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「壊れた秤」

作者: 赤馬
掲載日:2026/01/01

赤馬です。「壊れた秤」を手に取っていただき、ありがとう! 北陸の海辺を舞台に、ちょっと不気味で、でもどこか詩的な物語を紡いでみました。壊れた秤で量るものとは何か、波の音を聞きながら感じてみてください。気軽に楽しんでもらえたら嬉しいです!



むかし、北陸の海辺の小さな村に、秤男と呼ばれる男が住んでいた。名は知れず、ただその手にいつも錆びついた古い秤を持ち、村の波止場や神社参道で何かと何かを量っている姿から、そう呼ばれた。秤は左右の皿が傾き、鎖は切れかけ、目盛りは海風に削れて読めなかった。明らかに壊れている。だが、秤男は真剣な顔で、まるでこの世の全てを量れると信じているかのように、毎日せっせと量り続けた。ある秋の夕暮れ、村の波止場で秤男がまた妙なことをしていた。右の皿に浜の小石を置き、左に海藻を載せ、じっと見つめている。


通りがかりの三人の村人が、好奇心と嘲笑半分に声を掛けた。一人は漁師の辰蔵、日に焼けた大男。もう一人は口の悪い娘、お糸。そして最後は、村の小さな神社の神主、弥平だ。辰蔵が笑いながら言った。「おい、秤男。壊れた秤で何を量ってんだ? 石と海藻じゃ、量れたって何の役にも立たねえぞ。」秤男は目を上げ、ニヤリと笑った。「役? 量るのに役なんかいらねえ。石の重さ、海藻の軽さ、それでいいじゃねえか。」お糸が鼻で笑う。「あんた、頭おかしいんじゃないの? その秤、なんにも量れやしないよ。錆びてガタガタじゃん。」秤男は首を振った。「ガタガタ? 動いてるさ。見てみろ、この皿は傾いてる。石が重いか、海藻が軽いか、どっちだと思う?」弥平が眉をひそめ、静かに口を開いた。「秤男、お前の秤は壊れている。だが、お前は何を量ろうとしている? 人の心か? 魂か? それとも…海の神の意志か?」秤男の目がキラリと光った。「神主、いいこと言うな。だがな、俺が量ってるのは、もっと簡単なもんだ。昨日と今日、どっちが重いか。それだけだ。」三人は顔を見合わせ、笑う者、首をかしげる者、黙り込む者。辰蔵は「気でも狂ったか」と吐き捨てて網を担ぎ直し、お糸は「時間の無駄」と言いながら市場へ走った。弥平だけが残り、秤男の横に腰を下ろした。「昨日と今日、か。で、どっちが重いんだ?」秤男は秤を手に持ち、じっと皿を見つめた。「昨日はな、村で嵐があって、船が一艘沈んだ。今日は、子が生まれたと聞いた。さて、どっちが重いと思う?」弥平は言葉に詰まった。秤の皿は、確かに傾いているように見えた。だが、壊れた秤だ。動くはずがない。なのに、弥平の目には、右の皿がわずかに下がるのが見えた気がした。いや、左か? 見ているうちに、頭がクラクラした。遠くの海から、波の音がやけに大きく響いた。


その夜、村に奇妙な噂が立った。秤男が量った後、波止場の空気が変わったという。嵐の夜に沈んだ船の漁師の声が、風に乗って聞こえたと囁く者もいた。翌朝、弥平が波止場を訪れると、秤男は消えていた。秤だけが、浜の小石のそばにぽつんと置かれていた。試しに弥平が石と海藻を載せてみると、皿がギシリと揺れ、まるで笑うような音を立てた。それ以来、村では誰も秤に触れなかった。だが、夜の波止場で、錆びた秤が勝手に揺れるのを見た者がいたという。(了)



赤馬です。「壊れた秤」を最後まで読んでくれて、ありがとう! 秤男の量る「昨日と今日」、皆さんはどう感じましたか? 海辺の村の不思議な空気、ちょっとでも味わってもらえたら幸いです。秤が揺れる音、聞こえた気がしませんか? 感想や評価をいただけたら励みになります。また次の奇妙な物語で、お会いしましょう!



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