第十七話 正義の行方
友樹たち五人は、アラン・ベイカーのオフィスを訪れた。
ドアを開けると、アランは机上のノートPCを操作している。
「アポなしで会いに来るとは失礼じゃないか?」
アランの指摘を受け、皆月が一歩前に出た。
「アラン、失礼しました。是非、お話をしたい事があります」
「私は忙しいんだ。後にしてくれ」
友樹は意を決して、前に出てアランに向かって話しかけた。
「アランさん、僕たちはもう地底人との戦闘を拒否します。彼らは侵略者じゃない。地底人は平和を望んでいるんです」
友樹の真剣な声に、福田や橋本も力強く頷いた。
「僕たちはもう、あなたの命令に従うことはできません」
アランはゆっくりと顔を上げた。その顔には冷たい笑みが浮かんでいた。
「そうか。それは興味深い決断だね、天野君」
彼は友樹をまっすぐ見つめ、冷酷な響きを含んだ声で続けた。
「リトル・ファイター・プロジェクトは、もう終わりだ」
その言葉に、友樹たちの顔色が変わった。
「どういう意味ですか?」
アランは静かに立ち上がり、部屋の一角にある大型モニターへと向かった。
「これを見たまえ」
彼の手がリモコンを操作すると、モニターに漆黒のボディを持つ新型の戦闘機が映し出された。
「君たちの戦闘データを基に、AI搭載の新型戦闘機『ゴーストセイバー』が完成した」
ゴーストセイバーは垂直尾翼が無く、平べったい黒光りする三角形の機体は、まるで海の生物エイのような形をしていた。
「これこそ、私が進めていた極秘計画『プロジェクト・ゴースト』だ」
アランは冷酷な微笑みを浮かべた。
「プロジェクト・ゴースト……?」
友樹が愕然としながらつぶやいた。その言葉は彼らの心を凍らせた。
アランは説明を続ける。
「君たちの戦闘技術を完全にコピーし、さらに改良を施した『ゴーストセイバー』は、AI搭載の無人機だ。すでに三十機が量産されている。地底人との最終戦争はこれで決着がつく」
友樹たちはその言葉を聞いて、言葉を失った。
彼らの技術が地底人を殲滅するために使われるなんて――
「君たちの役目はこれで終わりだ」
アランは冷たく言い放った。
友樹たちは呆然とし、立ち尽くした。
「私が手に入れたいのは、地底人の高度な技術――それによって、地上は新しい革新の時代を迎えるのだ」
アランの言葉には、自信と野望があふれていた。
「さあ、君たちにもゴーストセイバーの力を見せてやろう」
アランは再びリモコンを操作し、モニターに映し出された黒いアンダーセイバーが滑走路を滑り出す映像が映し出された。
「AIによる完全自律飛行だ。無人で、君たち以上の精度と速度で戦える。そして、この機体にはステルス技術とアクティブカモフラージュが搭載されている。レーダーだけでなく目視で見ることもできない――」
アランがリモコンを操作すると、モニターの中で黒い機体が瞬く間に姿を消した。
「まさにゴーストだ!」
アランは誇らしげに微笑み、友樹たちを見下ろした。
「これからは、このゴーストセイバーが地底人を滅ぼす」
アランは手を叩くと、部屋のドアが開いた。
黒服にサングラスをかけた屈強なボディガードたちが次々と入ってきて友樹たちを取り囲んだ。
「君たちはもう用済みだ。ここから出ていけ」
アランの冷たい命令が響き渡った。
「アラン、あなたはそんな人だったの?私はあなたを信じてきたのに……見損ないました」
皆月が涙を浮かべながら訴えた。
しかし、アランは皆月の言葉に耳を貸そうとはしなかった。
「君には失望したよ。別の部署に異動してもらう」
アランは後ろを向き、冷たい声で皆月に告げた。
ボディガードたちに囲まれた友樹たちは、そのまま部屋から連れ出された。
抵抗することもできず、彼らは装甲列車に乗せられ、地上へと返されることになった。
列車の中で意気消沈する友樹たち。
「まさか……こんなことになるなんて」
小川が涙を流して悔しがっている。
「ごめんなさい、私の力が足りなくて――」
皆月が小川の肩を抱いて謝る。
「俺たち、このまま地上に戻っていいのか?アランのやりたいようにさせていいのかよ」
福田はアランに憤っていた。
「近いうちに地底人との戦争が始まる。僕たちに止めるのは無理だよ」
橋本は諦めたように言う。
「僕たちでも出来ることはあるはずだよ。何とかして戦争を止めよう」
友樹は決意を新たにして、何とか解決策を考えようとしていた。
「そうだな、俺たちで知恵を絞って考えてみようぜ」
福田が気持ちを奮い立たせるようにみんなを励ました。
「作戦を考えたんだけど、アランが地底人に戦争を仕掛ける日に僕たちがコントロールルームに忍び込んで、アンダーセイバーで背後から奇襲攻撃をするんだ」
「三十機対四機だろ、勝算はあるのか?」と橋本が懸念する。
「やってみなきゃわかんないだろ!」と福田が怒り出す。
「福田君、落ち着いて。みんなで作戦を練っていこうよ」
友樹が皆月を振り向いて
「これは皆月さんにも協力してもらう必要があります」
「いいわ、私もクビを覚悟で協力するわ」
皆月も決心がついたようだった。
友樹たちは列車の中で相談しながら作戦を練っていった。