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メトロボーイ  作者: 亜同瞬
 
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第十二話 地底からの使者

 前線基地の個室で、友樹は深い瞑想に沈んでいた。薄暗い部屋に響くのは、彼の静かな呼吸音だけ。

 地底人との奇妙な接触以来、心は絶えず揺れ動いていた。あの低い声で告げられた「すべてが嘘だ」という言葉が、頭から離れない。

 それは友樹の信じてきた世界を根底から覆すような力を持っていたからだ。

 彼は、心の中でその言葉の意味を考えていた。

「僕たちが戦っている地底人は本当に敵なのか……?」

 突然、スマートフォンが振動して沈黙を破った。

 友樹は驚いて目を開け、机の上のスマートフォンを手に取る。

 見知らぬ番号からのメッセージに、心拍数が一気に上がった。

 心の中にざわめきが広がるのを感じながら、指先で画面をタップする。

「外に出て」

 短いメッセージの一文が目に飛び込み、胸が高鳴った。

 地底人からのメッセージ――そうに、違いなかった。

 真実を知りたい衝動に突き動かされ、友樹は部屋を出た。


 基地の外は薄暗く、冷たい風が頬を撫でる。静寂が広がる中、友樹は周囲を見渡した。

 すると、目の前の空気が揺らぎ、黒い粒子が集まり始める。

 背筋が凍る感覚と共に、人影が浮かび上がった。

 青白い肌、背の高いシルエット――以前通路で遭遇したものだ。

「僕を呼んだのは君かい?」

 背の高い青白い肌を持つ地底人は静かにうなずいた。

「私はエシャトゥーラと申します」

 彼の言葉は友樹の頭の中に直接響いてきた。

「エシャトゥーラ……」

 エシャトゥーラは穏やかに微笑んだ。

「私はアストリア王国から参りました。君たちの誤解を解きたいのです」

 その優しげな表情は、アランが語った「邪悪な地底人」のイメージとまるで異なり、友樹を戸惑わせた。

「誤解って、どういうことですか?」

 アランの言う通り、感情をコントロールしようとしているのか?友樹はまだ疑心暗鬼だった。

「私たちは地上を侵略しようとしているわけではありません。実はその逆で我々が侵略を受けているのです」

「まさか、そんな…」

 友樹は動揺を隠せず、足が震えた。

「まずは私たちを理解してもらうために、君をアストリア王国へ案内したい」

 エシャトゥーラは静かに手を差し出した。

 友樹は躊躇していたが、真実を知りたい気持ちが勝り、恐る恐る手を重ねた。


 次の瞬間、二人は異次元のフィールドを通り抜けるような感覚に包まれ、眩しい光の中へと消えていった。

 光が消えると、友樹は全く異なる世界に立っていた。

 信じられないほど広大な地下空間が広がっていた。

 そこには地上のどんな都市とも違う、信じがたいほど進んだ文明が存在していた。

 広大な地下空間の天井部分には、まるで太陽のように輝くプラズマ発光球が、都市全体を照らしている。未来的な曲面の高層ビルが立ち並び、奥に巨大な宮殿が見える。

 無数の飛行体が縦横無尽に飛び交い、その未来的な風景は友樹を圧倒した。

「ここが地底都市なの?」

 エシャトゥーラは微笑み、彼の疑問に答えた。

「そうです、我々が住むアストリア王国です」

「すごい、まるで未来都市だね」

「はい、地上よりも五千年は進んでいる文明都市です」

「みんな、あなたみたいに背が高いの?」

「私はまだ背が低い方です」

 エシャトゥーラが手を振ると、オープンスポーツカーのような飛行体が近づいてきた。

 タイヤがないそのデザインに、友樹は目を丸くした。

「これはヴィマーナと呼ばれる乗り物です」

 ドアを開け、友樹を乗せると、エシャトゥーラも隣に座り、前面のパネルを操作した。ヴィマーナは静かに上昇し、都市へ向かって飛び始めた。

「これはあなたの物なんですか?」

「いいえ、私たちは所有しないで、共有してるのです」

「へぇー、シェアしてるんだね」

 友樹は身を乗り出して周りの風景を見ていた。

 巨大な三角錐の建造物を指差す。

「あれってピラミッド?地上にもあるけど、王のお墓なんだよね?」

「あれは発電所です。地下水源から発電して都市全体に電気を無線送電しています」

「へえー、電線がいらないんだね」

「そうです。しかも無料で供給されています」

「電気代が無料だなんて、信じられない」

 エシャトゥーラは頷きながら説明を続けた。

「地上人はエネルギーや食物にお金を支払いますが、それは貨幣経済に縛られているからです。私たちはそのような制約から解放されています」

「お金を使わないんだね」

 友樹はあまりの文化の違いに戸惑っていた。

 目の前にある技術や文明のすべてが、彼の常識を超えたものであり、地上で教えられてきたことがいかに偏ったものだったかを痛感した。

「私たちの文明は、地上の文明より五千年進んでいます。侵略して、技術を盗もうとしているのは地上人の方です。」

 エシャトゥーラの言葉に、友樹は衝撃を受けた。

「侵略しているのは……地上人の方だって?」

 彼の中で、これまで教えられてきたものが一瞬で崩れ去るような感覚に襲われた。

 これまでアランが掲げてきた「正義の戦い」は嘘だったのだ。

 エシャトゥーラは続けて語った。

「私たちは平和を望んでいます。戦争は望んでいません。しかし、地上人は私たちの技術を手に入れるために侵略を続けています。戦争を起こし、技術を力で奪おうとしているのです」

 その言葉には、深い悲しみが込められていた。

 友樹は、アランの「地底人から地上を守る戦い」が間違いであることに気づいた。

「僕たちはいったい……何をしていたんだ!」

 友樹は心の中で叫んだ。

 エシャトゥーラは、友樹の肩に手を置き、優しく語りかけた。

「君が真実に気づいたこと、それが大きな一歩です。私たちは君を信じています」

 ヴィマーナは宮殿に近づいていった。

「私たちの王と会ってもらえますか?」

「王様?ぼ、僕なんかでいいんですか?」

 エシャトゥーラは静かにうなずいた。

「アストリア国王が君に会いたいと言っておられます」

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