第九話 二つの世界
朝のホームルームのチャイムが教室に響き渡った。
友樹は窓の外をぼんやり眺めながら、昨日の戦闘を思い出していた。
地下基地で見たドロームの機影、アンダーセイバーのコクピットから響く警報音――まるでリアルな夢みたいだ。でも、あれが現実なんだ。
「天野、聞いてるのか?」
突然、先生の声が飛んできて、友樹はハッと我に返った。
「あ、はい!」
慌てて前を向くと、クラスメイトの視線が一斉に僕に集まる。顔が熱くなって、思わずうつむきそうになった。
「ボーッとするなよ」
「す、すみません……」
隣の席の川田がにやけながら指で軽くつついてきた。
「ボーッとしてんじゃねーよ、友樹」
友樹は苦笑しながら頭を掻いた。
地下での戦闘と比べ、平穏な普通の日常が、なんだか夢の中のようでもあった。
最近の友樹は、週に三回、放課後になると新渋谷駅へ向かう。
そこから装甲列車「ライデン」に乗り込んで、前線基地へ行くのが日課だ。
親には「eスポーツの練習会に参加してるんだ」と言ってある。地底人と戦っているなんて言ったら、卒倒するかもしれない。
毎日の屋上でゲームをプレイする習慣も、いつの間にかなくなっていた。
あの頃はただ夢中でゲームをしていたのが、今は現実の戦闘機を操って戦っている。
この二重生活にまだ慣れてないようだった。
「疲れてるのかな……」
帰り道、友樹は小さく呟きながら、学校帰りにいつも通っていた「カブト」にも足が遠のいていた。
ふと立ち寄った本屋で、友樹はオカルトコーナーに目を向けた。
手に取ったのは月刊誌「レムリア」。
表紙にデカデカと書かれた見出しが目に飛び込んでくる。
「緊急警告!地底人はいる!元米国諜報部員の暴露証言」
友樹は興味津々でページをめくった。
「地底人って、やっぱりいるのか……」
記事には、元米国諜報部の証言が載っている。
――地底には高度な文明が存在し、地底人がUFOを操っている。それが地上で目撃される未確認飛行物体の正体の一つだ。
「へえ、UFOって宇宙人の乗り物じゃなかったんだ……」
友樹は興味津々で読み進めた。
――地底人は人類を「取るに足らない存在」と見なしていて、積極的に接触してこないのは、人類の文明が彼らにとって重要じゃないから。もし戦争が起きたら、地底人の技術が圧倒的すぎて、人類に勝ち目はない。
「勝ち目はない、か……」
友樹はため息をついて本を閉じた。頭の中がモヤモヤしてくる。
僕たちが戦ってる相手って、そんなにすごい存在なのかな。
シミュレーション訓練の日。
友樹は前線基地のリモート・コントロール・ステーション(RCS)に座り、アンダーセイバー三号機のコクピット画面を見つめていた。目の前には、AI「ソラ」の声が響く。
「友樹、準備はいいですか? 今日の訓練はドロームの新パターンです」
「うん、大丈夫だよ。よろしくね、ソラ」
友樹は少し緊張しながら返事をした。ソラはいつも冷静で頼りになる相棒だ。ふと、さっきの本のことが頭をよぎる。
「ねえ、ソラは地底人について詳しいのかな?」
画面に映るソラのインターフェースが一瞬光った。
「我々が戦っているドロームを造ったのが地底人だということしかわかりませんね。データベースにそれ以上の情報はありません」
「そうか……じゃあ、僕たちって地底人に勝ち目はあるのかな?」
友樹の声が少し弱々しくなる。ソラは静かに、でもはっきり答えた。
「友樹、弱気になってますね。マインドセットが必要です。『できない』ではなく『できる』と意識することです」
「……うん、そうだよね」
友樹はソラの言葉にハッとした。確かに、弱気になってても何も変わらない。
「ありがとう、ソラ。頑張るよ」
ソラの励ましに、友樹の気分が少し晴れた気がした。