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男の娘がヒロインでもラブコメは成立しますか?  作者: @芳樹
3章 その気持ちに、嘘はダメだよ
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第46話 想い人 後編

「……秋、どんなことからされたい?」

見下すような視線から繰り出される誘惑の一言。

優しく魅了するような声色に怯えるように、秋音は小さく息を呑み体を震わせる。


このままでは沙癒にどんなことをされるか分からない。

そんな状態の中でも、秋音は体を満足に動かすことが出来ず、まな板の上に乗せられた鯉の様にただその時を待つだけになってしまっている。


「抵抗しないんだったら、まずはあれを――ん?」

しかし、沙癒が何かを開始しようとした矢先、玄関あたりからインターホンが鳴った。


「秋、誰か来たよ?」

インターホンにつられるように、沙癒は秋音から視線を外して音が鳴った方へ振り向いた。


「て、適当に誰か出るでしょ!」

助かった、と言わんばかりに秋音は姿勢を正してから沙癒から少し距離を取る。

そのままベッドの隅に追いやられたクッションを手に持ち、抱きかかえるようにしていつでも反撃が出来る準備をする。


「ふん! あんたもそろそろ下に降りたら? 裕作達リビングにいるから」

「確かにそうだね……秋も一緒にいく?」

「あ、あたしは、いいの! このまま昼寝する!」

いつものよう調子を取り戻した秋音は、鼻を鳴らして強気な態度を取る一方、沙癒の方は少し寂しそうに「そう」と口を漏らす。


「……秋がいないと、寂しい」

「寂しいって、あんたねぇ。下には騒がしいのが二人もいるのよ?」

「でも」

「でもじゃないでしょうが。言っとくけど、あたし今日は部屋出るつもりないから」

「……頑固者」

「な、なによ!?」


二人が可愛らしい言い合いをしている最中、再び玄関の方からインターホンが鳴った。

それも、今度はわざとらしく数回早く鳴らしており、不自然な音が秋音宅に響き渡る。


「……なんか変だね」

「あー、そういやもうこんな時間か」

不思議に思う沙癒を他所に、秋音は部屋に飾ってある時計を見つめ俯瞰したように呆れたため息を吐いた。


「……時間?」

「そ。最近この時間になると悪ガキどもが悪戯してくるのよ」

「……悪戯?」

「子供じみた物よ、インターホンを鳴らしてダッシュで逃げていくの。ほんと馬鹿なんだから」


そう、最近になり秋音宅には夕方になると悪戯をする小学生が現れるようになった。

不必要にインターホンを押して、家主が来るよりも先にその場を立ち去る……いわばピンポンダッシュの標的にされているのだ。


「ほら、見えるでしょ。ガキんちょども」

「……ほんとだ、いっぱいいるね」

秋音と一緒に窓の外に目を向けると、少し遠めの方にある門の目の前でランドセルを背負った小学生がたむろしていた。

ハッキリとは見えないが、男女含む複数の団体が楽し気にインターホンを鳴らしている様子が伺える。


「まぁ、秋の家大きいから目立つもんね」

「ほんっとヤになるわ。何回も怒鳴っても懲りずにくるんだもん」

「それは、災難だね」

「そうよ、しまいには連れ出されて何度か公園で遊ぶ羽目になったし」

「ねぇ、それってただ――」


沙癒が「ただ遊びたいだけじゃ」と言いかけたその時、秋音宅の玄関から誰かが出てきた。


「あ、誰か玄関から出てきたよ」

「まぁ今日は黒川がいるから、任せておけばいいわ」


本日は黒川がこの家にいる為、来客対応は全て彼にまかせておけば済む話だ。

それに、家から秋音以外の人物が応対する事を子供たちに周知させれば、少しは悪戯の頻度が減るかもしれない。

……問題は、黒川が男の娘の他に、ショタ、ロリ、その他諸々の性癖を兼ね備えている為、何か犯罪的なことを起こす可能性があるので、窓際から観察する必要があるくらいなのだが。


「いや、待って秋。良く見て」

沙癒が指さす方向……玄関から堂々と現れたのは、黒川よりも何倍も逞しい体つきをした大男だった。


「あれは……え……なんで?」

そう、玄関から出てきたのは、何故か上着を脱いだタンクトップ姿の才川裕作だった。

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