第十話 地底の秘密
週に三回、友樹は学校が終わると、地下鉄の装甲列車「ライデン」に乗り込み、前線基地へと向かう日々を送っていた。
シミュレーション訓練を重ね、アンダーセイバーの操作に慣れ、AIとの連携で戦闘スキルを磨いてきた。
友樹にとって、三号機のAI「ソラ」は、もはや単なるプログラムではなく、信頼できる相棒だった。
「ソラ、今日も頼むね」
「もちろんです、友樹。一緒に頑張りましょう」
ゲームで鍛えた動体視力と反射神経は、現実の任務でも確実に役立っていた。しかし、現実のドロームとの戦闘は、見た目こそゲームと似ていても、実際の挙動や攻撃パターンは予測不能で異質だった。
その微妙な違いを、ソラと共有しながらシミュレーションで調整し、戦場での感覚を研ぎ澄ませていった。
「天野君、準備はいい?」
皆月がモニター越しに確認する。
「はい、大丈夫です」
友樹は落ち着いた声で応えた。
格納庫から出てきた友樹の三号機が滑走路から垂直に浮上する。
福田、橋本、小川もアンダーセイバーで次々と飛び立ち、地底の鍾乳洞エリアへと向かっていった。
鍾乳洞の奥には、敵ドロームの大群が待ち構えていた。
ドロームは上下左右に蛇行しながら飛び、次々とミサイルを発射してきた。
「ミサイル来るぞ!」と橋本が声を上げた。
「避けて!」
小川が叫びながら、機体を急旋回させてミサイルを回避する。
「いくぞ!」
友樹は敵の動きを予測し、機関砲を撃つと、ドロームが爆発音と共に墜落していった。
「一機撃墜!」と友樹が報告。
「ナイスショット!」福田が応える。
「油断するなよ。次の敵が来るから」橋本が冷静に話す。
彼らのチームワークは、次第に洗練されつつあった。お互いをカバーし、連携して攻撃する感覚が自然に身につき、ドロームの猛攻を着実に凌いでいた。
ドロームとの戦闘は厳しいものだったが、ゲームで鍛えられた経験を生かし、着実に成果を上げていた。
ある日、戦闘が終わり、友樹が前線基地の通路を一人で歩いていたときのことだった。
突然、足元に冷たい空気が流れ込み、何かが近づいてくる感覚を感じた。
「……なんだろう?」
友樹は不安そうに辺りを見回すと、暗闇の中から不気味な人影がゆっくりと浮かび上がる。その姿は、まるで煙の塊が人の形をしているかのようだった。
「な、なに……!?」
驚きで足がすくみ、心臓が激しく脈打つ。
人影は動かず、ただ静かに友樹を見つめていた。
そして、低く響く声が頭の中に届いた。
「君たちに教えられていることは、すべて嘘だ」
友樹は何が起きているのか理解できず、ただ立ち尽くすしかなかった。
人影はそう言い残すと、煙のように姿を消した。
友樹はその場に立ち尽くし、心の中で混乱と疑念が渦巻いていた。
「すべて嘘って……どういうこと?」
その言葉が友樹の胸に強く突き刺さった。
数日後、友樹はファルコ社長のアラン・ベイカーと面会する機会を得た。
基地内のオフィスで、アランは革張りの椅子に座り、友樹の話に耳を傾けていた。
「この前、通路で変な人影を見たんです。煙みたいな姿で……『君たちに教えられていることは、すべて嘘だ』って言って消えました」
アランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに冷静な微笑を浮かべた。
「天野君、それは地底人だな」
「やっぱり……そうですか」
「君はまだ地底人の本当の恐ろしさを知らないんだよ。彼らは君の感情を操り、心を惑わせる力を持っているんだ」
友樹は一瞬息を飲んだ。
アランの言葉には不思議な説得力があった。
「感情を操作するんですか?」
「そうだ。地底人は人類にとって危険な存在だ。君たちが今行っている戦いは、地上の平和を守るための正しい任務なんだよ」
アランは静かに語った。
「あなたを信じていいんですね……」
アランはその疑問に対して笑顔を崩さなかった。
「もちろんさ、私たちがやっていることは正義だ。君たちの戦いは間違いじゃない」
アランの確信に満ちた口調に、友樹の心は揺れた。
その夜、友樹は装甲列車に揺られ帰途についていた。
地下鉄の暗いトンネルを走りながら、窓の外をぼんやりと見つめながら考えていた。
「僕たちは、本当に正しいことをしているんだろうか……」
彼の心は、アランの言葉を信じたい気持ちと、真実を知りたいという強い願いの間で揺れ動いていた。