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男の娘がヒロインでもラブコメは成立しますか?  作者: @芳樹
3章 その気持ちに、嘘はダメだよ
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第47話 怪物降臨 後半

秋音家にお邪魔している裕作は、悪戯に対応するべく玄関から姿を現した。

最初は執事である黒川が出ていく予定だったが、彼が率先して対応すると名乗りを上げた。

理由は単純で、秋音に借りた恩を返していこうと思ったからである。


秋音が受けている嫌がらせを取っ払うのは、親友として当然のことだ。

彼に降りかかる不幸事は何があろうと手助けする、そんな気持ちを胸にロクに話を聞かずに飛び出していったまではいいが……


――まさか、子供とはな


もっと質の悪い大人による嫌がらせを受けていると思っていた裕作は思わず面喰ってしまい、殺意が漏れ出したような威圧感のある覇気を収めてから、子供たちに声を掛ける。


「お、おい。お前たちは秋音とどういった関係なんだ?」

なるべく優しく声を投げかけるも、目の前に少年少女は怯えてしまい、警戒心をむき出しにしたままこちらを見つめている。


「あ、秋ねぇをどうしたんだ! 何かしたら、タダじゃ置かねーぞ!」

「うぅ、怖いよぉ。――けど、秋ねぇちゃんが心配だよぉ」

「ぶ、ぶっちゃけ。あたしらじゃどうもできないけど、それよりも」

「……心配、怖いけど……心配」


まるでさらわれたお姫様の連れ戻しに来た勇者ご一行の様に、震えながらも裕作に対し強気の姿勢を崩さない四人。

悪戯をしてきたのはあちらの方だが、こちらがまるで悪者のような扱いを受けている。


――案外、良いやつらなのかもしれない


それに対し、裕作は怪訝な表情を浮かべることは無かった。

事態はどうあれ、彼らは秋音の事を心配してくれている様子だった。

普通の子供であれば、脱兎のごとく逃げ出してもおかしくはない状況だが、彼らはそんなことをせず、他人である秋音の身を案じ、不気味な存在に立ち向かっているのだ。


そうとわかれば話は早い。

裕作は秋音の親友であり、彼に何も酷い事はしていないということを弁明すれば良いだけだ。

誤解を解くだけで、今の険悪な雰囲気を撤廃することが出来るはずだと裕作は考え、ゴホンと一つ咳ばらいをしてから言葉を投げかけた。


「その、俺と秋音は親友同士だ。まずは安心してくれないか?」

裕作の優しく語りかけた言葉に対し、彼らはと言うと、


「お前みたいなデカいやつなんかと、秋ねぇは親友になれるわけないだろ!!!」

「ウサギさんと、ライオンさんくらいの差があるよぉ」

「もしかしてー騙そうとしてる? あたしらそんなんに引っかからないよー」

「……強盗かもしれない、いや、多分そうかも知れない」

聞く耳を持たず、むしろより一層警戒心を煽る形になってしまった。


初対面の印象が最悪すぎる故に起きた勘違い。

いや、可憐で可愛らしい印象で定着している秋音とは正反対ともいえる筋肉が出てきたことを考えれば、当然の反応なのかもしれない。


「――困った」

もはやここまでくると何を言っても信用されない可能性まで出てきてしまった。

事態が悪化する前に、家にいる黒川や秋音に出てきてくるようにお願いをした方が早いかも知れない。


……しかし、自分が解決するといって飛び出してきたのにも関わらず、搔き乱した上助けを求めるのはなんだか申し訳ない気がしてしまう。

解決策が浮かんだにも関わらず、どうしても行動に移したくない裕作はその場で悩みに悩んだ。

どうにかこの状況を打破し、彼らとの仲を再構築しながら事態を丸く収める方法はないのか、と。


悩んで、悩んで、悩んだ。

そして、一つの結論に至ってしまう。


――そうか、筋肉で信頼を勝ち取ればいいのか


全身の大半を筋肉に占領されてしまった男が出す結論は、至極単純な物である。

事の発端は、裕作がどういった人間であるか知らないのが原因である。

誰でも、知らない人間が突然目の前に現れれば警戒するのは当然だ。

まずは、自分を知ってもらうことから始めよう……そう、裕作は考え付いたのだ。


それに裕作の過去に、自分の筋肉は美しく他人を魅了する力があると言われたことがある。

トレーニングジムのトレーナーは勿論、不定期に参加しているボディビル連盟が主催する大会では称賛の声を頂いていた。

彼らもきっと筋肉による対話を通じて、親睦を深められるに違いない。


「――決まりだな」

我ながら完璧すぎる計画と、どうしようもなく単純で脳筋が出した指令は直ぐに実行に移される。

体をリラックスさせるために、深めの深呼吸をしながら体を軽く動かしていく。

今回は大会の様に色んなポーズを取るわけではなく、あくまで挨拶……そう、いうなれば名刺交換をするようなものだ。


分かりやすく、カジュアルに。

競技ではなく共有を、戦いではなく平和を。

そして、楽しんでもらうことが大前提である。

そんな心持を抱きつつ、裕作は彼らに対し右肩が見えるように側面を見せつけから、上半身全体に力を込め始める。


「いくぞ!!! ウルトラパワー!!!」


慌てふためく子供たちを目の前に、裕作は上半身を中心に力を込めて筋肉を膨張させる。

限界まで膨張させた両腕を天高く上げ、大きく胸を張る。 

そして爆発的に膨張をした筋肉により、風船のように破裂したシャツが花びらの様に舞い上がった。


着痩せの影響であまり目立っていなかった上半身が露わとなり、その存在感は彼らにとってもはや恐怖の対象でしかない。

丸太の様に太い両腕を曲げた状態で上腕二頭筋に力を込め、脚から腰、そして上半身にかけて前面から映る全ての筋肉を堂々と見せる。 


「見ろ! 俺の筋肉を!!!」


裕作の最も自信があるポーズ……ボディビル業界の王道ポーズ、フロントダブルバイセップス。 

上半身の筋肉を見せつけるこの姿をによって、自身が凛々しく、そして頼りになる存在であるかを示すことが出来る。

おまけに、自分は危険なものを隠し持っていないということも同時に証明出来てしまうのだ。

完璧すぎる自身の計画と、美しい筋肉に酔いしれている裕作に対し、当の本人たちはというと……


「うわああああ!?」

「こわいよぉぉぉぉ!!!」

「いやーーー!!!」

「……きゅう」


突然の脱衣により、今までにない程の阿鼻叫喚の嵐であった。

絶叫する少年と泣きじゃくる女子達。

おまけに一人は既に気を失っているようで、秋音家の前ではこの世の物とは思えない地獄のような空間が広がっていた。


「え……なんでだ? 俺の筋肉は最高で無敵のはず……」

信じられない物を見る目のまま、その場で立ち尽くす。

おかしい……ジムやボディビルの大会ではバカウケの自慢の姿なのにと、どこか自信を無くした様子であった。

だが、自分のやっている事は正しいはずだと信じている裕作は、誤解を解くために上半身が丸見えのままジリジリと近づいていこうとすると、


「あんた、何してんのよバカーーー!!!!」


あまりにも事案発生の出来事に、二階の窓から様子を伺っていた秋音が顔を真っ赤に染めながら駆け付ける羽目になるであった。

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