第十八話 地底の決戦
一週間が経ったある日。
友樹のスマートフォンが震え、画面を確認すると、皆月からメールが届いていた。
「明日、アランが前線基地から出発します。明日の朝七時、地下鉄で待ち合せましょう」
その一文を読んだ瞬間、友樹の胸は熱く高鳴った。
友樹はすぐに仲間たち、福田、橋本、小川にチャットで連絡を取り合った。
福田「いよいよ来たな」
橋本「上手く行くかな?」
小川「大丈夫、きっと上手く行くわ」
友樹「うん、みんなで力を合わせよう」
彼らはアランが引き起こそうとしている戦争を止めるために行動をともにすることを決意する。
友樹は地下にある新渋谷駅のプラットホームに立っていた。
装甲列車「雷電」がゆっくり入ってくる。
列車が止まり、乗降口の扉が開くと、皆月、福田、橋本、小川が出迎えた。
「さあ、行こうぜ!」と福田が声をかける。
「うん!」と友樹が返事して列車に乗り込んだ。
装甲列車は轟音を響かせて地下にある前線基地へ走り出す。
地底の前線基地に到着した友樹たちは皆月の導きで基地内のコントロールルームへ入った。
「一時間後にアランがゴーストセイバーで出発する予定よ。準備お願いね」
「了解!」と友樹たちが返事する。
それぞれリモート・コントロール・ステーション(RCS)に乗り込む。
「ソラ、頼むよ」と友樹が話しかけると、
「はい、お任せください」とAIのソラが返事する。
その頃、アランは前線基地でアストリア王国への攻撃準備を進めていた。
三十機のゴーストセイバーが格納庫から滑走路へと移動する。
無人AI戦闘機に指示を出すために、アランはパイロットスーツに身を包み、ゴーストセイバーの指揮統制機のコクピットに乗り込んだ。
「よし、準備完了。出撃する」
アランの乗るゴーストセイバーを先頭に、次々と発進していく。
「ゴーストセイバーが出発して行ったわ」
皆月がコントロールルームから管制室の無線を盗聴していた。
「そろそろ行くか」
福田がインカムで声をかける。
「よし、行こう」と友樹が答える。
管制室に気づかれる事を覚悟でアンダーセイバー一号機から四号機までの四機が滑走路から次々に発進して行った。
漆黒の無人戦闘機ゴーストセイバーが三十機の編隊を組みアストリア王国へ向かっていった。
アランの無線に管制室からアンダーセイバーが四機無断で発進したとの連絡が入った。
「小僧ども、私の邪魔をしようと言うわけか……」
アランは含み笑いをしながら
「返り討ちにしてやる」
ゴーストセイバーにアンダーセイバーを撃墜するよう指令を出す。
五機のゴーストセイバーが編隊を離れ、きびすを返して飛び去って行った。
四機のアンダーセイバーは地下トンネルを抜け、鍾乳洞のエリアを飛んでいた。
巨大な氷柱が立ち並び、まっすぐ飛べずに、氷柱を避けながら飛んでいる。
「これじゃスピードが出せない」と福田がつぶやくと、
「アランに追いつけるかな」と小川が心配する。
そこへ、ミサイルが先頭を飛ぶ福田機に向かって飛んできた。
「うわっ!ミサイルだ」
福田がフレアを飛ばして急旋回する。
ミサイルが氷柱に当たって爆発し、破片が周りに飛び散る。
「ゴーストセイバーだよ、気を付けて」と友樹が叫ぶ。
ゴーストセイバーはステルス機能とカムフラージュで完全に姿を消し、友樹たちの目からは見えないまま、攻撃を仕掛けてくる。
「どこにいるんだ!」と福田が苛立ちを見せる。
「カムフラージュで敵機が見えない」と橋本も無力感を覚えていた。
友樹は必死に考えた。視覚で追いかけることも、レーダーで捉えることもできない。
だが、ふと周りの環境に目を向けたとき、彼はあることに気づいた。
「上を見て!天井に沢山の氷柱がある」
友樹はステルスとカムフラージュで見えない敵を直接狙うのではなく、周囲の環境を利用する作戦を思いついた。
「天井を狙うんだ!氷柱を落とすんだよ!」と無線で話す友樹。
「氷柱を!?なるほど、やってみよう」と福田も賛同する。
友樹たちはアンダーセイバーのミサイルを鍾乳洞の天井に向けて次々と発射する。
地底の鍾乳洞の天井に直撃して、巨大な氷柱が粉々になって破片となって散っていく。
その破片が隠れていたゴーストセイバーの機体に当たり、姿が明らかになる。
「機体が見えたぞ!」と橋本が興奮した声を上げる。
「よし攻撃だ!」と福田が続けて叫ぶ。
福田たちは姿を現したゴーストセイバーに向けてミサイルを発射し、撃墜していった。
友樹は再度ミサイルを放ち、さらに天井を崩していき、氷柱が次々と降り注いだ。
氷柱がゴーストセイバーの機体に突き刺さり墜落していく。
「やったぞ!」
福田の歓声がコクピットの中に響いた。
「アランを追うよ」と友樹が声をかける。
「了解!」と答える福田たち。
五機のゴーストセイバーを迎え撃った友樹たちは、アランの部隊を追っていった。
その頃、コントロールルームには警備員が部屋に入ろうとするが、中から鍵をかけて入れないようにしている。
「彼らが戦っている間は、何とか持ち堪えないと……」
皆月は部屋中の椅子やテーブルをドアの前に積み上げてバリケードを作っていた。
ゴーストセイバーの編隊はアストリア王国に迫っていた。
アランはアストリア王国との交渉を思い出していた。反重力技術を盗んだ事は素直に謝罪した。しかし、地上の文明の発展にはアストリアの高度な技術が必要だと説得したが、カヴィール王は首を縦に振らなかった。
それよりも、技術を国外で持ち出した事が重罪だとカヴィール王はアランを逮捕しようとした。
アランは手に持っているアタッシュケースに小型核爆弾が入っている事を知らせると、カヴィール王やエシャトゥーラの顔色が変わった。
逮捕は免れたが、技術供与の話もその後は進展しなかった。
結局は力ずくで奪うしかないのだ。
ゴーストセイバーには小型核爆弾を搭載している。
「これで言うことを聞かなければ、アストリアを破滅させてやる」
アランは交渉ではなく脅迫によってアストリアの技術を奪おうと考えていた。
そこへ、レーダーが後方に四機の機影を捉えた。
「来たな。カムフラージュ!」
アランの指令でゴーストセイバーの編隊は姿を消した。
コントロールルームでは警備員がバーナーで物理的に鍵を破壊しようとしている。
「ああ、何とかもって」
あと数十分持つかどうか、皆月は焦りを隠せなかった。
友樹たちはアランの部隊に迫っていたが、敵機の姿は見えなかった。
「どこにいるんだ?」と福田がつぶやく。
突然、福田たちのアンダーセイバーに機銃掃射が襲いかかってきた。
空中で次々と激しい機銃掃射の応酬が繰り広げられる。
「くそっ!どこから撃ってくるか、わかんねー」
福田が、ゴーストセイバーの機銃掃射を必死で回避する。
「こっちも厳しい!」
橋本が機銃で応戦しつつ、迫り来るゴーストセイバーを避けながらも、次第に追い詰められていた。
「数が多すぎるわ!」と小川が悲鳴をあげる。
「みんな、頑張って!」
数の圧力は次第に友樹たちを追い詰めていった。
ドオオオン!
福田の機体が被弾し、煙を上げながら福田機は墜落していった。
「くそっ!すまない、俺はここまでだ……」
福田の声が無線を通じて届いた。
「福田君!」と友樹は叫んだ。
無情にも福田機の機体は地面に衝突し、爆発の光が広がった。
次に、橋本機がゴーストセイバーのミサイル攻撃を受けた。
巧みに機体を操縦して回避を試みるも、次々と放たれるミサイルの前には為す術がなく、ついに橋本の機体も撃墜された。
「俺もやられた……あとは頼む!」
橋本の無念の声が無線で流れる。
小川もゴーストセイバーに追い詰められ、機銃の弾幕の中で機体が損傷し、最後は炎を上げながら墜ちていった。
「私もここまでだわ、ごめん」
友樹は仲間たちが次々と落とされて、残るは友樹ただ一人。
ゴーストセイバーが押し寄せ、友樹の機体に執拗な攻撃を仕掛けてくる。
彼の機体も次第に被弾し、損傷が拡大していった。
「もう無理か…」と友樹も諦めかけていた。
「友樹、無事か?」
エシャトゥーラのテレパシーが聞こえた。
遠方の空から、光の群れがこちらに向かって飛来してきた。
友樹は驚いて目を凝らした。
アストリア王国のドローム機の編隊が現れた。
青い光を放つ無数のドローム機が、戦場に飛び込んできて、ゴーストセイバーを攻撃する。
「友樹、助けに来たよ。ここは我々に任せて、全速力で逃げなさい」
エシャトゥーラの声が無線から響いた。
「エシャトゥーラ……ありがとう!」
友樹は、その声に胸が熱くなった。
アストリアのドローム機は、指向性電磁パルスでゴーストセイバーのAIシステムを破壊し、無人機たちは次々と地面に墜落していった。
戦況は一転し、アランの部隊は壊滅状態になった。
「くそっ、全滅か……」
離れた場所で、それを見ていたアランはゴーストセイバーの指揮統制機でその場から逃亡する。
コントロールルームのディスプレイでその模様を見ていた福田、橋本、小川、皆月が拍手して沸き立っていた。
アンダーセイバーをAIの自動操縦で帰還させ、RCSから友樹が満面の笑みで出てくる。
「僕ら、勝ったんだね」
「ああ、ゴーストセイバーを全滅させたぞ」
福田は橋本の肩を叩いて喜んだ。
「やはりアストリアの技術ってすごいんだな」
橋本が冷静に分析する。
「よかった……私たち戦争を止めたのね」
小川は泣きじゃくっていた。
「みんな、よく頑張ったわ」
皆月は小川を抱きしめて励ました。
その時、ドアの扉は開けられ、警備員たちがバリケードを破壊して、部屋へなだれ込んでくる。
警備員たちに取り囲まれる皆月と友樹たち。
「はあ、俺たちもここまでか」
福田が諦めたように手を上げる。