66. これからも続くけれど
「エミリーさーん!」
「ちょっと、ステラさん! 淑女が走るなどはしたないですわよ!」
「あっ!」
「もう……次から気をつけてちょうだい」
さて晩夏といえど暑いこの頃。元気よくやってきたのはステラさんとシャーロット様。
ええと……なにか用事が……ああそうだわ結婚祝いを渡しにきてくれるって話が。
「うわ、本当に畑仕事してる……うちの近所のおばあちゃんみたい」
あらやだ、すっかり忘れていたわ。こんな出迎えもせず畑作りして……。
「……それにしても小さな別邸ですわね」
「庶民からしたら十分大きいですよ。公爵家が大きすぎるんです!」
そうそう、ステラさんの言う通り。なんて頷きたくなりながら手を洗って顔を拭いて。
今日は暑いからアイスティーがいいかしらねぇ。お茶菓子は何かあったかしら。
「お待たせしました。中へどうぞ」
「ええ」
「お邪魔します!」
というわけで応接間に案内してお茶を出して。一息ついたところでお祝いのプレゼントをいただきました。高そうなペアグラスに品のいい食器。二人で選んだのだとか。
「遅くなってしまいましたわね」
「学年末テストに新学期、その他もろもろ忙しかったんですよ……でも私中間テストも赤点回避したんです!」
褒めて褒めて、という風に得意げな表情をするステラさん。うんうん、偉いわぁ。
「誰が教えたと思っているのです?」
「もちろんシャーロット様やみんなのおかげです」
「みんな、偉いわぁ」
その後もシャーロット様の恋事情を聞いたり楽しくおしゃべりしているとまた来客が。
「二人も来ていたのか」
「まさか被るなんてね」
「やぁ、カーレス男爵令嬢……いやウォード伯爵夫人。ケネスは知らないかい?」
いらっしゃったのは、ウィリアム様にルカに殿下。
あらまあお揃いで。そういう日ってあるわよねぇ。
「アポは取ってあるのでは殿下?」
「そんなもの不要だろう?」
「自分は騙されてるってわかってたよ」
なんてギャーギャー騒ぎ出しまして。怒るウィリアム様とのらりくらりしている殿下、火に油を注ぐルカ。仲がいいわねぇ。
「そこまでにしてくださいまし! ……殿下、後でお話がありますわ」
「「「……はい」」」
「ああほらシャーロット様怒っちゃった」
そうしてプレゼントを頂きまして。その後シャーロット様がお説教をし、少しばかりおしゃべりをして、みんな仲よく帰っていきました。
楽しくて嬉しかったけれどやかましかったわぁ。十代って凄いのね。
「……なんでしょう。疲れたわ」
とりあえずさっきの続きをしなくてはと畑に戻って……戻ったのだけれど。
「あ、あら?」
視界が歪んで、目の前が真っ暗になって。
ああ、これ、ダメだわ。
……そう思った時には倒れ込んでいたのでした。
*
次に目が覚めた時には、部屋のベッドの上にいまして。隣にはお医者様。どうやらテオが倒れていた私を連れてきて医者を呼んできてくれたのだとか。ほんと、有能な執事さんだわ。
「────ですね」
お医者様から言われたことはまさに寝耳に水。いや、おかしくはないのですけれども、いくらなんでもねぇ。
「では、お大事に」
「ああ、はい。ご迷惑おかけしました」
そのままぼうっと窓から外を見ると夕焼けが綺麗で。
穏やかな時間に、ドタバタと響く音。ああ、あの人帰ってきたのね。そう思った時にはもうドアが勢いよく開けられまして。
「っエミリー、倒れっ」
「そんな息が切れるほど走ってこなくても」
顔も真っ青で、涙目で、生気もなくて……どっちが倒れたんだって話ですよ。
「……死ぬのか?」
「はい?」
思わず自分の耳を疑いましたよ。どこがどうしてそうなるんです。
「死なないでくれ。エミリーを失ったら、俺は生きていけない。お願いだ」
「ちょっと待ってくださいな。違いますよ。んなわけないでしょう!?」
この人ったらどうしてそうなるの。いつもの冷静さはどうしたんですか。
「妊娠ですよ、妊娠。だから、安心してくださいな」
「は? ……にん、しん」
「そうです。あなたとの子ですよ」
ああ、でも、ここまで慌てているケンさんも貴重ね。私が倒れただけでこうなっちゃうなんて……。
あなたのそんな顔、見たくないしさせたくないもの。
「大丈夫ですよ。あなたを看取るまでは死ねませんから」