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男の娘がヒロインでもラブコメは成立しますか?  作者: @芳樹
3章 その気持ちに、嘘はダメだよ
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第56話 あの日の出来事、その後の行方

「えー! 今日も秋音君休みなのー?」

 クラスメイトの女子が落胆の声を上げると、裕作は頬に肘をつきながら「そうだよ」と簡素に答えた。


「せっかくみんなで放課後に買い物行こうっていってたのにー!」

「あぁ、またの機会にしてくれ」

 肩をガックリと落としため息を吐くクラスメイトに対し、彼は窓に顔を向けどこを見るでもなく視線をそらしている。

 

「なんか裕作君も元気ないねー? もしかして体調不良?」

「……そうじゃないが、どうも最近やる気がでないわ」

 彼の脱力しきった態度に「ふーん」とつまらなそうな返事をした女子は、興味を無くしたように裕作の傍を離れていった。


「……さて、今日は何すっか」

 放課後というのに、裕作のテンションはちっともあがっていなかった。

 普段であれば何をするにも、予定の良し悪しに関わらず放課後ともなれば教室を飛び出していく勢いで行動をしているのだが、今は何をするにも、何も満たされないような虚無感に襲われる。

 どうしてだろうと考えるも、答えは直ぐに浮かんでくる。


「秋音、今日も来なかったな」

 そう、親友である早乙女秋音が今日も学校に来ていない。

 理由は単純で、風邪を引いて体調が良くないからである。

 今日で大体五日ほどになるだろう、それほど秋音の体調は元に戻らず裕作は退屈な日々を過ごしているのであった。


「――秋音、色々引きずっていないといいが」

 体調のこともそうだが、裕作はそれよりも他に引っかかる事がある。

 ……そう、秋音の家にみんなで遊びに行き、少年たちと出会ったあの日の事だ。

 

 あの日、雄太は秋音の性別を知った瞬間、逃げるようにどこかへ走り去っていった。

 すれ違いざまに見た表情からは、驚きや戸惑いとも取れる複雑な表情を浮かべていた。

 彼が何を思ったのかまでは読むとれなかったが、普段秋音が向けられている好意的な態度ではないことは、はっきりとわかった。

 昔から秋音のことを知っている裕作にとって、彼が何を想いでその場を去ったのかなど、想像も出来ない。

 

 ただ一つ言えることは、少年が去った後、彼に負けないくらい秋音も悲しそうな表情を浮かべていた事だ。

 ずぶ濡れの服のまま秋音の家に帰り、家で待機していた沙癒と七海に心配されていた時も、全員で夕食を食べている時も、元気ない様子だった。

 

 早乙女秋音は心が強い。

 誰に何を言われようと、自分の好きなことにひたむきで、自分の信じた道を進み続ける。

 故に、今の彼は色んな人間に受け入れられた。

 けれど、親友である裕作は知っている。

 そういった強さは外見だけで、心の中心は柔く繊細で、傷つきやすいということを。

 表情にも出ないその起伏で、彼がどれだけ揺れていることを、長年隣に居続けた人間だからこそ感じ取れるものがある。

 あの日、あの時の秋音は、裕作が心配になってしまう程のショックを受けていたことを。


「……携帯の返信もなしか」

 おもむろに取り出した携帯の画面に、休み始めた頃から定期的に秋音に送っているはずのメッセージの返信が無い。

 体調がすぐれず確認出来ていないからか、もしくはあえて無視をしているのかは分からない。

 ここまで反応が無いと、休んでいるのは他に原因があるのではと勘ぐってしまいそうになるが、もし秋音の事で何かあった場合は、黒川の伝手で連絡が入ってくるに違いない。


 なので今までは秋音の体調が戻るまでは、裕作は何もしないという姿勢を取ってきた。

 けれど、あの日の出来事からロクに会話が出来ていないということもあり、不安は膨れていくばかりであった。


「――看病にでも、いくか」

 自分でも、驚いてしまうような言葉を口ずさんでしまった。

 

 裕作は、自分が行かなくてもいいはずだと感じている。

 看病に行った所で、裕作には何も出来る事が無い。ご飯の準備も、気の利いた買い物も、自分では到底出来ないだろうと分かっているからだ。

 その上、家には執事である黒川さんがいる。自分が向かったところで足手纏いなるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 そして、何よりも秋音本人が望んでるとも限らない。

 一人で考える時間が欲しいだけかもしれない。

 もしかすると、これを機に溜まったゲームやアニメの消化をしているだけで、体調も万全でずる休みをしているだけ……の場合も考えられる。

 

 けれど、裕作は胸の奥がざわついてしまう。


 見舞いって言っても、凄く効くような薬を持っていくわけでも、看病のために何かをするわけでもない。それでも裕作は顔を見て、声を聞いて、秋音が無事であることを確かめたいだけなのかもしれない、と。

 裕作は、何かを決断したかのように「よし」と声を出し、鞄を持ち教室を後にした。


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