇ

 本人以外に知る由はなかったしな

 そんな背景とは裏腹に空に浮かぶ太陽はさんさんと照り輝いていた


「アキラ。」

 ぼうっとしていたオレはいきなり声をかけられた事にびっくりしてベットから落ちる

「っ痛ぅ。……ってヒビキ!?」

 めちゃくちゃ笑顔でこちらを見てたのを覚えている

 あの時は完全に虚を突かれたせいで腰が抜けたっけな?

 そんなオレを見てさらに笑顔になるヒビキの顔

 無事でよかったと安堵したのも束の間あることに気づいた

「ヒビキ……。」

「ははっ。そんな弱弱しい声初めて聴いたぜ? 心配すんなよ。俺は大丈夫だからさ。」

「大丈夫じゃないでしょ……。」

 〝車椅子〟に乗ったヒビキは気まずそうな顔をしていた

「もしかしなくてもオレを庇った時の傷か?」

 無言のまま目をそらす

 すぐにわかる

 数年とはいえずっとずっと一緒にいたから


「答えてくれよ。なぁ……。」

 気まずい空気が辺りを満たす

 二人きりの病室は誰もいないかのように静かだった

 その間もずっとオレはヒビキの目を見ていた

 正直なところ罵って欲しかったんだと思う

 全部全部オレのせいにして罪を背負いたかった

 オレと違いヒビキは何年も努力してやっとこの職に就いたのだ

 子供のころからの夢

 ずっと続けていたい仕事

 でも、もうその足ではできないから……

 大好きな人の大切な夢を壊してしまった

 その罪悪感を〝罪〟と言うもので覆い隠し目をそらしてしまいたかった


 誇りもやる気もやりがいも全部オレにはなかったもの

 そして、全部ヒビキがくれたものでもある

 沈黙が続くごとに自責の念が心を蝕んでいく

 重い空気の中、ひょうひょうとした口調でヒビキは喋る

「あのな、アキラ。俺はお前を庇ったことを後悔しちゃいない。それだけは先に言っとくぜ?仕事を続けられないってのもな。ずっと前に言ったっけな?この仕事子供のころからの夢だったって。それならさ、何にも問題はないってもんだ。人を助けた名誉の負傷だぜ?誉れだろ。」


「誉れだろって……。」


「そうだよ。それにオレは別に完全に歩けないってことはない。走ったりはできないけど歩いたりはできるんだってさ。リハビリ頑張ればな。」


 こんな時も優しい……

 オレに罪を背負わせてくれない

 やはりヒビキは私にはないものを持っている

 そんなところが、私にはないところが堪らなく好きだ

 そんなことをこんな時に……最低だな私は、

「……ヒビキ。」

「なに?」



 待て

「あのさ。」



 今ならまだ止まれる

 そんなこと今言って何になる

 現実から目をそらし逃げようとしているだけだ

 何の意味もない

 拒絶されるだけだ

 頼む、止まってくれ

「オレと、私と結婚してくれ。」

「え?」


「ヒビキの怪我の事を言い訳にするみたいになってしまうかもだけどそうじゃない。今言う事じゃないのもわかってる。オレは、私はずっとお前の事好きだった。私がガキだったから言い出せずにいたけど。……あーくそっ。回りくどいのはなしだ。ヒビキ、私がお前の足になる。私が一生支えてやる。だからさ───」

「ちょちょちょちょっと待て。一回落ち着け。な?」


 テンションが変になってたから前のめりになりながらぐいぐい詰め寄ってた、正直言ってあの時のオレは正常じゃなかった。

 焦りに焦ってめちゃくちゃ早口だったし。


 それに告白なんて初めてしたから勝手がわからなくて、精一杯言葉を紡いで何とか想いを伝えようとしてたのを覚えてる。

 

 赤くなったヒビキが気難しそうに首をかく

「というか。そういうの言わせるのは違うっていうか、俺の足になるとかさ、そういうの関係なしにさ。俺もアキラの事好きだから、そういうのは俺から言わせてよ。」

 あまりにサラッと言われた〝好き〟と言う単語

 あまりに破壊力のある言葉に頭が真っ白になった

 それでも時間もヒビキも待ってくれやしない

「だからさ、俺と結婚してくれませんか。」

「み”ゃっ!?」

 顔から湯気どころか炎が出たんじゃないかってくらい顔が熱い

 でもその熱はどこか心地の良い熱だった

 うれしかった

 相思相愛だったことも、何もかも

「後悔したって遅いから。言質とったから!」

「ああ。後悔なんてしないさ。」

 そっからはずっと泣いてた

 笑いながらずっとずっと泣いていた



 テロの復興が終わり日本に帰ることができたのは一か月後だった

 まだまだ若かったしお金もなかったから静かに二人だけで結婚式を挙げた

 オレは後遺症もなかったし比較的軽傷だったからすぐに現場復帰した


 なんというか、ヒビキのいない職場での仕事は少し空虚なものだった

 それも長くは続かなかったけど

 子供を身ごもったことによる寿退社

 職がなくなったせいでヒビキに頼りっきりになってしまったのは申し訳なかった

 ヒビキは辞職してからすぐにオンラインでできる仕事を探し就職していた

 危険に身を置かない環境に最初はムズムズしたけどすぐになれた


 そうして二十七の頃に子供が生まれた

 名前は 鈴金スズカネ 真護シンゴ

 とっても元気な男の子だった

 病気とかも特になかったし苦労もなかった

 育児は大変だったけどどんどん成長していくわが子を見るのは楽しかった


 ヒビキも積極的に育児に参加してくれて負担が減ったことで割と苦労はしなかった

 流石に夜泣きとかは堪えたけど……


 二十八歳の時、無差別同時爆発テロの経験者としてテレビに出ることになった

 あの日は結構夜遅くまで撮影があった

 帰えるころには辺りはもう真っ暗で街頭以外の光がない夜の世界だった

 帰宅途中、商店街でやっていたケーキ屋でサプライズのためにケーキを買った

 ずっと忘れていない、お互いが気持ちを伝えあった日だからせめてすこしでもお祝いをしようっておもって

 でもまさかこの事を後悔するとは思ってなかったけどな……



 二人とも喜ぶだろうなとヒビキとシンゴの笑顔を想像しながら家に帰ってた

(ん?焦げ臭い匂いがする。どこからだろ?)

 帰る途中でそんな違和感を感じた

 家に近づけば近づくほど焦げ臭さが鮮明に感じれるようになった

 焦り、何か嫌な予感が身体中を駆け巡る

 自然と早足になって帰った

 あと一つ曲がり角を曲がれば家に着く

 この不安が杞憂であることを強く望みながら曲がり角を曲がった





 オレはひどい勘違いをしていたようだ

 ずっとこの幸せは続くって

 事故も何もなく平和に暮らせるって

 勘違いしてたんだな


 轟轟と燃える家

 テロの時感じた〝なにか〟が焦げる匂いが鼻を通る

 手に抱えていたケーキは手からすり抜け地面に落ちる

 野次馬が集まりスマホ片手にニヤニヤとしながら動画をとっている

 今思えば正気の沙汰じゃない、ふざけんなって思うわ

 でも、そんなことにもまったく気にならなかった

 半ば放心しながらも家に向かっていった

 燃え盛っている家の熱にもドアノブに伝わっている熱も何も感じなかった

 後ろから聞こえる静止の声も聞こえないくらいには焦ってた

 この不安が現実になってほしくない一心で扉を開ける

 密閉された空間から解き放たれたように炎がオレを包む

 それでも足は止まらない


 ヒビキの自室

 扉が熱で歪み開かなかった

 ほかに手段もなかったから扉を蹴り壊した

 できる限り破片が飛び散らないように


 目に映る光景は目を覆いたくなるほど凄惨で絶望的だった

 ああ神様、どうして、どうして

 どうしてこんなことに……





「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?! なっなんで、どうして。いやっ、ダメだよ。そんなことって。嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘。」

 錯乱、その言葉そのものの様な状態だったよ

 いたるところが焼け、せめてこの子はと、シンゴを庇うように抱き、床に倒れているヒビキ

 その体からは命ある者の動きが消えピクリともしていない



 目の前が揺れる

 涙があふれる

 すでに死体となった最愛の人を抱き絶叫する

「……おかあさ……あついよぉ。」

 ヒビキの腕の中にいるシンゴの声が微かに聞こえた。

 いろんな場所にやけどの跡が見られ今にも死んでしまいそうな、そんなシンゴは母のいる方に必死に手を伸ばす


「シンゴっ!!」

 伸ばされた手をひしと抱く

「お水……喉、乾いたよぉ熱いよぉ……お、み……ず。」

 そう言い終わった直後、握った手からは力が抜け落ちる

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!」

 喉が焼け、すでに声など出せないような状態でもなお声が出る

 絶望が形を得るような、そんな感じだった




 ずっと謝っていた

 自らの命尽きるその時まで

 早く帰らなかったことを悔い

 肝心な時にいなかったことを悔い

 目の前で死んでしまった息子に何もしてやれなかったことに悔い

 徐々に徐々に死んでいった

 その間も涙と懺悔だけは尽きることはなかった

(謝りたい。謝りたい。もう一度生きてる二人に……。)


 色づいていた日々が、色鮮やかな日常から、色が失われていく……

 もう二度とその色が戻ることはない

 最高で最悪な過去

 忘れたいようで忘れたくない

 消したくても消せない

 矛盾を抱えた世界に一つだけの記憶

 忘れずに、一生を掛けて苦しむ

 それが、贖罪になることを信じて 


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