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攫われたお姫様(マサミチ)

「───んえ!?」

 目が覚めると縄で縛られていた。

 なんだここ?

 身じろぎ一つできない状況に顔をしかめながらあたりを見回す。


「おい。目の前に人がいんのに辺りを見回すたぁどう言うこった。」

 声がしたことに驚き前を向く。

「おーおー、やっとこっちむきやがったか。」

 でかい……。

 最初に思ったことはそれだった。

 目の前にいたのは褐色肌で額に傷のある男だった。

 ……あれ?靄が、ない。

「誰……ですか?」

「おいおい、ニホンジンってやつなんなら自分から名乗れよ。」

 へ……?

 日本人って言ったのか? 今。

「ばーか。そういうことならアンタから名乗りなさいよ。」

 大柄な男の頭がぺチンと叩かれる。


「ボスぅ。なにすんだよ。」

 大男は頭をさすりながら後ろを振り向く。

「ごめんね。こいつ見た目厳ついけど、いいやつだから。誤解しないでね。」

 大柄な男の後ろから綺麗な空色の髪の女性が姿を現す。


(この人もか……。)

 警戒を解いてるわけでもない。

 それなのにあったばかりの人たち、それに先ほど僕をここに連れてきた人を含め靄が誰にもかかっていない。


「あー、そんなに警戒しなくてもいいよ?危害を加えようとか、そういうんじゃないから。」

 柔らかい笑みを浮かべ手をひらひらと揺らす。

「は、はい。」

 もう何が何だかわからない。

 知らないところに知らない人たち。

 何なんだこの状況。

 わかりやすく困惑の表情を浮かべる僕を一瞥し、男が話す。


「ボス。こんないかにもなよなよしてる弱っちそうなガキ、俺はあの予言に関係する奴だとは思わない。純人なのはわかるが。」

「そう?私はそう思わないけどな~。」

 マサミチは聞き覚えのある声がした方を向く。


 目が合う。

「お前には今話しかけてねぇよ。ミレイ、お前は黙っとけ。っち。頭の悪さは兄貴譲りか?」

 ミレイと呼ばれた女は、やれやれと肩をすくめマサミチに近づいてくる。

「シンジくぅ~んそんなにカリカリしてると彼女さんに愛想つかされちゃうかもよ?」

「……あ?てめぇ。」

「ん~やる気~?ちなみにアンタから喧嘩打ってきんだからぼこぼこにしてもボスに泣きつかないでよね~」


 一発触発の雰囲気。


 ミレイの方は表情は笑っているように見えたが明らかに不機嫌そうに見えた。

 シンジの方はポキポキと指を鳴らしながらミレイに近づいていく。

「はい。二人ともストップ。お客さんの前で喧嘩しちゃだめだよ。」

(え……いつの間にあそこまで?)

 ついさっきまで目の前にいたはずのボスが二人の間に割って入っていた。

「……いくらボスでもこの件に関しては首、突っ込まないでほしいな~」

「そこだけは同感だ。このクソガキの性根叩き直さなきゃ気が済まねぇ。」

 ボスの静止を無視して戦おうとする二人組。

「〝ストップ〟って言ったよね。」

 場の空気が凍る。


 向かい合っていた二人の顔は青ざめており冷や汗をかいている。

「売り言葉に買い言葉なのはわかるけど、とりあえず二人ともこっちに来て。」

 ただならぬ雰囲気になり完全に蚊帳の外だ。

 なんか気まずいなぁ。なんて思っている間に二人の額に手刀をかましていた。

「いやー。見苦しいところを見せたね。先に自己紹介しとくよ。私は藍染 花枝アイゾメ・ハナエだよ。あっちの女の子は……」


「ハイハ~イ。私は 天月アマツキ 美鈴ミレイダヨ~よろしくね~。」

 奥の方でミレイが手を振って名前を言う。

「シンジエイトだ」

 シンジエイトはそっけない態度で、すぐに別の場所に行ってしまった。


「あっ。えーっと唯我 正道です。」


「ユイガ、ね。いきなりだけどさ。君、私たちの仲間になってくれない?」


「……は?」


「ボス~色々過程飛ばしすぎ~。それじゃ何にもわかんないよ。」

 赤くなったおでこをさすりながらミレイが近づいてくる。

「あ、そっか。」

 ごめんねと手を合わせ少し頭を下げる。

「じゃあさユイガ。」


「は、はい。」


「もう一度会いたい人、いる?」


「……?」


「あー分かりにくかったか。」

 わかりにくいも何も何のことやらさっぱりだ。

 もう一度会いたい人なんて、そんな人……

「んじゃ言い方を変えるね。───元の世界で亡くしてしまった大切な人にもう一度、合いたいかな?」

 時が止まったような感覚だった。

 なんで知っているのかとか、どうやってとかどうでもいい。

 もし、今の話が本当なのなら僕はまた母さんに会える。


「詳しく聞きたいって顔してるね。まぁ決めるのは話を聞いてからでも悪くないんじゃない?」

「……はい。」


「いい返事だね。じゃあ──」

 と話を切り出そうとするのにかぶせてミレイが意見を言う。

「ごめんボス。ちょっと話遮るけど~ずっと縛りっぱってのかわいそうじゃない?」

「……確かにそう、だけどさ。かぶせて言わなくてもよくない?」

「ごめんね~。」



 少し後

「さてと、じゃあ始めようか。」

「よろしくお願いします。」

「そんなかしこまらなくてもいいよ? 悪い気はしないけど。」

 そういわれてもな、何とも言えないや。

 靄がないし、悪い人じゃなさそうなんだけど、まだ緊張するし警戒もする。

 思わず話に乗ってしまったけど、ソラに教えてもらった詐欺ってやつの可能性も……。

「じゃあまず、初めに一つだけ質問してもいい?」


「大丈夫です。」


「君はさこの世界の事どれだけ知ってる?」


「国の名前と魔力が使える世界ってことくらいしかわからないです。」


「なるほどね。よし、じゃあいろいろと教えてあげよう。何から聞きたい?」


「この世界は何なんですか? もといた世界には魔力の魔の字もなかったのに。」


「確定してる情報じゃないけど、それでもいい?」


「お願いします。」


「この世界はたぶん死後の世界だとかそういうんじゃなくて、元の世界の形がぐちゃぐちゃに歪んだ結果生まれた世界なんだと思う。もとの世界がなくなったってわけじゃないと思うんだけど。」


「なんでそう思ったんですか?」


「私自身が感じた違和感からそうなんじゃないかって思っただけだよ。」


「違和感?」


「疑問に思わなかった?死んだはずなのに五体満足の健康状態でここにいる理由。」


「確かに……ん?五体満足?」


「あー、うん。私、死んだときに腕どころか身体がぺしゃんこになってたはずだけど。ほら、腕も足もあるでしょ?」

 ひらひらと腕を揺らす。

「ていうか、たぶん気になってると思うんだけど。なんで元の世界で大切な人を亡くしたのを知っているかの話は、私が今まであってきた人、私含めて全員、元の世界で自分と大切な人が死んでいるからなんだよね。」


「なる、ほど。」

 それなら僕でもわかるな。

 ……他人事とは言え大切な人を失う痛みは僕も知ってる。

「もし君もそうなのなら、私の仮説は本当らしい。どう?あってるかな。」

 静かにうなずく。

「ん。次に聞きたいことは?」


「国の事です。国の名前は知っているけど実際どういう物かわかってないから。」


「私たちが今いるのはユグドライアという国。この世界で唯一国として機能している場所。国の中央に当たる場所に御神木とされる世界樹ユグドラシルがある。その世界樹から円形状に国ができてる。貴族とか王族とかの制度もある。それなのに基本は私たちのいた日本とは変わらない不思議な国。貨幣も言語も、全部が日本語で統一されている場所だよ。」


 知らない事だらけってわけでもないな。

 まだ話についていけてる。

「他には───」

 この世界で生きていくうえで覚えることが多すぎる。

 けど、前よりは楽しい。

 

 そこから僕は色んな事を聞いた。

 魔力の事やこの国の歴史の事、なかなか知ることが多すぎて楽しいな。

 攫われてこの場にいる事を除けばだけど……  


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