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9. 枝豆はこれに限りますよ



「今年もちゃんと育ったわぁ」


 最近日が落ちるのが早くなってきた夏の終わり。畑で夕日に照らされて輝いているのはそう、枝豆。

 枝豆は夕方に収穫した方がいいのよね。夕方が一番味が乗っていておいしいの。


「楽しみだわぁ」


 畑の肉とも呼ばれる大豆を育つ前に採ったのが枝豆。

 膨らんだサヤを押してみて飛びててきそうなら採り頃。産毛が薄い褐色になっていてもヨシ。

 株を根元から引き抜いてからは時間勝負。これが大変なのよねぇ。


「さて、ちゃっちゃとやるわよ」


 ハサミで枝からサヤを取って、ボールに入れる。

 エグ味とアクを取るために塩で揉み込んで、二十分くらい経ったら水洗い。

 塩をちょっとまぶして、塩味がよりつくように両端を切る。

 あとは沸騰したら塩を入れて、茹だったら火を止める。素早くザルにあげて粗熱で程よく熱を通して。

 はい完成。ちょっと味見。


「うーん、これはビールが欲しくなるわ」


 この世界の成人年齢は十八歳なようで良かった。冷えたビールと茹でた枝豆の組み合わせは最高だもの。

 と、井戸に冷やしておいたビールを取りに行こうと畑に出ると人影が。暗くてよくわからないけれど大きい人だわ!

 野菜泥棒かしら!? とビール瓶で殴ろうとすれば……ケネス様じゃないの。


「……俺は野菜泥棒じゃない」

「気づいたから止めたんですよ。どうしたんですかこんな時間に」

「……話が長引いた」


 ああ、また商売のお話をしていらっしゃったのね。お父様とお義兄様も最近よくその話をしていますがどうも難航してるご様子。


「それで、どうしてこちらに」

「……が見たくなった」

「え? 何ですって?」

「……ぉが見たくなった」


 ぉ……? とぉ……? ああ、トマトね。トマト。耳が遠いんだからはっきり言ってくださいな。

 まったく、あれだけ嫌がっていたくせにそんなに野菜が好きになったなんて。可愛いところもあるじゃないの。うふふ。


「食べます?」

「……なるほど、通じていないらしい」

「はい?」

「……いや、何でもない。もらう」


 と洗ったトマトをガブリ。躊躇もなくなって嬉しい限りだわ。というか疲れているのかしら。どこかくたびれているような……。


「ケネス様も一杯いかが?」

「……?」

「採れたての枝豆を茹でたんですよ。そしてここにはキンキンに冷やしたビールが」


 ってあら、枝豆も嫌いなのかしら。

 ビールを、枝豆で? と怪訝そうな顔のケネス様。この組み合わせを知らないなんて可哀想すぎるわ。


「ちょっとそこの木箱の上にでも座っていてくださいな」

「……木箱が壊れるぞ……って聞く前にいない」

 

 お勝手にサッと戻って、コップと栓抜き、枝豆を取ってきましたら、言った通りきちんと座って待っていたケネス様。


「さ、コップ持って」

「……あ、ああ」


 夏の終わりの蒸し暑い夜。お勝手の光を頼りにトクトクと冷えたビールを注ぎまして。

 若い頃は上手く注げなくて怒られたものだわ。ゆっくり注ぐのがポイントなのよね。


「……ありがとう」

「いえいえ。では、お疲れ様です」

「お、お疲れ」


 カチン、と乾杯。

 まずは枝豆をパクリ。

 歯ごたえのある豆の食感とつよい塩気を楽しんだあと……。

 即座にビールを流し込む。枝豆の塩気と風味を、ビールの苦味と炭酸で流し込むこの瞬間のために……暑い中枝豆を茹でたのよ!!

 そしてまた枝豆を……うふふふふ。


「……食べてみる」


 と私があまりにもひょいぱくゴクを続けているからか、気になったらしいケネス様。

 こうやって豆を押し出して、サヤはこっちのボールに入れて、と教えて。


「……!」


 わかるわぁ、その気持ち。たまらないわよね。私と同じようにひょいぱくゴクを続けるケネス様。

 ビールに塩味は勿論合うけれど……それ以上に枝豆は最高なのよ。二日酔いも予防できるし、脂肪吸収も抑えてくれますし。おつまみとしてとっても優秀。


「あら、そういえば木箱が壊れてないわ」


 椅子を壊したくらいなのだから危ないかと思っていたけれど。


「……少し痩せたらしい。自分でも壊すと思っていた」

「健康になるのはいいことだわ」


 そういえば少しシュッとしたような……。まだまだお腹が大福みたいな形していいるけれど。


「それで、美味しいですか?」

「……仕事終わりのビールは最高だな」

「もう!!!」



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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
― 新着の感想 ―
[一言] まったりとした空気が流れていて、読んでいて田舎のおばあちゃんを思い出しました。田舎に顔を出したくなる素敵なお話ですね。
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