理解者
「ん……?」
「んお?起きたか?起きたな。よし。おーいソラ、グレイ起きたぞー。」
意識がまだ朦朧としている中、誰かが呼んでくれた。
心配してくれていた気がした。
意識は身体に再び根を張り、重力とともに現実へと引き戻された感覚が体を包む。
「あれ?僕……。」
「あー、マサミチっつったか?ソラの奴、すっげぇ心配してたぞ?なんかあったのか?お前。」
初めに感じた印象よりも随分と落ち着いている。
「……ちょっと昔を思い出したというか何というか。と、とりあえずグレイさんがなんかしたとかそういうんじゃない……です。」
目線があってるかはわからないが、精一杯アルベリの顔を見て話をする。
今、彼がどんな顔をしているかわからない。
何が彼にとって失礼になるかもわからない。
そんな心配もすぐに吹き飛んだ。
「……っく、はははははは!!」
突然アルベリが笑い出した。
「お前、良いやつだなぁ。」
「えっ?」
思っていた反応とは違い面食らう。
「いやー速攻で『相手は何もしていないから気にするな。』なんて言うやつは中々いない。相手を思いやれる才能あるんじゃねぇの?」
豪快に笑い飛ばし、肩をバシバシたたいてくる。
少し痛いけれど、不思議と不快感は感じなかった。
改めてアルベリの顔を見る。
そこに、先ほどまであった靄は消えている。
(ああ……僕、ちょろいなぁ。)
彼は、僕の目を見て話してくれる。
彼は、僕のことを認めてくれた。
褒めてくれた。
たったそれだけの些細な優しささえも、マサミチは感じる機会がなかったから。
「お前の事、気に入ったぜ。アイツが、ソラがお前の事気に入ってるのもわかる気がするぜ。まぁさっき起きたばっかだからな、寝ときな。」
それから少し経った後、ソラとグレイが部屋に来た。
「大丈夫?」
その問いかけに頷く。
心配の表情が崩れ、安堵に変わる。
アルベリは青い顔してるグレイをなだめている。
「にしても君があそこまでの反応するってことはやっぱりアレ関係?」
「うん……。」
二人の間に重い空気が流れる。
「それ俺らのせいか?」
「えっ。」
こちらを見ずに放った言葉は妙に的を得ていた。
「アレっつうのが何なのかは俺ぁ知らん。けど、ソラの口ぶりからしてこういう事ぁ今ほどひどくはねぇけどあったってことじゃねぇの?ならそん時掛かったモンがとり切れてねぇうちに俺らが来て、アレってのが再発って流れじゃね?マサミチの反応的に対人関係のなんかだろ。」
頭をガシガシとかきながらつらつらと言葉を紡ぐ。
「確かにその通りなんだけど。なんでそこまでわかるの?」
ソラの質問はもっともだ。
ソラだけでなくマサミチも疑問に思う。
「なんでって、そりゃあ。」
慰めていたグレイの頭をわしゃわしゃとして、こちらを振り向く。
「グレイも同じようなもんだったからな。」
(なるほど……)
妙に腑に落ちた。
ストレス押しつぶされる前に聞いた一言。
【私のような平民、ましてや元奴隷には家名などありません。グレイテットという名もアルベリ様より頂いた名ですので。】
境遇が似ていたのだろう。
だから靄がなかった。
同じ苦しみを感じたことがある人だったから。
落ち着いた雰囲気の裏に隠されていたつらい過去。
今、やっと気づいたのはきっと僕よりも早く救ってくれる人が現れたからだろう。
僕の過去の方がつらい、なんて言う事どころか、考える事さえおこがましい。
人にはそれぞれ限界がある。
どれだけ悪口を言われても動じない人とたった一言の些細な悪口で傷つく人。
極端に言えば差はそれくらいある。
その人にとってつらい事でも別の人にとってはとるに足らない事、なんてこともある。
もしかしたら僕の地獄が生ぬるいほどのことがあったのかもしれない。
「───チ君。マサミチ君?」
「あっ、えっ。何?」
(危ない。マイナス思考になってた。)
マサミチは時々全部をマイナスにとらえてしまう時がある。
染み着いてしまった低い自己肯定感のせいだろう。
「また暗い顔してたよ?やっぱ休んどきなよ。」
「それは俺も同感だな。メンタルがマイナス寄りの時はくだらねぇ事ばっか考えちまうからな。寝れるんなら寝とけ。」
断る理由なんてなかったけど、流石にもう眠気なんて微塵もなかった。
先ほどまで寝ていたベットに寝転ぶ。
静かに目を閉じて深呼吸をする。
(……やっぱ全然眠くないや。)
瞼を閉じても意識が消えることはなく、少しの静寂があった。
その静寂を破ったのはアルベリだった。
「……なあ、ソラ。」
「何よ。マサミチ君寝たんだから静かにしときなさい。」
「正論だな。まあでもちょっと聞きたいことがあんだよ。さっき言ってたアレってのは何だ?さっき倒れたことと関係があるんじゃねぇのか?」
「まあ、うん。そうだね。……マサミチ君寝たし、理解者は多いに越したことはないかな。話してもいいかな……。」
会話が聞こえる。
目を閉じているから状況はわからない。
(なんの話をしてるんだろう……小声だから聞き取りずらいなぁ。)
「……よし。話してもいいけど一つだけ条件を付けさせて。」
「ああ。」
「今から話すことはマサミチ君の過去。でもそのことを知ったからって露骨に気を遣うっていうのはナシでお願い。たぶんマサミチ君はそういうのも自分の責任みたいに感じちゃうから。」
「そんなことなら言わなくてもわかってる。心配すんな。」
「じゃあ、話すよ……マサミチ君の過去。彼の体験した最悪の日々を───」
そこからはソラの声だけが部屋に響いていた。
時々聞こえる言葉で何のことを話していたのかを理解した。
僕の過去。
ソラは今、何を思って話しているのだろうか。
アルベリは今、何を感じているんだろうか。
グレイは今、何考えているのだろうか。
全部、全部僕にはわからない。
寝返りをうちソラ達とは逆の方向に顔を向ける。
目を開け壁を見つめる。
どれだけの時間そうしていたのか、気が遠くなるほどの時間を過ごした。
「───これで全部、だよ。」
「っち。あーくっそ。胸糞わりぃ。」
「……すみません気分が悪くなったので少し、少しだけ外に行ってきます。」
扉の開閉音が部屋に響く。
マサミチは完全に起きるタイミングを見失っていた。
(どうしよう。気まずい雰囲気だし、今更起きれないよ。)
冷や汗を流し、目を閉じる。
「……なぁソラ。マサミチがこっちに来てから今まで一緒に暮らしてたんだろ?アイツはぁ……ちゃんと笑えてたか?」
「うん。きっとあの笑顔は嘘じゃないと思うから。だから、マサミチ君は大丈夫だと思う。」
「……そうか。なら安心だな。アイツにとってお前は光だ。お前だけは、ずっとずっとアイツの味方でいろよ。」
「わかってる。優しくてかわいいこのソラさんにまっかせといて。」
「冗談は頭の悪さだけにしといてくれ。」
「……ぶっ飛ばされたいの?」
「勘弁してくれ。」
コンコン
不意になった扉。
嵐の前の静けさ。
開かれた扉の前に立っていたのはグレイだった。
「失礼します。ソラ様、アルベリ様ただいま戻りました。」
一礼をして部屋に入ろうとしたとき何かが目に付く。
「誰……ですか、その人は?」
困惑の入った声色で告げる。
それになんだろうか、この違和感は。
少しでも気を抜くとそこから〝いない〟と認識させられてしまいそうになる。
「誰の話してるの?……ここにいるのは私たちだけでしょ?」
言い終わるころには既にグレイはベットに目線を移していた。
「ッ!! そういうことか。貴様、アルベリ様達に何をした。」
「どーしたってんだグレイ。焦るなんてお前らしくもない。オレは何ともないぜ? それにまだマサミチは寝てんだ静かにしてやれよ。」
そう言いながら振り向く。
ベットに寝転んでいるマサミチの方を見るために。
目を見開く。
そこにはいるはずのない少女の姿があった。
明確に言えば、ようやくそこに〝いる〟と認識できた。
「あちゃ~まだ人いたんだ~。でもまぁ目的は、達成したし~。君たちとやりあう気はないからさ、チャオ~。」
少女が手を前に掲げるとまばゆい光が部屋を包む。
しまっていた窓は開かれ、外への道が開かれ。
だんだんとこの状況に理解が追い付いてきた。
攫われた。
マサミチが攫われた。
理由なんてわからない。
今はどうだっていい。
各々が武器を手に取り、外へ出る準備をする。
「誰が、何の理由でかは知らないけど。絶対に逃がさない。」
絶対に助けてみせる。
邪魔する奴はぶっ飛ばす。
マサミチ君は過去の不幸に負けないくらい幸せになってほしい。
私の願いを邪魔させない。
今ので能力も割れた。
「アルベリ、グレイ。手を貸して。絶対に助ける。」
「おう!!」
「はい!!」
何の前触れもなく訪れた、たった一つの出来事。
これは、マサミチの物語
マサミチを取り巻くマサミチ達の物語




