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願いと欲望

 アロンさんとの会話から少しして自分は店を出て都市を歩いている。どこか行く当てがあるわけではないし何処かに行ってみたいという気持ちでもなくぶらぶらと歩きまわっていた。


 アロンさんを止めなくてよかったのだろうか。あそこで無理にでも止めていればエリカに合わせることが出来たかもしれない。エリカの事を愛娘と言っていた当たり父が死んでからは親代わりのような存在だったのかもしれない。エリカからはそう言った昔の事はあまり聞かずにいたため父親の事しか知らないんだよな。もっと踏み込んだ話をしてみるべきか?でもあんな過去を知ってしまった手前で聞くのも気が引ける。


 日が傾き夕暮れ時、そろそろ宿に帰ろうと思い歩みを進めようとすると


 『元気にやっているかねソウマ君』

 「え?」


 いきなり声をかけられたから周りを見て観たが近くに人はいない。空耳?と思っているとまた声が聞こえる・・・というか聞いたことある声だ。


 『あれから一ヶ月が過ぎているがこちらに何も連絡がないからのう。ちょっと覗きに来たぞい』

 「ゼロス様!?」


 頭の中に直接声が聞こえる。いや、どうやってこんなこと出来ているんだ?あの空間に行かなくても会話ってできたのか。


 『これは、お主に渡した能力を使って電話のような感じで声だけ届けているのじゃ』

 「心の声を聴いて会話しないでください」


 と言っても歩きながら話している自分の姿もはたから見たら変な人なんだろうけどさあ。


 『まあまあ、それよりもどうじゃ。上手くやっているかな』

 「おかげさまで・・・エリカの事も含めて上手くはやっていますよ」


 あの都合がいいタイミングでの前払いは間違いなくこの結果を招くためなのは間違いない。あの時持っていたお金はゼロス様から路銀で貰った物だけだった。それが急に扱えない額を貰ったのだから疑いもしますよ。と心の中で愚痴っているとゼロス様は笑っていた。


 『そうすねるな。これでも儂はお主に期待しているし試してもいるのだ。この都市にいる限りお主は試され続けるのだからな』

 「・・・試す?」


 試すという言葉を使うゼロス様に素直に疑問に思う自分の心を読んだゼロス様は言葉を続ける。

 

 『ソウマ君にとってこの都市はどう見える?』


 いきなりこのセイディオ都市について聞いてくるゼロス様に自分は思っていることを言う。心が読まれているのだし今更だ。


 「凄くにぎやかで活気があると思いますよ。流石はこの世界の中心だなって思います」

 『中心か』

 「はい、ダンジョンがあってそこから色んな物が持ち込まれる。そしてそれはここから世界に広がって世界を動かしている。中心って言葉も間違っていないのでは?」


 一ヶ月過ごして自分が思ったことは、この都市が賑やかではなかった日は一日もなかったことだ。それだけ都市が活気があると言う事なんだろうと自分はそう思っている。もっと深く見れば色んな物が見えるのかもしれないが表だけ見ていればそんな印象だろう。それを聞いていたゼロス様は


 『そうじゃな、ここはそう言う場所じゃ。明るく活気がありいつもせわしなく動いている。表をだけならば何の問題もなく見える・・・じゃがな光が強ければ闇は深くなるものじゃ。ソウマ君、この都市が何と言われているか知っておるか?』

 「えっと希望と絶望の都市でしたっけ」


 希望は夢や願いを持った者達がこの都市に集う事からそう言われ絶望はそれらが叶わずに挫折し消えていくことから言われるようになったと宿屋の店主が言っていたな。


 『そう、ここには光と闇がより強く濃く存在する場所。昔はもっと別の言われ方もしていた』

 「別の言われ方?」

 『そう、欲望と堕落の都市。この都市は多くの人の光を喰い人を堕落させていく場所なのだ。ソウマ君、前に大金を渡した時に儂が言ったことを覚えているか』

 「ええ、覚えてますよ。あの時はすいません。怒ってしまって」


 あの時、冗談でも元の世界に帰らなくてもいいのではと提案をしてきたゼロス様に自分は怒りと殺意を向けてしまった。


 『あれは、お主を試すために行ったことだ気にするな。あれだけの金があればこの世界で遊んで暮らせる。元の世界に戻ったとしても一ヶ月も過ぎてしまえば就職の話も無くなっているだろう。儂はそう言った誘惑をお主に提案して試したのだ。この場所で事をなすならばこれから先も多くの誘惑がお主を誘い引きずり込もうとして来る出会え追うからな』


 自分がいつ元の世界に帰れるかは分からない。少なくても数か月では無理だ。何年かは覚悟している。この都市はそう言った決意を少しずつ溶かし消して落とそうとして来る。そう言った誘惑に惑わされないように最初にゼロス様はわざと自分を怒らせて決意を固くしてくれたのだろう。


 『まあ、今のお主なら問題ないだろう。しかし、お主以外の者がお主の歩みを阻むこともある。気を付けるのだぞ』

 「・・・わかりました」


 そう言ってゼロス様の声は聞こえなくなった。丁度宿が見える場所まで来た自分は宿の前で待っていたエリカを見かける。今日あった色々なことを思い出しながら自分は新たな決意で明日を生きていくことを決めた。



 夜、にぎやかなで煌びやかな店が並ぶ場所ではなく人気があまりない路地裏を歩んでいたアロンは今日あったことを思い出していた。長い旅の果てになんとなくここにやって来た。彼女の強さならば大手の冒険者に拾われているかもしれないと思い。都市を歩いていた時だった。エリカが男性と一緒にダンジョンの中に入って行く所を偶然見つけたのだ。

 しばらくしてダンジョンから出て来た二人は笑顔で談笑しており遠目からも不遇な扱いをされているようには見えなかった。彼女の事を聞きたく宿の場所を付けて行ってしまったい手紙をおいて行ってしまった。自身でもあんなことをしても疑われるだけだと思いつつ彼女に顏を見せる勇気がなかった自身に呆れていたが彼は手紙を読んで来てくれたのだ。


 「いい子だったな・・・はは、いい子過ぎて不安になってしまったが」


 彼から話を聞いて私の不安はすぐに消えた。彼女の過去を知っても決意が変わっていないあの顔を見た時もう私は必要ないと察することが出来た。


 「カールよ。お前の娘は良き男を見つけたかもしれんぞ」


 いるわけのない人物を思いながら自身のこれからをどうするか考える。いっそこのまま放浪生活も悪くないかもなと思っていた時だった。


 「・・・」


 後ろから気配を感じた。老人一人ならば容易く組することが出来ると思っているチンピラか酒におぼれた酔っ払いかいつでも剣を取れるように後ろを振り向く。しかし、後ろに感じた気配は何処にもなくどこにも人影はなかった。


 「・・・気のせいか」


 自身の衰えたのかもしれないな。と前を向いて歩こうとした時だった。前の方に子供が立っているのだ。こんな時間にこんな裏通りにたった一人で子供が立っている。さっきまではいなかったはずなのに


 「坊や、こんな所でどうしたんだい。おうちの場所が分からなくなったのかな」


 なるべく優しく接するが子供はこちらに顏を向けて


 「本当にそれでいいの?」

 

 いきなりの質問に何のことだと思っていたが子供は不気味な笑顔を向けてもう一度同じ質問をして来る。


 「ホントウニソレデイイノ?アナタノネガイハソンナコト」

 「ッ!!貴様」


 距離をとろうとしたが間に合わなかった。周りを覆う闇が子供ごと自身を包み込みそして路地裏には誰もいなくなった。

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