第52話 救世主 前半
しばらく裕作が公園で遊んでいると、ポケットにしまっていた携帯電話から着信音が流れる。
ズボンから携帯電話を取り出し確認すると、そこには一件のメッセージが表示される。
『裕にぃ、ご飯』
人によってはとても簡素で分かりにくい文章だが、誰が、どんな目的で送られてきたの、裕作から見れば一瞬で判断できる。
「もう日もくれそうだし、今日はもうみんな帰るか」
時間を確認すると、もう既に五時を過ぎていた。
考えても見れば、この公園に遊びに来た時には既に夕方だったので、そろそろ秋音の家に帰らないと夕食に間に合わないだろう。
「えーもう帰るのかよ!」
「もっと遊んで―筋肉のお兄さん!」
「次はあれやってよー」
公園中にいる子供たちはまだまだ遊び足りないようで、押しつぶされる勢いで囲まれてしまう。
「だー、またここに来るから! そんときにまた遊ぼうなー!」
もみくちゃにされている裕作は、次回以降の遊びの約束を取り付けることでなんとか解放され、集まっていた子供たちは各々解散していった。
「ふー、俺らも帰るか……と言いたいが」
裕作が辺りを確認するも、秋音の姿がどこにもない。
少し前まで秋音と雄太が近くのベンチに座っていた事を確認はしていたのだが、その二人の姿見えないことに気が付いた。
「そういえば、二人の姿が見えないな?」
すぐそばにいる子供たち……薫、美咲、琢磨に話しかけると、三人は「あー」と何かを察したような声を上げる。
「あっ、えっと。それならきっと――」
「あそこっしょ、ほら。あの橋んとこ」
「……雄太君のお気に入りの場所」
周りにいた三人が教えてくれた場所は、ここから少し離れた河川敷だった。
聞いたところによると、どうやらその場所は雄太少年のお気に入りの場所のようで、時折四人で遊びに行くそうだ。
「あっ! 雄太君の秘密の場所だから、言っちゃダメなんだっけ!?」
「別にいいっしょ。公共物じゃん」
「……僕は何も言って無い……言って無い……」
何か聞いてはいけないことを聞いてしまった裕作だったが、二人がその場所にいるのであれば話は早い。
「携帯で呼び出すのも面倒だし、俺迎えに行ってくるわ」
効率だけで考えれば、明らかに携帯電話を使えば楽であろう。
しかし、指先よりも先に足が動いてしまう落ち着きのない性格の裕作は、駆け足のままその場を後にし河川敷へ向かった。
「……腹減ったし、急ぐか」
公園から河川敷までは裕作の足であればほんの数分あれば到着するだろう。
急ぐ必要はないかもしれないが、沙癒から夕食の催促の連絡が来ていたこともあり、裕作は駆け足でその場所へ向かう。
秘密の場所と言っても、裕作にとってはあの河川敷には毎朝の様にランニングで通る道だ。
時間帯的にも道には人がほとんどいない為、最短距離かつ凄まじい速度で走り抜ける。
途中、軽自動車並みの速度で走り抜ける巨体に驚く野良猫がいた気もするが、そんなことを気にすることなく裕作は走り続ける。
そして、数分もしない内に目的地へ到着した。
「うし、後は二人を探すだけだが」
息切れ一つせず辺りを見渡し、二人を探そうとした裕作だったが。
突然、大きな音が辺りに響いた。
何かが水面に叩きつけられたような大きな音が二つ。
まるで、橋の一部が瓦解して水面に沈んだと錯覚するような大きな音。
「――な、なんだ!?」
裕作は音のした方向に視線を向けると、そこは道路橋の下を流れる綺麗な河原。
その水面が波紋の様な揺らぎを見せており、何かが落っこちたのだろうと予想が付く。
ちょうど視界に映っていなかったということもあり、何が落ちたかまでは分からない。
しかし、聞こえてきた音の大きさ的にかなりの重さの物だと分かる為、裕作は急いでその水面の近くまで足を運んだ。
裕作が心配そうに水面を覗いていると、小さな何かが水面から浮上した。
「――ぶはッッあぁーびっくりしたー!」
なんと、ずぶぬれた前髪を掻き上げながら歓声を上げる雄太が姿を現した。
「な、何してんだよお前……」
「何って、上から落ちただけだよ! 流石にびっくりしたけど気持ちいいなぁー!」
困惑する裕作を他所に、ケラケラと笑いながら水面に浮かぶ雄太は、楽しげな表情のまま優雅にその場で浮かんでいる。
「まったく……危ないからもうやめとけよ」
「なんだよー別にいいじゃんかー」
ため息交じりに心配をする裕作に対し、文句を垂れて口を尖らせる雄太は――
そこに誰もいない後ろを振り返りつつ、こう言った。
「秋ねぇも、楽しかったよな?」
雄太は飄々とした態度のまま振り返るも、その場には誰もいない。
「あれ? 秋ねぇ?」
一緒にその場から落ちたはずの秋音が、いない。
そのことに戸惑っていた雄太を他所に、裕作は青ざめた表情で問いかける。
「秋ねぇって、お前まさか」
その問いに対し、雄太は直ぐには言葉を発しなかった。
かわりに、先ほどまでの余裕の表情が消え、どこか焦りを募られたような弱々しい視線を裕作に向けた。
その表情ですべてを察した裕作は、地面を蹴り出し迷いなく水面に飛び込んだ。
※後半に続きます。




