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71. いい夫婦、いい家族



「早く行かないと遅れてしまいますよ。一秒たりとも遅れないことで有名なあなたが!」


 冬の寒さが日々厳しくなるのとは逆に、やっと新年の挨拶や諸々が落ち着いて、日常に戻った頃。私、エミリー・ウォードが朝からしていることといえば、なかなか仕事へ向かおうとしない旦那様の説得でした。

 もうこの人は最近ずっとこう。暇さえあればお腹に手と頬を当てて愛おしそうに抱いている。浮かれているにも程がありますよ。


「あのねぇ、まだ何も感じないでしょう」

「でもここにいる」

「いいから早く行ってきなさいな」


 対して私といえば、やっとつわりが治ってきて、安定期に入ったところで。今まで散々体調不良だったものだから、これは多分私のことも心配しているのだろうけれど。


「あなたはお父さんでしょう。私もお母さんを頑張りますから、ね」

「……行ってくる。見送りはいい」

「はいはい、行ってらっしゃい」


 椅子の背にもたれかかる。そうして家は私と、お手伝いさんとテオだけになって。昔のように静かではないけれど、私の一日が始まるのよね。


「エミリー様! 畑の水やり終わりました!」

「ありがとうね、テオ」


 わしゃわしゃ撫でると、テオは嬉しそうに恥ずかしそうに笑いまして。可愛いくてしっかりものの、私の大事な子。


「でもエミリー様、本当にもう大丈夫なんですか?」

「ええ。前ほど辛くないから大丈夫よ」


 つわり中、たくさん心配をかけてしまった。前世での妊娠経験はあるとはいえ、この体では初めてなものだから。戸惑ったり、喧嘩したり……。


「梅干し持ってきましょうか?」

「ありがとう。それより、私もそろそろ使用人の方々に今日やってほしいことを伝えないと」


 厨房や食料倉庫の前を通るだけで辛いのは大変だったわねぇ。実家でつけていたものがなくなってしまったくらいには、梅干しばっかり食べてたわ、私。梅酒の時に残りで作っておいて正解だった。

 

「オレがやります!」

「テオにはテオの仕事があるでしょう? これくらい平気よ」


 まあでも、貴族で良かったと思うのは家事を頼めること。あと義実家と家が近いのも助かったわ。お義母様の頼もしさと言ったら……。

 それになにより、ケンさんが旦那様でよかった。昔はわかりづらかったけれど、今世はとてもわかりやすくて。一緒に迷いながらも支え合えた。


「さ、今日も頑張りましょうかね」

「はい!」


         *


 日が落ちると月が綺麗で。今日もケンさんは早く帰ってきているのに、なんだかとっても不思議な気分。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「今日は何もなかったか?」

「ええ」


 そうして風呂に入って、ご飯を食べて。リビングでゆったりと。

 どうやら妊娠がわかった時には、仕事を少なくできるように動いていたようで。当主がそんな私情でいいのかしら、とも思ったけれど、個人の幸せも大事だものね。

 ……それはそうと。


「なぜ私を膝の上に乗せているのです? 重くないんですか?」

「重い」

「ほら」

「二人分の重みを感じる」


 食欲も戻ってきましたし、そういう意味で聞いたのではないのだけれど……確かに、最近体重が増え始めてきたわ。


「幸せの重みだ」


 まったく、幸せそうな顔をして。可愛い旦那様だこと。


「オ、オレも! オレも感じたい!」


 側でソワソワしていたテオを、ケンさんが笑って腕だけで持ち上げる。


「わぁ!! 何するんですか!!」

「まだ早い。代わりに俺が持ち上げてやる」


 ……今日も、平和で幸せねぇ。






 こんばんは。秋色maiです。


 実は一年前の今日、この作品の元となった短編を出した日でして、番外編の追加です。本当は11/22に出したかったのですが、その頃はちょうど忙しく……。


 この作品は私にとっての成長に繋がり、たくさんの方とのご縁があった思い入れの深い物語です。ネトコンも一次突破してました。今現在はまたごはんの連載をしております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。


 ひとまず、番外編の更新はここで一旦ストップにしようかと思っていますので、完結にしておきます。

 近頃感染症など流行っております。皆様ご自愛下さい。

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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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