第43話 あくまでも親友ですから 後半
肩で息をするくらい乱れた呼吸と爆発寸前まで膨れ上がった感情を抑えるために、秋音は閉じた扉の目の前で何度も深呼吸をする。
薄着だというのに体の熱は収まらず、思考はちっとも纏まらない。
全身から噴き出る汗も、普段であればすぐにでもふき取りたいと思うが、今の秋音にそんな余裕は存在しない。
先ほどまで目の前にいた彼……才川裕作の顔が脳内で何度も蘇る。
冷静さのカケラもなかった自身の行動を振り返り、自己嫌悪に陥りそうになる自分を鼓舞するように両頬を軽く叩いた。
「……恥っず」
間抜けな声を口からこぼして、閉じた扉に背中を預ける。
何の変哲のない木の扉だが、火照った体にはちょうど良い冷たさを提供してくれた。
「……ふぅ」
背中の熱が少し冷えたことでようやく落ち着きを取り戻した秋音は、そのまま床に尻もちをつく。
「何やってんだろ、あたし」
思わず口に出した言葉は空中で霧散し、虚しく部屋に響く。
もう、抑えることが出来ないかもしれない。
この気持ちは◆なのかもしれない。
■■になってはいけない。
裕作の事が、本当は【■き】なのかもしれない。
彼に◆なんて、しちゃいけない。
でも、この気持ちは芽生えてはいけないのだと、秋音は自分に言い聞かせる。
溢れそうだった想いを吐き出すように天井に向かって長いため息を吐いてから、俯いて顔を膝にうずめた。
まるで、何かに閉じこもるように。
まるで、何かに嘘を付くように。
秋音は自分を騙そうとする。
けれど、もう遅い。
芽生えた感情は、もうすぐ花開くだろう。
同性だとか、親友だとか。
もうそんな考えは、とうの昔に過ぎているのだ。
後は、彼自身が自覚するだけなのだ。
心のうちに秘められた◆という感情に。