第62話 あたしと彼は、友達で親友で…… 中編
「人付き合い……?」
「あー、なんというか……平たく言えば、誰かと仲良くなるコツ………みたいな?」
彼はあたしの方を向きながら、恥ずかしさを紛らわせるように後頭部を掻いて視線を泳がせていた。
「いやいや、あたしには無理よ」
いじめられて、ずっと一人だったあたしに聞かれても困ると、彼の提案に否定的な言葉で返してしまう。
「逆に教えてほしい……くらいだし」
「まー、そうだよな。俺ら友達いないもんな」
「ぐっ……」
下唇を噛んで悔しがる私に対して、彼は何も悪びれることなく友人がいないことを呟いた。
願っても誰とも友達になれなかったあたしと違って、彼は本当に今までは一人でも問題なかった事が態度で分かり、余計に腹が立った。
「ふんっ! どうせあたしはずっとボッチよ!」
誰かと仲良くなるコツなんて、知らない。
ずっとあたしは一人だったから。
友達なんてこの先出来ないのだろうと、当時のあたしは信じてやまなかった。
「――まぁ、俺たちがすぐに誰かと仲良く出来るってことは難しいのかもな。そんなこと出来てたんなら、今こうなってないし」
地面に転がっていた石ころを蹴り飛ばしながら、彼はそんなことを言った。
「少なくとも俺は周りと違うから、他人とどう付き合っていけばいいかとかを知りたいんだよ」
その姿に後悔や苦労なんてものは感じ取れなかったけれど、ほんの少しだけ、悲しみが混ざっているような気がした。
「……あんたって、なんか見た目と発言が妙に合わないわね」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味よ。身体デカくて怖いのに、大泣きして謝るわ、人付き合いのこととか気にしてるとか、普通に優しい所とか。なんかこっちが調子狂う」
彼と話し始めて間もないけれど、分かったことがある。
それは、彼がとてもまともな人だってこと。
その見た目に怖がっていたあたしに寄り添ってくれて、勘違いをしたことに対して泣いて謝り、兄弟の為に人付き合いを覚えようとしている。
とっても不器用で、やさしい男の子。
最初は怖いと思っていた彼に印象は、もうほとんど残っていなかった。
「あんたなんて、暴力を何とかすればすぐにでも友達出来そうなのに」
「それが出来たら苦労はしないんだよ、むかついた事があったら咄嗟に手が出る」
「まったくあんたって野蛮ね。いっそのこと両手縛って生活すれ……冗談、そんな本気の顔でこっち見ないで」
冗談のつもりで言ったセリフに対し、何か希望を見出しそうな顔つきをしていたので、言葉を途中で切り上げた。
そんな時、ふと疑問に思ったことがある。
「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「なんだ?」
「弟さんと仲良くなるために人付き合いを覚えたいのよね?」
「そうだな」
「だったら別に今のままでもなんとかなるんじゃない? ほら、喧嘩する程仲がいいとも言うし」
義理とは言え、一つ下くらいの子であれば対等とは言えないが勝負になるだろうし、何より彼の場合は言葉で話すよりも体でぶつかった方が色々と理に適っていると思った。
勿論、これは彼の不器用ながらやさしい性格を考慮しての話。
「いや、それは出来ない」
「……まぁ、流石に家族とは仲良くしたいよね」
「まぁそれもあるが……その……」
今まで端的に答えてきた口調とは打って変わり、彼は歯切れの悪い言葉を繰り返す。
「いやー、その、なんだ」
「なによ、ハッキリいいなさいよ」
「弟は華奢で、お、俺とは違う……だから、傷つけたくないんだ」
もっともらしいことを言った後、彼は「それに」と、照れくさそうな表情を浮かべつつ、頬を掻きながら絞り出すような声で話を続けた。
「その………なんだ……せっかく可愛い弟が出来たんだ……な、仲良くしたいというか、その」
さっきまでの雄々した雰囲気とは裏腹に、もじもじと身体を揺らして恥ずかしいことを暴露しているような態度を取っていた。
その大きな体つきと恥ずかしそうに話す態度のギャップに、あたしは吹き出してしまった。
「っぷ、はは! なにその顔! 不細工ね!」
「な、なんだとこの!」
「あ、もしかして耳まで赤くしてるの! 弟に好かれたいのがそんなに恥ずかしいのー?」
「くそ! だからいいたくなかったんだよ!」
指を指して笑うあたしに向かって、彼は頭から噴火するくらい顔を赤らめた。
※後半に続きます




