第54話 昔のあたしと昔の彼と 1
「やーいオカマ女〜!」
石を投げられた。
「秋音君の格好、似合ってないよね」
陰口を言われた。
「先生、君が普通の子になれるように色々とアドバイスしてあげるから」
おかしな子だと、思われた。
可愛いものが好き。
自分も可愛いと思われたい。
誰かに、本当の私を好きになってほしい。
どうしてこんな考えになったのかなんて、もう覚えていない。
物心がついた時から、あたしは可愛いものが好きだった。
ランドセルは黒よりも、ピンクが良い。
子供向けの作品は戦隊ものよりも、女児向けのアニメが好きだ。
カッコいい服装よりも、可憐な衣装に興味を惹かれる。
それが、普通の感性だと思っていた。
初めてそのことを家族に打ち明けた時、二人は何の文句も言わずに受け入れてくれた。
パパはあたしの事を肯定してくれて「好きなようにやりなさい」と言ってくれた。
ママなんてそのことを聞いて「やっぱりあたしの子ね!」と大喜びだった。
そんな中、打ち明けた家族の中でおじいちゃんだけが困ったような顔をしていたけれど、それでも頭ごなしに否定をすることはなかった。
だからこそ、学校へ通い始めてから自分が浮いている事に気が付いた。
男の子は、カッコよくあるべきだ。
男の子は、逞しくあるべきだ。
男の子は、可愛い恰好なんて、しない。
男の子は、可愛いものを好きなるなんて、おかしい。
初めて通った公立の小学校では、直ぐにあたしは虐めの対象になった。
……いや違う、あれは虐めというよりも、当然の反応をされただけだったかもしれない。
気味が悪い、ダサい、どうしてそんな恰好をしているの、女の子じゃないのに。
あの時のあたしは彼らの事を、変な人達だと思った。
自分が好きなことを好きなように言って、何が悪いのか。
あたしの好きなように生きて、何の問題があるのか。
だからこそ、今の自分の行動を止めるなんて選択肢は、ありえなかった。
あたしは直ぐに学校を変えた。
可愛いものが好きじゃないなんて、ありえない! そんな気持ちで次の学校へ行った。
そして、次の学校でも同じような出来事が起きた。
指を差されて笑われた。
物を投げつけられた。
机に落書きをされた。
そしてまた、あたしは学校を変えた。
何度も。
何度も。
……何度だって。
けれど、みんなの反応は同じようなものだった。
公立とか、私立とか。
環境とか、地域性だとか。
そんなことは関係にならないくらい、あたしは異端だった。
小学生の頃のあたしは、周りから見ればきっと変な子だったのだと思う。
男の子なのに、女の子のような恰好をして。
男の子なのに、自分の事をあたしと呼んで。
男の子なのに、誰にも負けないくらい可愛いものが好きだった。
「秋音君って、変だよね」
「お前って、気持ち悪いな」
「一緒だと思われたくないから、近づかないで」
言葉は刃物になって、あたしを刺した。
「こっちくんなよ!」
「あいつ、大金持ちらしいぞ」
「誰も文句言わないだろ」
好き勝手な行動は拍車が掛かり、あたしを襲った。
そのたびに、あたしは転校した。
転校した、転校した、転校した。
何度目かの転校で、ようやく気がついたことがある。
それは、あたしが他の子よりも少し変わっているのだと。
そして、この世の中は変わっている人間に対して、とても厳しい態度を取るということ。
『秋音、もう学校に行くのは辞めるかい?』
ある時、転校を繰り返すあたしにパパがそう提案してくれた時は、涙が出る程嬉しかった。
直ぐにその返事に承諾して、家に閉じこもっていたかった。
しかし、おじいちゃんがそのとこに猛反対をして、結局あたしは不登校になることを拒否された。
その時ばかりは、おじいちゃんなんて大っ嫌いと心の中を嫌な気持ちで膨らませた。
そして、憂鬱な気分を抱えながら新しい学校へ登校した。
新しい学校はおじいちゃんの家から近い公立の学校。
特に何の変哲もない普通の小学校で、何の魅力もないような平凡な所。
また、虐められるのだろう。
また、自分を否定されるのだろう。
そして、また転校を繰り返すんだ。
そう、あたしは思っていた。
「――お前、なんか俺の弟に似てるな?」
あの言葉を、投げかけられたその時までは。
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