第四話 チームワーク
日本チームの控室では、次の試合に向けたブリーフィングが行われていた。
友樹たちは机を囲み、それぞれ真剣な顔で作戦を練っている。
「次の相手はイギリスだ。ドイツと同様、手強い相手だ。気を抜くなよ」
福田貴史が声を張り上げた。
「何、偉そうに言ってんの?あんた、真っ先に撃墜されたくせに」
小川が福田をにらみながら不満そうに言う。
「まあ……事実だしね」
橋本も追い討ちをかける。
「いや……その……すまん……」
福田は言葉を詰まらせ、下を向く。リーダーとしての自負を持っていたからこそ、その言葉は鋭く胸に刺さったようだった。
しばしの沈黙の後、友樹が椅子から立ち上がった。
「……福田くんが粘ってハンスを引きつけてくれたから、僕は自由に動き回れて、みんなを助けることができたんです!勝てたのは福田くんのおかげです」
友樹の言葉に、小川と橋本が思わず息を飲み、控室内は一瞬静まり返った。
福田は友樹の意外な発言に驚いたが、表情が笑顔になる。
「お前、いい奴だな!」
福田は友樹と力強く握手を交わす。
「これからはチームワークで勝っていこう」
小川が握手した手の上に右手を重ねる。
橋本もその手に重ね、全員が力を合わせるように決意した。
「ニッポーン勝つぞー!」
小川の掛け声に「オー!」と全員が声を揃えた。
「次は、イギリスチーム対日本チームの対戦です!」
アナウンサーの声が会場に響き渡る。
トーナメント二回戦
日本チーム対イギリスチーム
ステージ/海上フィールド
イギリスチーム
リーダー/オリバー・ウィンチェスター
ウィングマン/イーサン・ブラックウッド
エース/ジェイミー・ベネット
カバー/フィオナ・ハリス
日本チーム
リーダー/福田貴史
ウィングマン/橋本優
エース/天野友樹
カバー/小川美咲
イギリスチームのリーダーのオリバー・グレイは、冷静かつ的確な指示でチームを統率する。彼が一番警戒しているのは友樹だった。
「あっちは曲芸飛行が得意なやつがいるらしい。気をつけろ」
空中で編隊を組む日本チーム。
「みんな、気を抜くなよ」と福田が声をかける。
「了解!」と友樹たちが返事をする。
ゲームスタートの合図が出る。
海上ステージ上では、両チームのアンダーセイバーが人工島の滑走路から発進する。
イギリスチームは、開始直後から電光石火のスピードで動き出した。
「散開!」
オリバーの指示が飛ぶと同時に、敵機は四方向から一気に日本チームへと迫ってきた。
「四方から攻撃してくる!バラけろ!」
福田の指示で、編隊を解いて各自が別々の方向に飛んで行く。
橋本機はイーサン機を追いかけ、上昇していった。
しかし、イーサン機は巧みに太陽を背にして飛行し、橋本機の視界を眩ませる。
「……う、眩しい!」
橋本は目を細め、太陽光に惑わされてイーサン機を見失ってしまう。
突然、イーサン機が急降下し、橋本機に機銃掃射を浴びせた。
「くっそ!やられた……」
橋本は操縦桿を引き、ギリギリで回避するが、機体はダメージを受けた。
「機体がやられた……リペアステーションに向かう!」
無線で福田に報告する。
「了解、早く戻ってこいよ」と福田が応答する。
橋本機は戦闘空域を離れ、リペアステーションへ急行した。
リペアステーションは軽微なダメージを修復できるエリアで、そこでの修理は許されているが、失点はそのままになる。
一方、友樹は海面すれすれを滑空し、フィオナ機の背後に回り込む。
照準が目標を捉え、機銃を機銃を撃ち込んだ。
弾丸が装甲を貫き、フィオナ機が制御を失って海面に突っ込んでいった。
「よし!一機撃墜」
友樹が無線で報告すると、福田の叫び声が聞こえた。
「くそっ、追いかけられてる!」
福田機が必死にオリバー機の追跡をかわしているが、オリバーは正確に狙いを定めていた。
ミサイルを発射し、福田機に迫る。
「ミサイルが来てる!」
福田はフレアを発射してミサイルをかわすが、後ろにピタリと張り付くオリバー機からの追撃は激しかった。
「福田くん、今行くよ!」
友樹が後ろからオリバー機の背後に付く。
だが、オリバーは操縦桿を引き、一瞬で機体を回転させ、友樹機の背後に回り込む。
「なんて反応速度!」
友樹は驚きながら、オリバーの放つ機銃掃射を避ける。
「曲芸師め……」
オリバーは友樹を追い詰め、ミサイルを発射。
友樹は瞬時にチャフを撒いてミサイルを回避した。
その瞬間、福田がオリバー機の後ろに付いてロックオンする。
「とらえたぞ!」
福田機から二発のミサイルが発射され、オリバー機はフレアで一発をかわすが、二発目のミサイルが命中する。
オリバー機は爆発し、戦場から消えた。
「やったー!」
福田が歓声を上げた。
「ありがとう、福田くん」
友樹が感謝の言葉を伝える。
「これで借りは返したぜ」
福田は満足げに微笑んで答えた。
その時、小川の無線が響いた。
「誰か、助けて!」
小川機はジェイミー機に追い詰められ、機銃掃射を避けるのに必死だった。
福田が救援に向かおうとしたその瞬間、イーサン機が上空から急降下して奇襲を仕掛けてきた。
「うわっ!」
福田はイーサン機の攻撃をかろうじてかわしたが、すぐに後ろを取られた。
「やばい……」
福田が焦ったその時、イーサン機が突然爆発した。
「戻ったぞ!」
橋本機が戦闘空域に戻り、イーサン機をミサイルで撃墜していた。
「遅いぞ!」
福田が笑いながら言い、橋本も軽く笑い声を返した。
小川機を追い詰めていたジェイミー機に、今度は友樹が狙いを定め、ミサイルを発射した。ジェイミー機は逃げ場を失い、ミサイルに命中して撃墜された。
「ありがとう、天野くん!」
「間に合って良かった!」
友樹が答え、無線に安堵の声が広がった。
試合結果
日本チーム/残り四機
イギリスチーム/残り〇機
日本チームは、強豪イギリスチームをチームワークで見事に破り、二回戦を勝ち抜いた。
観覧席でその様子を見ていた皆月の隣に、アラン・ベイカーがやってきた。
「日本チームはチームワークが良くなっているね」
「はい、福田くんを中心にチームがまとまってきています」
皆月はアランが日本チームに関心を示している事が嬉しかった。
彼女はアランのカリスマ的仕事と講演に魅了されて、大学を卒業してファルコに入社したが、グローバル企業なので社員でも、なかなかアランに会うことなどできなかった。
このゲームイベントは直接アランに会えるチャンスなのだ。
「私には天野くんがチームを引っ張っているように見えるがね」
アランは鋭い目で戦況を分析していた。
「あ、そうですね、天野くんはチームの中では抜群に優秀なパイロットですから……」
「優勝を目指して頑張ってください。期待しています」
アランは手を挙げて観客席を去っていった。
「はい、頑張ります!」
皆月はその後ろ姿を見送り、アランと話せた事に有頂天になっていた。