第三話 エースパイロット
東京アリーナは、かつて見たことのないほどの熱気に包まれていた。
巨大スクリーンには、間もなく始まるトーナメント第一回戦の対戦カードが映し出され、会場の期待感が一気に高まる。
アリーナに集まった人々は、ゲームの最高峰に挑む選手たちを一目見ようと、目を凝らしていた。
トーナメント一回戦
日本チーム対ドイツチーム
ステージ/平原フィールド
ドイツチーム
リーダー/フリードリヒ・シュタイナー
ウィングマン/クラウス・ベッカー
エース/ハンス・ミュラー
カバー/グレタ・シュミット
日本チーム
リーダー/福田貴史
ウィングマン/橋本優
エース/天野友樹
カバー/小川美咲
映像と共に、両チームの選手たちの顔が映し出されるたびに、観客席から大きな歓声が上がる。
特に、ドイツのエースパイロットであるハンス・ミュラーがスクリーンに映ると、会場の一角から「ハンス!ハンス!」とコールが湧き起こった。
アリーナに設置されたスピーカーからは、アナウンサーの声が会場全体に響き渡る。
「さあ、いよいよトーナメント第一回戦が始まります!本日の開幕戦は、強豪ドイツチームと日本チームの対戦です!」
試合前、両チームはセンターステージで握手を交わした。
ドイツチームの選手たちは全員が高身長で、筋肉質な体つきをしていた。
エースのハンス・ミュラーは、冷徹な表情で日本チームのメンバーを見下ろしていた。
友樹はハンスの視線にプレッシャーを感じながらも、しっかりと握手した。
ハンスは薄笑いを浮かべ、その手を離した。
握手が終わると、選手たちはそれぞれの筐体に乗り込んだ。
コクピットに乗り込んだ友樹は深呼吸し、レバーを握る手に力を込める。
画面には広大な「平原フィールド」の映像が映し出されていた。
青々とした草原が果てしなく広がり、わずかに風が吹き抜ける様子までリアルに再現されている。
「天野、準備はいいか?」
ヘッドセットから、福田の声が響いた。
「はい、準備できました」
「よし、相手はドイツだ。あいつらは強豪だから気を抜くなよ」
「了解!」
橋本と小川が応答する。
一方、ドイツチームも最終調整をしていた。
リーダーのフリードリヒがチームメンバーに声をかけた。
「作戦通りにいくぞ。気を抜くな」
「|Verstanden(了解)」
エースのハンスが答える。
クラウスとグレタも同じく応答して、戦闘準備を整えた。
「スタート!」
アナウンサーの合図と共に、両チームのアンダーセイバーが一斉に空中へ舞い上がった。
試合開始直後、ドイツチームの動きは速かった。
特にエースであるハンス・ミュラーは、銀色の機体を彗星のように恐るべき速度で日本チームの編隊に突っ込んできた。
「突っ込んで来るぞ!」
福田の声が無線越しに響いた。
ハンスは開始早々、日本チームの編隊に向けてミサイルを発射。
HUDに表示されたミサイル警告が点滅する。
「いきなりミサイルかよ!」
福田が叫び、操縦桿を引いて機体を回避させた。
友樹も即座に動き、左右に機体をスライドさせながら敵のミサイルを避ける。
ミサイルの追尾音が響き、すぐ背後で爆発音が聞こえた。
「こっちに来てる!」と小川が叫ぶ。
彼女の機体にはホーミングミサイルが追尾してきていた。
「フレアを撒いて!」と橋本が助言する。
小川は指示に従い、フレアを発射。
白熱するマグネシウムの光が空に散り、ミサイルはそちらへ向かって爆発した。
「ふぅ、危なかった……」
小川が安堵の声を漏らす。
だが、その直後、ドイツチームのウィングマン、クラウス・ベッカーが橋本に向かって機銃掃射を開始する。
「助けてくれ!」
橋本が絶叫する。
「今行く!」
福田が機体を急旋回させ、橋本を援護しようとする。
しかし、その動きを見越していたハンスの銀色のアンダーセイバーが、後方から機銃を浴びせた。
福田の機体は被弾し、コントロールを失う。
「ぐわっ!やられた……!」
福田が悔しげに唸った。
「福田くん、大丈夫?」
友樹が無線で声をかけるが、福田の機体は制御を失い墜落した。
「こっちも追いかけられてる!」
小川が焦りの声を上げた。
ドイツチームの連携プレイで、日本チームは次々と分断されていく。
友樹は冷静に状況を分析した。
「まずは、ハンス以外の敵を撃墜しよう」
彼はスロットルを一気に開放し、クラウスの機体を追尾。
橋本を追い詰めていたクラウスの背後に回り込む。
HUDの照準が徐々にターゲットを捕捉していく。
「ロックオン!」
ミサイルが発射され、クラウスの機体に直撃。
機体が炎を上げ、爆発しながら落下していく。
「助かった!」
橋本が友樹に感謝した。
「覚悟しろ、アマノ!」
今度はフリードリヒが友樹を狙い、急速接近してきた。
フリードリヒ機は、二発のレーダー誘導ミサイルを発射してきた。
友樹はチャフ(レーダー妨害デコイ)を撒いて回避する。
一発のミサイルは避けたが、もう一発がまだ追尾してきていた。
「くそ、まだ追ってくる!」
友樹は咄嗟に、小川機とグレタ機の交戦している場所に急速接近した。
「小川さん、上に逃げて!」
友樹が無線で指示すると、小川は即座に急上昇した。
グレタの機体が追撃するために機首を上げた。
その瞬間、友樹の後ろを追尾していたミサイルがグレタ機を直撃する。
グレタ機は大爆発して、平原に墜落していく。
「助かったわ、ありがとう!」
小川の声が無線に響いた。
フリードリヒは友樹を狙い、再び機銃を放ってきた。
友樹は急旋回を繰り返し、攻撃をかわし続ける。
その時、橋本機がフリードリヒ機の後方を取り、ミサイルを発射。
ミサイルがフリードリヒ機に命中し爆発した。
「さっきの借りは返したぜ!」
橋本が笑い声をあげる。
「ありがとう、橋本くん!」
友樹は感謝の気持ちを伝える。
最後に残ったのは、ハンス・ミュラーの機体だけだった。
ハンスは友樹の機体に照準を合わせた。
「よくも仲間を……!」
ハンスの声が怒気を帯びていた。
「ハンスは僕がやる!」
友樹は覚悟を決め、一対一のドッグファイトに突入した。
「ここからが本番だ、アマノ!」
ハンスは冷笑しながらミサイルを放つ。
友樹はフレアを使い、巧みにそれを回避した。
ハンスは後方から機銃掃射を浴びせる。
友樹はその動きを読み、機体を垂直に引き起こし、急激に減速。
コブラ機動でハンス機の後ろに回り込んだ。
「なに……コブラだと?」
ハンスが驚きの声を上げた。
「くらえ!」
友樹は機銃を発射し、ハンスの銀色のアンダーセイバーを撃墜した。
「やった!」
友樹は歓喜の声をあげた。
試合結果
日本チーム/残り三機
ドイツチーム/残り〇機
日本チームは、世界の強豪ドイツチームを破り、トーナメント一回戦を突破した。