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第4話 イカレチンポ野郎Ⅰ

 俺はショックのあまり呆然と立ち尽くした。


 やっとセックスできると思ったのに、肝心のチンコがねえ!?


「クスクス……ッ!」


 コスモスが口に手を当てて俺を笑う。


「わ、笑ってんじゃねえ!?

 ブチ犯すぞクソメスゥ!!!」


「だっておかしいんですもん……ッ!

 言動がとてもユニークになられてますし……ッ!

 それで、どうやって『いたす』おつもりなんです?」


「ぐぐぐ~~~~~ッ!?」


 舐めやがって!?


 俺は指先を頭に突きつけ、死に物狂いでこの事態を脱する手段を探し始めた。

 だが一向に思いつかない。

 そもそも魔法に『チンコをどうにかする魔法』という概念が存在しないのだ。

 当たり前といえば当たり前。

 元々生えていたなら回復魔法でなんとでもなるが、無いものを新しく生み出す魔法など知らない。

 いちおう土や金属魔法を使えば『張り子』のようなものは作れるのだが、肝心の神経が行き渡らない。

 神経が無ければ突っ込んだ時の快感も得られず、それではなんの意味もない!


「畜生……ッ!!

 誰だ俺をこんな体にしやがった奴はああああああ!!!?

 ぶっ殺してやる!!!!」


 俺は天に向かって叫び散らかした。

 だが現実は何も変わらない。

 俺の姿は悪役令嬢オナシス・グランデュールのまま。


「……エ゛ッ……エ゛ッエッ……ッエ゛ヘェッ……エ゛ヘエエエエエエッッ!!!」


 俺の両目から大粒の涙が零れ落ちた。

 悔し涙だった。

 これほど悔しい事があるか。


「だ、大丈夫ですか?

 そんなに辛いんですか?」


 俺が手の甲で涙を拭っていると、コスモスが心配そうな顔で俺に言ってきた。

 この痛みが、絶望が。

 コイツには微塵も分からないらしい。

 それも当然だ。

 コスモスはオスではない。


「あァ゛!?

 ったりめえだろ!?

 よく考えろ!!!!

 俺はセックスするために生まれてきた!!!

 俺の人生はセックスするかしないか!!!

 それだけで決まるんだ!!!!

 セックスのない人生なんざ生きてる価値もねえッ!!!」


 俺はコスモスに当たり散らした。


 畜生ッ!?

 このクソ美女今すぐレイプしてえ!!!


「えっと……例えばの話ですけど、女性同士でもその……セックスはできますよね?

 そちらで欲求を解消されるというのはいかがでしょう?」


 あくまで親切な顔でコスモスが俺に言ってきた。

 その腐り切ったアイデアに俺は思わず大地をブン殴る。


「ざ……ッけんな……………………ッッッ!!!!

 チンコをブチ込めないセックスなど………………ッッッ!!!!

 断じてセックスではないッッッ!!!!!!!!!!!!!」


「ああ。

 そういう定義なんですね。

 なるほど」


 コスモスがパン、と両手を合わせて言ってくる。


「分かった顔してんじゃねえええええええええええッッ!!!!!?」


 俺は再び天に向かって叫んだ。

 両拳を握って大地にも拳を突き入れる。


「俺はなんのために生まれてきたんだッ!?

 なんのために……ッ!!

 あんなクソみてえな人生を生きて……ッ!!!!

 全部チンコをぶち込むためじゃねえか……ッ!!!!

 それが……ッ!!

 こんなエロい女が目の前に居て……ッ!!?!?

 種付けオッケーしてくれてるんだぞ……ッ!?!?!?

 それなのに……ッッッ!!!

 肝心のチンコがねえなんてそんな……ッッ!!!!

 あんまりじゃねえかああああああああああああああッッッ!!!!」


 幾ら手の甲で拭っても、後から後から涙が零れ落ちた。

 いや涙じゃねえ。

 これは精液だ。

 俺の魂の精液が、ぶち込む先を失って目から流れ落ちているのだ。


「いえ、正式にはまだオッケーしたわけではありませんが。

 その、すごいお辛そうですね……?」


 コスモスのバカがハンカチで俺の魂の精液を拭ってくれやがる。


「チンコのねえセックスなんてただのオナニーだろうがッ!!!!

 俺に一生オナティッシュしてろってのかクソがッ!!!?」


 俺はそんなコスモスの両肩をガシっと掴んで言った。

 コスモスはきょとんとした顔で俺を見返している。


 どうして俺は穴なんだ……ッ!?!?

 チンコ突っ込まれる人生なんてイヤだ……ッ!!!

 突っ込みてえ……ッ!!!


 俺がそんな風に生まれてきた事を嘆いていると、


「あの」


 コスモスが俺の顔を覗き込んで言った。

 俺の正面にしゃがんでいるせいで、制服スカートのフリルの下からチラッとシコいパンツが見える。


「悩んでいても仕方ありませんし、

 よかったら私の屋敷に来て頂けませんか?

 助けて頂いたお礼もまだですし」


「ア゛……ッ!? お礼……ッ!?」


「はい。

 昨日焼き菓子を焼いたんで、よかったら。

 私こう見えて料理けっこう得意なんです」


「知るか!!

 菓子なんざいらねえ!!

 チンコを寄越せ!!!」


 俺がそう言い返したその時、


 グウウウウウッ!!


 腹の音が鳴った。


 そういやこの体、今朝から紅茶一杯しか飲んでなかった。

 めっちゃお腹空いてる……!


「お腹が空いてらっしゃるんですね?

 よろしければ軽食もご用意させて頂きますけれど」


「チ……ッ!?

 しょうがねえな!?

 ご馳走になってやる!!!」


「やった♪」


 コスモスはそう言って小さく笑うと、俺の手を取って「こちらです!」校門の方に向かって引っ張ってきた。


「ああ、お洋服も破れてしまっておりますわ。

 ちょうど制服の予備が御座いますし、宜しければお譲り致しますね?」


 次々と余計な事を言ってくる。

 タダでくれる分には構わねえが、なんとなく見下されてる気がしてムカつく。




 □□




 十数分後。

 俺はコスモスの屋敷を訪れていた。

 思った以上に立派である。

 白い石造りの二階建てで、至る所にシャンデリアや著名な絵画等、いかにも高そうなインテリアが所狭しと並べられている。


 しかも今俺が今居るのはダイニングルーム(家族で食事を取るための広い部屋)なんだが、

 南側が一面ベランダになっていて庭園はもちろん都のお城や遠い山々までが見渡せるというゴージャス仕様。

 公爵家の屋敷と言われても不自然じゃない。


「ほう。

 ずいぶん立派じゃねえか。

 俺の屋敷には劣るが」


 俺は食卓に敷かれた純白のテーブルクロスに触れながら喋る。

 その丁寧な縫われ方や生地の素材を見るに、間違いなく一級品だった。

 男爵家にしては稼いでやがる。


「ありがとうございます。

 うちは元々庶民の出でして。

 父が一生懸命働いて建てて下さったんですよ」


 コスモスが白いワゴンを運んできて言った。

 ワゴンは金細工で装飾されており、その上には漆器のティーポットやカップの他、ティースタンドが二つ置かれている。

 そのティースタンドの皿の上には、色取り取りの焼き菓子やケーキ、サンドイッチやキッシュ等の軽食が盛りつけてあった。


 現代ではアフタヌーンティとか言われてるやつである。

 いい紅茶の匂いがしやがるぜ。


「お。

 美味そうじゃねえか。

 さっさと食おうぜ」


「はい♪

 今とりわけますね」


 言って、コスモスが手際よく紅茶をカップに注いでくれたり、キッシュやサンドイッチを俺の皿に取り分けてくれる。


 四の五の言わず俺はキッシュにかぶりついた。


「うっめッッ!?!?!!?」


 余りの美味しさにビックリした。

 ここは乙女ゲームの世界。

 だからある程度美味いんだろうなとは思っていたのだが、期待以上の味だった。

 生地がしっとりしており、味が均等で噛んでもボロボロと崩れない。

 その生地の上に乗っているのはほうれん草やサーモンの小さなブロックなのだが、これが抜群に美味しかった。

 サーモンの塩味やほうれん草の甘味、そして僅かに舌に残る苦みや酸味。バジルの爽やかな香り。

 それらが超一流の作曲家が作った円舞曲ワルツのように舌の上で踊り散らかしている。

 皿の上には他にもジャガイモとツナなど色んな種類のキッシュやサンドイッチがあった。


「うっめッ!?!?

 うんめええええッ!!!!?」


 俺は次々手を伸ばして、皿の上のキッシュを食べ尽くしてしまった。

 続いてサンドイッチも食べる。


 コイツもうめえ!?


「くすくす……ッ!

 コスモスさま。

 お口におハーブが付いておりますわ」


 すると、そう言ってコスモスがハンカチで俺の口元を拭ってくれた。

 何故か上機嫌である。

 俺はそんなコスモスを二度、いや三度ギロリと睨みつける。


「お前、さっき料理が得意とか言ってたよな!?

 まさかコイツはお前が作ったんじゃねえだろうな!?」


「はい。

 私、小さい頃から色々なお稽古ごとをしておりまして。

 このテーブルクロスも私が織ったんです」


「あ゛!?

 メシだけじゃなくてこのテーブルクロスも!?

 てめえ!?

 ムネやケツがデカいだけじゃなくて家事までできるってのかよ!?」


「はい。

 できるという程ではありませんが」


「最ッ高のオナホじゃねえか!!?

 よし!!!

 早速俺様がチンコブチ込んで……ッ!!!」


 コスモスの余りのオンナっぷりに、一瞬で俺の心のチンコがブチ上がった。

 だが。


「だからセックスできねえっつってんだろうがッ!!!?

 ボケェエエエエ!!!!!!!?」


 一瞬でチンコがねえ事を思い出し、俺は頭を抱える。


 こんなドスケベな女が居てセックスできないだとッ!!??!?


「アハハ!!

 オナシス様お顔!?

 野蛮人みたいアハハハハハハッ!!」


 そんな俺の顔がよっぽど面白かったらしい。

 コスモスは腹を抱えて笑い出してしまう。


「ちくしょう!?

 他人事だと思ってッ!!

 ぶち犯すぞちくしょう!?

 って犯せねえじゃねえかちくしょう!?」


「アハハハハハァハハッァハッ!!!……こんなに笑ったの、初めて……ッ!!

 お腹いたい……ッ!!!!」


 コスモスがとうとう椅子から転げ落ちてしまった。

 目には涙まで浮かべている。


 俺も泣きてえ。


「ハア……!

 元気なオナシス様を見ていると胸がスカっとしますね。

 窮屈なのは苦手なので」


 やがてコスモスが立ち上がって言った。

『窮屈』という言葉を聞いて、オナシスの記憶を持つ俺も激しく同意する。


「お嬢様なんざやってっと窮屈だもんな。

 マナーだなんだうるせえし。

 ま、俺はそんなもん守る気は全くねえが」


 断言する。

『俺が俺であり続ける』こと。

 それが唯一のルールでありマナーだ。

 他のマナーはあっても構わんが俺に適用する事は許さない。


「素敵ですね……!

 そんな生活……!」


 コスモスがしみじみと言った。

 溜息まで吐いているあたり、コイツも貴族の令嬢としての生活はあまり好きではないらしい。


「コスモォォォォォォォォォォォッォスッッ!!?!?!?」


 なんて俺が思っていると、突然扉の開く音と共に大音声だいおんじょうが響き渡った。

 振り返れば、ダイニングルームの扉の向こうに背の高いイケメンが立っている。

読んでいただき、本当にありがとうございます!








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