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メトロボーイ  作者: 亜同瞬
 
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第十三話 反転する世界

 天野友樹はエシャトゥーラに導かれ、地底都市アストリアの中心にある宮殿へと向かっていた。

 ヴィマーナが静かに宮殿前の広場に着地すると、目の前に広がる光景に友樹は息を呑んだ。数十メートルもの高さの柱が立ち並び、天井は無数の光点で星空のように輝いている。

 足元の石畳は鏡のように光を反射し、宮殿全体が神秘的な光に包まれていた。

 地底人たちの平均身長が三メートルを超えることを思えば、この巨大な建築物も当然だと感じられた。エシャトゥーラですら二メートルで「小柄な」存在とされる中、ここに住む者たちのスケールは友樹の想像を遥かに超えていた。

「ここが宮殿か……すごいな」

 彼は建物の壮大さと宮殿全体に漂う神聖な雰囲気を強く感じ取っていた。

「アストリア国王がお待ちです」

 エシャトゥーラが静かに告げると、友樹の緊張が一気に高まった。

 深呼吸を繰り返し、慎重な足取りで王の間へと進んだ。

 そこには、圧倒的な存在感を放つアストリアの王、カヴィール・サマールが待っていた。

 彼は五メートルを超える巨体で、その姿だけで友樹は圧倒された。

 王の姿は、まるで伝説の中から現れたかのように、堂々たる威厳に満ちていた。

「カヴィール・サマール王です」

 エシャトゥーラが紹介すると、友樹はすぐに深く頭を下げた。

 カヴィール王が低く響き渡る声で友樹の頭の中に語りかけてきた。

「ようこそ、天野友樹。君の勇気と探求心に感謝する」

 その声はまるで大地そのものが語りかけてくるような響きがあり、友樹はその威厳に気圧されながらも、言葉を絞り出した。

「お招きいただき、ありがとうございます」

 友樹の言葉に、カヴィール王は深く頷いた。

「かつて、我々アストリアは地上に存在していた。栄華を極め、地上のどの文明よりも先進的な技術を持ち、豊かな文化を築いていた。しかし、国どうしで戦争が起こり、文明は破壊された。我々は戦争から逃れるために地底へと避難し、ここで新たな文明を築き上げたのだ」

 友樹はアストリアの壮大な歴史に深く感銘を受けた。

「地上で繰り返された過ちは、ここでは二度と繰り返すまいと我々は誓った。だが、アランという地上の者が現れた。彼は偶然この地底世界に迷い込み、我々は彼を助けた。しかし、彼は我々を裏切ったのだ」

「アランが!」

 友樹は信じられない思いで、王の言葉に耳を傾けた。

「アランは我々の高度な技術を盗み、それを自らの野心のために利用しようとした。そして、さらに我々に多くの技術を要求してきた。だが、我々はそれを拒否した。それが地底と地上の戦争の引き金となったのだ」

 友樹の心に衝撃が走った。

 アランが地底世界と地上の争いの元凶だったとは、信じがたい事実だった。

 これまで信じてきたものが崩れ去る感覚に襲われた。

「アランが……嘘をついてたのか……」

 これまで、友樹は地底人を「侵略者」として戦い続けてきた。自分たちは、正しいと思って戦っていたはずだった。

 それが嘘だったとは――。

 しかし、それが誤りだったと知った瞬間、心の中に怒りと悲しみが入り混じる感情が湧き上がった。

「我々は戦争を望んでいない。だが、地上人が我々の文明を破壊しようとする限り、戦わざるを得ない。我が国を守るために」

 カヴィール王は友樹を指差した。

「君にはその戦いを終わらせる力がある」

 カヴィール王の言葉は、友樹の心に強く響いた。

「僕が……この戦いを終わらせる?」

 王は友樹をじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。

「そうだ。君の勇気と正義感が、この戦いの未来を変えることができる。君がその鍵を握っているのだ」

 友樹はその言葉を胸に深く受け止め、大きくうなずいた。

「僕が……この戦争を終わらせるために、全力を尽くします!」

 カヴィール王は微笑み、穏やかな声で言った。

「君に期待している、天野友樹。君の決断が、地上と地底の未来を変えるだろう」

 その言葉を胸に、友樹は宮殿を後にした。


 前線基地に戻った友樹は、すぐさま福田、橋本、小川を呼び、個室で話し合った。

 彼らにも、この重大な事実を伝え、共に行動することが必要だったからだ。

「アランがすべての元凶なんだよ。彼は地底人の高度な技術が欲しくて、戦争を仕掛けたんだ。だから地底人は、自衛のために戦わざるを得なくなったんだ」

 友樹は、福田たちに地底人の真実を伝えた。

「それは本当か?正義の戦いと思ってたものが違っていたってことか」

 福田は目を見開いて驚いた。

「僕たちはどうすればいいんだ?」

 いつもは冷静な橋本が困惑したように口を開いた。

「アランの計画を暴いて、地底の戦争を止めるんだよ」

 友樹は決意をもって言った。

「私たちの力だけでアランに太刀打ちできるかしら?皆月さんを味方に入れたほうがいいんじゃない」

 小川は友樹の言葉に納得しながらも、不安を見せた。

「皆月さんはファルコの社員だぜ、無理だろ」と福田は否定的だった。

「彼女はアランの信者だからな」と橋本が冷たく付け加えた。

「じゃあ、どうしたらいいのよ!」

 小川が泣きそうな顔で呟く。

「一つだけ方法があるよ」

 友樹が真剣な顔で周りを見回した。

「何だよ、その方法って?」

 福田が身を乗り出す。

「戦いを拒否するんだ。アンダーセイバーを上手く操縦できるのは僕らしかいないからね」

「そうか、操縦をボイコットすればアランは困るだろうからな」

 橋本が納得して頷いた。

「それなら私も協力できるわね」

 小川が笑顔で賛同する。

「僕が直接アランに会って話してみるよ」

「おいおい、わざわざ敵の懐に入っていくつもりか?」

 友樹の言葉に福田が慌てる。

「まずは真実かどうかを確かめたいんだ。もし、僕が戻ってこなかったら福田君たちが地上へ逃げて、このことを拡散してほしいんだ」

「ひどい目に合うかもしれないのに……お前、勇気あるな」

 福田が友樹の肩を叩く。

「わかったよ、行ってこい」

「ありがとう、行ってくるね」

 友樹はそう言って部屋を出ていった。

「大丈夫かしら……」

 小川が心配そうにつぶやいた。

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