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70. 大きな栗の木の下で

67話より後のお話です。



「テオ、今日は手伝ってほしいことがあるのだけれど……」

「エミリー様? 畑仕事は禁止ですよ?」


 お勝手で朝ごはんの準備をしながらそう告げると、じろりと咎めるようにそう言うテオ。

 妊娠がわかってから、こうなんというか、ケンさんもテオも過保護すぎやしないかしら。


「ち、違うわよ。実家で栗を拾いたいの」

「栗……?」


 金木犀のいい匂いがするようになった秋。秋の味覚といえば、芋栗南京。

 今日の朝ごはんだって、さつまいもご飯だったり。


「実家に大きな栗の木があってね。毎年たくさん採れるのよ。でも私ったら今こうだから、大変になる前に拾ってしまいたくて」


 そう話しながらお味噌汁をよそう。今日の具はなめこ。とろりとしていて、赤味噌が合って。さつまいもご飯との相性もバッチグーなのよね。テオにテーブルを拭くのを手伝ってもらっている間に、他にも副菜を並べて……これでヨシ。


「さ、ご飯にしましょう。ケンさんのこと呼んできてくれる?」

「はーい」


 そうしてみんなでご飯を食べて、まったく毎朝飽きないのかと思うほど心配して言ってくるお小言を聞き流して、お仕事に行くのを見送って。

 お掃除やお洗濯などなど午前中のうちにやっておきたいものを済ませたら、実家へ。

 実家の裏手にある栗の木は、今年もたくさん身をつけていました。テオがキャーキャーと楽しいそうにはしゃぎ回るものだから、思わず童謡が思い浮かんで。ふふ、と笑みが溢れたのでした。

 さて、バケツとトングを取りに行きましょうかね。


「あっ! 持ちますから!」

「あらあら、じゃあお願いね」


 準備もできたので、早速拾い方を教えて。まずは、落ちたままのいがを一つ用意。


「こうやって、両足で挟むのよ」


 軍手を使って手で持つ方法もありますけど……痛いですからね。

 こうやって靴で踏みつけて、トングで取り出す。そしてバケツの中へ。


「わぁ、取れました! 取れましたよエミリー様!」

「上手ねぇ」


 スポンと取れるのが楽しいのよね。というわけでひょいひょいと拾っていきまして。


「オ、オレがやるから、エミリー様は座っててください!」

「大丈夫よ、このくらい」

「いいえダメです! これは大丈夫でも何をしでかすかわからないんですから!」


 そう言ってトングを取り上げてしまうテオ。まあ、楽しいそうだからいいかしら。

 そこそこに拾い終えたら家に帰って、水に沈める。


「わ、なんか浮かんできましたよ」

「浮かんできたものは虫に喰われてしまっているものだから捨てるのよ」


 そういえば、テオに初めて会った時に、渋皮煮と牛乳をあげましたっけ。もう一年前のことなのねぇ。

 そうして仕分けして、できる限りの下処理をして、お団子をこねて……。


「お帰りなさい、ケンさん」

「ああ、ただい……なぜ玄関に栗が?」


 案の定食いついてくださったので、カバンを受け取りながら聞いてみる。


「今日はなんの日でしょうか?」

「……また行事系か。月見はこの間……いや、十三夜か」

「よく覚えてましたね、大正解です。またの名を栗名月とも言うんですよ」


 だから栗か……と置いておいたのを突いているケンさん。まったく可愛らしいんですから。


 というわけでお風呂に入ってご飯を食べた後はバルコニーでお月見を。


「……月が綺麗ですね」

「ああ、これからは、毎年見よう」

「まぁ!」


 去年の十五夜の時は逆だったから……とこっそり仕返しをしてみれば、知らないくせに一丁前に返しちゃって。

 

「なんでエミリー様は照れてるんですか?」

「うふふ、”月が綺麗ですね“は“I love you”って意味なんですよ」

「へー、そうなんですね!」


 どこかの国の文豪の逸話から来ているのと教えれば興味深そうに聞いているテオと、カッと目を見開いて驚いて頑なに目を合わせないケンさん。


「ケンさんは、これからもずっと一緒にいたいんですね」

「……当たり前だろう」


 ツンツンと仏頂面をつつけば、ヤケクソのように薬指に接吻をされたのでした。



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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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