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メトロボーイ  作者: 亜同瞬
 
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第十一話 現代の魔術師

 ファルコ・グループの新規事業発表会のステージに、アラン・ベイカーが姿を現した瞬間、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

 観衆は、彼の姿を見るや否や、その場の空気を振動させるような熱狂的な歓声を送る。

 アランは両手を広げ、全身でこの拍手を受け止めながら、ゆっくりとステージ中央に歩み寄った。


 アラン・ベイカー――そのカリスマ性と経営手腕、革新的なビジョンは世界中で称賛され、「現代の魔術師」の異名を取る男だ。

 自動車、航空機、軍需、エンターテインメント――あらゆる分野で常識を覆し続けてきた彼の名は、未来を切り開く象徴として語り継がれていた。

 背後の巨大スクリーンに映し出された映像は、ファルコの先進性を象徴する流線型のシルエットで、観客の期待をさらに煽り立てる。

 アランは会場の熱気に応えるように、ゆっくりと話し始めた。

「皆さん、ファルコの新規事業発表会にようこそ。我々は常に新しい発想と技術をもって、皆様の生活を豊かにし、世界を変革することを目指してきました。そして今日は、皆さんにその未来をお見せできることを、とても嬉しく思います」

 観衆は次に何が起こるのかと期待し、会場にはさらに熱気が高まった。

 アランは手を上げ、人差し指をゆっくり立てた。

「私たち人類は、ずっとある“物”に縛られてきました。それは何か――」

 その瞬間、アランの背後にあるスクリーンに、大きく「G」の文字が映し出された。

「そう、それは『グラビティ(重力)』です」

 この言葉に、観衆の中からざわめきが広がる。

 重力――当たり前のように存在するその力が、彼らにとってどんな新たな可能性を提示しようとしているのか、興味と驚きが同時に湧き上がった。

「物理学者たちは長い間、重力の謎に挑んできました。しかし、現代の科学技術をもってしても、まだ完全に解明されたわけではありません。なぜ我々は、自由に地球を離れることができないのか?アポロ計画において、莫大な予算を投じ――」

 アランは指を三本立て、観客に示した。

「月に到達できたのはたった三人です。重力が我々を、地球に縛りつけているのです――」

 彼はステージをゆっくり歩き、考え込むような仕草を見せる。

「しかし――」

 彼は立ち止まり、顔を上げた。

「我がファルコの研究チームは、ついに重力をコントロールするシステムを開発しました」

 再びスクリーンに映し出された「G」の文字の両側に、新たな文字が浮かび上がり、「AGS」という三文字が浮かび上がった。

「これが、アンチ・グラビティ・システム(反重力装置)――略して『AGS』です。これは科学の革命です。これによって、私たちの生活は飛躍的に向上することになります」

 会場中から驚きの声が漏れ、次々に観衆が互いに顔を見合わせた。

 アランの言葉がもたらす影響の大きさに、その瞬間、誰もが圧倒された。

 アランは手を広げ、観衆に落ち着くようにジェスチャーを送った。

「では、この技術によって、どれほど素晴らしいことが起こるか――今から、実際にお見せしましょう」

 ステージの下から白いシルクカバーがかけられた物体がゆっくりとせり上がってくる。

 カバーを取り除くと、中からまるでオープンスポーツカーのようなデザインの乗り物が現れた。

「皆さん、これが未来です」

 アランは、乗り物の下部を指差しながら言った。

「これは、スポーツカーではありません。なぜならば、タイヤがないからです」

 アランは乗り物のドアを開け、イグニッションボタンを押した。

 すると、乗り物はゆっくりと地面から浮き上がり始めた。

 観客席から驚きの声が広がり、次の瞬間、拍手と歓声が巻き起こる。

「これこそ、反重力を応用した『フライング・ヴィークル』です。もう道路なんて必要ありません!」

 観客たちは総立ちになり、歓声を上げながらアランを称賛した。

 アランは乗り物に乗り込み、ゆっくりと浮きながら、会場中を見渡した。

「私たちは、ついに重力の呪縛から解き放たれたのです。そして、皆さんはその瞬間の目撃者となったのです」

 アランはフライング・ヴィークルで空中を滑るように上昇していく。

 会場からは驚きの後に拍手喝采が鳴り止まなかった。

「でも、これはほんの序章にすぎません。もう一つ、未来の可能性をお見せしましょう」

 アランが右手の人差し指を再び立てると、スクリーンに浮かび上がったのは、地上に浮かぶ巨大な宇宙船の映像だった。

 観衆はさらに驚きの声を上げ、その興奮はさらに大きくなっていく。

「皆さん、我々は準備ができました――ついに、あなた方を宇宙へお連れします。ファルコは、スペースシップを開発します!」

 会場中に一斉に大きな拍手が巻き起こり、その音は会場の天井まで響き渡った。

 アランはフライング・ヴィークルをゆっくりと着地させ、降りた。

 そして観衆に向かって堂々と手を広げた。

「これまで人類は、ロケットやスペースシャトルを使って宇宙に到達してきましたが、それでも一度に宇宙へ行ける人数は限られていました。だが、我が社のスペースシップは、なんと200人の乗客を乗せて、宇宙クルーズを楽しむことができるようになるのです。まるで海を航海するかのように、手軽に宇宙の旅ができる未来がすぐそこにあるのです」

 観客たちは立ち上がり、歓声と拍手を惜しみなくアランに贈った。

 アランはその光景を満足げに見つめながら、心の中でさらに次なるステップを描いていた。

「これは、ただの始まりにすぎません。私たちはこれから未来を創造し、その未来を皆さんと共に歩んでいくのです」

 アランの最後の言葉に、再び会場から大きな拍手と歓声が沸き起こった。


 アラン・ベイカーは「現代の魔術師」として、世界に確固たる存在感を示していた。

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