第48話 人気者、秋音君
一日の終わりを告げる夕焼け空の下、穏やかな雰囲気のある住宅街でひと際目立つ甲高い怒鳴り声が響き渡っていた。
「あんたねぇ! ガキ怯えさせるなんて何考えてるのよ!」
「いや、俺なりに交流を深めようと」
「そんな怖すぎる見た目で話しかけたら誰でもビビるでしょうが!!!」
「……はい」
秋音宅の前で、奇妙な光景が繰り広げられている。
小動物のより愛らしい少年が、ゴリラのような見た目の男を正座させてしかりつけていたのだ。
しかも、正座する男はこれでもかと体を縮めて今にも泣きそうな表情で俯き続けている。
常識では考えられないような不思議な出来事に、先ほどまで怯えて震えていた子供たちはポカリと口を開けて唖然と立ち尽くす他なかった。
「まったく……あんらたも大丈夫?」
長い長い説教に一区切りを入れて、秋音はため息を吐くのと同時に子供たちの方へ視線を向ける。
「いや、俺達は大丈夫だけどさ」
「それより、この人だぁれ?」
「つーか、まじで秋ねぇナニモンなん?」
「……すごい人」
彼らの目には秋音が猛獣を従えているように見えるので、尊敬ともいえるような眩しい眼光を向けている。
「別にすごくないわよ。こいつ、あたしの親友だし」
人差し指の先を裕作に向けてそういうと、子供たちは一斉に驚きの声を上げた。
存在自体が反転しているような凹凸のコンビは、小学生の頃からの付き合いである。
そのことに関しては特に特別感を感じていないが、初めて二人の関係性を知った人間は皆信じられない物を見るような反応をする。
「裕作、あんたも自己紹介改めてしなさい」
「……ん、分かった」
驚かれるのは目の前にいる子供たちに限らず、裕作の体が大きくなってから……具体的には中学に上がってからはよくあることだったので、二人にとっては彼らの反応は慣れたものだったりする。
地面に正座した裕作は立ち上がり、ゴホンと一つ咳ばらいをしてから自己紹介を始める。
「俺は才川裕作っていうもんだ。さっきも話したが、俺と秋音は知り合い同士だから別に怪しいもんじゃない」
上半身裸のまま伝えられる言葉には何も説得力を感じないが、少なくとも少年たちはもう疑うことはしていないようだった。
「さっきは悪かったよ、俺はお前たちと仲良くなりたかっただけなんだが……驚かせちまったようだ」
「驚くというより、完全に怯えてたわよ」
「いや、ほんとすまんかった」
後ろ頭を掻きながら、謝罪の言葉を投げかける裕作に対し、
「ま、まぁ。怪しい人間じゃないんならいいけど」
「その、疑ってごめんなさぃ」
「さーせんした」
「……ごめんなさい」
少年たちは言葉を受け入れて、ようやく誤解が解けたのだった。
「うし! これからは俺達は友人だ! 俺の事は気楽に『裕にぃ』とでも呼んでくれ!!!」
「気持ち悪いポーズ取ってないで、まずは服着なさい」
「あ、はい」
両腕に力こぶを受けた裕作を止めるように、秋音はなぜが玄関の入り口に脱ぎ捨てられていた長袖の制服を渡して、着るように催促をする。
そして、彼が制服を身に着けている間にようやく秋音が本題へと切り出した。
「んで、あんたら何の用? あたし友達と遊んでるんだけど」
そう、元を辿れば少年たちが秋音家に悪戯をしかけたことが事の始まりなのである。
そのことに言及をすると、彼らの内の一人……雄太が元気な声で返事を返した。
「秋ねぇ! 遊ぼ!!!」
「あんたまたそれ? さっきも言ったけど、今日は先約があるの」
「えー! いいじゃん遊ぼうよー!」
「ったく、これだからガキは……」
地団太を踏んで引き下がらない雄太に対し、ため息を吐いて困り顔を見せる秋音。
その様子を傍から見ていた裕作は、制服のボタンを留めつつ他の子供たちにも目を向ける。
すると、他の三人もどこか少し悲しそうな表情を浮かべている事に気が付く。
それぞれで反応は微妙に違うものの、どうやら秋音と遊びたいという気持ちは皆同じの様子だった。
秋音にはその可愛らしい見た目と同じくらい、不思議な魅力がある。
物知りでどんな話題にもある程度話についていける趣味の広さから構成されるコミュニケーション能力。
世話好きで、なんだかんだ言いながらも優しく寄り添ってくれる態度。
おまけに、反応が良く話していて飽きが来ないリアクション。
それ以外にも、秋音を構成する要素全てが好感度に直結していき、一度知り合えば忘れられないような強烈なインパクトを残す。
故に、彼は自身で通う早乙女学院でも群を抜いての人気者なのは勿論、校外にもその影響を与えてしまっている。
彼と遊びたい人間などごまんといるだろう……それは、この少年たちも同じ思いなのかもしれない。
「まったく……裕作からもなんか言ってやってよ?」
諦めの悪い態度を見せる少年に困った秋音は、隣にいる裕作に助け船を出してもらうように話しかける。
ここで自慢の肉体を見せつけつつビシッと断れば、流石に彼らも諦めてくれるだろう。
しかし、それでいいのか。と裕作の脳裏に疑問が浮かぶ。
方法はどうあれ、せっかく彼らが秋音に会いに来たというに、それを無下にしてもいいのだろうか。
彼らも秋音と遊びたい気持ちは同じで、それを先に遊んでいたからという理由で帰してしまってもいいのだろうか、と。
「うーん」
「何あんたも考えてるのよ、また変なこと言わないでよね」
両腕を組んで考えている裕作に釘を打つように注意を促すが、
「なら、一緒に遊ぶか?」
秋音の言葉など何の参考にすることなく、裕作はみんなに提案を持ちかけた。
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