第55話 昔のあたしと昔の彼と 2
新しい学校へ転校をして一週間がたった。
環境に馴染めないあたしは誰一人友達がおらず、呆然と教室の隅っこの方で過ごす日を繰り返していた。
ここまでは、いつもと同じ。
けれど、明確に他の学校とでは違う部分があった。
それは、あたしにちょっかいをかけてくる子がいないことだ。
早ければ初日の段階で、あたしの恰好や考え方を否定する子が現れ始めるのだが、それがまったく無かったのだ。
育ちに良い子が多い有名私立の学校でもそんなことなかったのに。
「なんでなんだろ」
その時のあたしは、そのことが気になって仕方がなかった。
あたしは何も変わってないのに、周りの態度があきらかに違う。
あたしに興味が無いのかとも思ったけれど、教室の端の方やすれ違うたびに聞こえる微かな声はいつもと同じような言葉が聞こえてくる。
避けるでもなく過度に関わるわけでもなく、表面上は普通の関係といっても差し支えない。
なのに、どうして誰もあたしにちょっかいをかけてこないのか、そのことがとても不思議だった。
だから、直接聞くことにした。
「ねぇ」
あたしがクラスの女の子に話しかけると、肩を少し震わせてこちらを見据えた。
何かに怯えているのか、ただ驚いたのかは、当時のあたしには見当もつかなかった。
けれど、まともに話が出来そうな状態だったから自分にとってはとても都合が良かった。
「どうしたの秋音君?」
「あたしの恰好、どう思う?」
「どうって……その、個性的だよね、うん」
「……個性的?」
「えっと、その……」
話しかけた女の子たちは、誰かを探すように周りを見渡した。
そして、何も問題ない事を確認した後に、ゆっくりと口を開く。
「秋音君、どうして女の子の恰好をしているの?」
「どうしてって、好きだから。この恰好」
「その……似合ってないのに?」
純粋な、言葉だった。
子供らしい真っ白で、素直な気持ち。
だからこそ、その言葉が重く、心の底に突き刺さった。
「似合って、ないか」
そう、当時のあたしの恰好は、可愛いと思える服を着ているだけだった。
綺麗に髪を整えることも、オシャレに着こなすための工夫も、化粧で顔を綺麗に見せることもしていない。
これを着れば、自分が可愛くなるという勘違いをしていたからだ。
今思えば、無知な自分が恥ずかしくて仕方がない。
「うん、変だし可愛くない。なんでそんな格好してるのかよく分から――」
「ちょ、ちょっと! 聞こえたらどうするの!?」
似合っていないと言った少女の隣にいた子が、慌てた様子で小さな声で止めに入った。
「あ……ごめんね、そんなつもりじゃないの」
すると、女の子はあたしに向かって頭を下げてた。
本心から悪気があったから……というよりも、何かに怯えて、まるで許しを求めるような態度に見えた。
ここにいないはずの、誰かに対して。
「いや、大丈夫。《ぼく》は可愛いものが好きで、勝手にやってることだから」
「そ、そうなんだ。ならよかった~」
あたしの言葉を聞いた彼女たちは、安堵するように胸を撫でおろした。
もはや誰かに酷い事を言った事など忘れているかのように、自分に身を案じている。
今のあたしだったら、そんな態度を見せられるとムカッとしてしまうけれど、当時にあたしは他の事で頭が一杯だった。
「ねぇ、最後に《ぼく》からも1つ聞きたいことが――」
気になることを彼女らに問おうとした瞬間、教室の入り口からすごい音が聞こえた。
勢いよくドアを開けられた音で教室中が静まり返り、一斉にその方向に視線を向ける。
すると、そこには一人の男の子がいた。
黒い髪に釣り目の鋭い目。
あたしと同じくらいの年とは思えない位大きな身長に、頬や膝にいくつかの擦り傷がある、半袖半ズボンの男の子。
第一印象は勿論、怖そうな奴。
その男の子が室内にズカズカと入ってきて、教卓付近で遊んでいたクラスメイトの一人に掴みかかった。
「お前、ちょっとこいよ」
「な、何だよ才川! 急に!」
「いいから付いて来いつってんだよ!!!」
傍から見ても震えてしまいそうな気迫に圧倒されて、半ば強制的にクラスメイトはどこかへ連れていかれた。
教室中は二人が出ていったドアの先に夢中で、耳が痛くなるような静けさだけが室内に残る。
「ね、ねぇ。あの子は一体……」
そんな空気に耐えられず、あたしは先ほどまで話していた女子達に、彼の事を聞いてみた。
「あ、あの子は、隣のクラスの、才川君」
「さ、さいかわ……」
なんだか可愛いらしい苗字だと、当時のあたしは思っていたの内緒の話。
「乱暴者で、喧嘩ばっかりしてる……その……不良なの」
「ふ、不良……?」
「うん、あんな感じでいつも怒ってばっかりで、上級生にも容赦なく喧嘩を仕掛けるらしいし」
デカい。
怖い。
乱暴者。
それが、あいつの初めての印象だった。
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