第57話 一方そのころ秋音君は
「――しんっど」
覚醒した意識の中、感じたのはうんざりするようなだるさだった。
風邪を引いてもう何日も経つのに、秋音の体調は回復することが無かった。
厳密に言えば体調が治りかけては過ぎに崩してを続いており、体調に波があるといった形だ。
大きな病気になっているわけではなく、単に免疫機能がすこぶる悪いだけなので、入院して集中治療をしなければいけないという訳ではない。
故に、薬を飲んで眠りを繰り返し、熱が治る事をただじっと待たなければいけないという厄介な状態が続いている。
「はぁ、もう昼か」
カーテンの隙間から漏れる日差しを見るに、昼食を取るには遅いくらいの時間であることは分かる。
既に昼夜など気にならない程起床と就寝を繰り返している為、今が何時でどれくらい眠っていたのかなどどうでもよくなってきている。
それでも、一定の間隔で薬を飲まないと治る物も治らない為、秋音は鉛の様に重く言うことのきかない体を何とか起こし、枕元に置かれた水をゆっくりと飲み始める。
最後に水分補給をしてから時間が空いていたからか、口から乾いた体に駆け巡り、体の熱が冷えていくような気持ちの良い感覚を覚える。
そして、気が付けば喉を鳴らしながらあっという間に水を飲み干してしまう。
「――はぁ、何かお腹に入れないと」
薬を飲むために、食べたくもない食べ物を口に入れる日々。
今は好物の甘い食べ物とか、脂っこい食べ物を見るだけでも気分が悪くなってしまう。
食欲もないのに何かを食べる苦痛を紛らわせるために、秋音はある事を思い浮かべる。
「……あいつら、今頃授業かな」
味のしないゼリーを口で転がしながら、ボソッと独り言をぼやく。
もう何日もあっていない彼ら……沙癒達の事を思い出す。
寝込む前に会ったのが本当に昔の事に思えるくらいの時間がたった気がするし、つい最近まで一緒に遊んでいたような気もする。
熱で鈍った思考と、回数を問わず繰り返された目覚めによりぐちゃぐちゃになった頭では何もまとまらず、霧がかかったように考えが霧散していく。
何もかもが、どうでもいい。
今はただ、怠く重苦しい体が少しでもマシになるのであれば、何でもいい。
「……ねよ」
用意された物を何とか食べ終えてから薬を飲むと、その場で倒れるように体をベットに倒す。
天井を数秒見つめてから、もう何度目か分からない眠りに付こうとした瞬間、枕元に置いてある携帯から着信を知らせる通知音が鳴った。
画面を横目に見ると、送り主は裕作のようだった。
彼から連絡が来るのは珍しく、内容を確認しようともしたが、その前に携帯の画面がスリープとなってしまった。
「……まぁいいか」
大した用事ではないだろうと思い、秋音は携帯に触れることはなかった。
返信するのも面倒だし、何より今は何も考えたくもない。
ただ眠りたい。
どうでもいい。
誰かにかまう暇など、今は無い。
「――裕作」
けれど、脳裏に彼の名前が残り続ける。
まとまらない思考の中で、裕作の名前だけが色濃く残り、彼の事を考えてしまう。
どうしてだろう、と。
なんで、彼の事が気になってしまうのだろう。
何も考えたくないはずなのに、彼の事になると考えが止まらない。
――あいたい。
――話をしたい。
薬を飲んだはずなのに、体の熱が上がっていく気がした。
何日も会わない事などこれまでに何度もあったはずなのに、寂しさが込み上げてくる。
なんでだろう。
ぼんやりと考えながら瞼を閉じて、深く深呼吸をした。
体調が悪くて、誰かに感情をしてほしいから?
何日も家族以外と話していないから、人が恋しい?
――違う。
――ただあたしは、あいつのことが。
そう考えてながら、秋音は眠りについた。
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