61. 義妹さんはおもしろいですねぇ
さてさて無事に引っ越しまして。別邸に着いたので庭に苗を置こうとした矢先でした。
「おっかえりーーー!」
不自然に庭に置かれていた木箱から出てきたのはケネス様と同じ黒髪に瑠璃色の目をした美少女。あらまぁ、顔ってこんなに整うのねぇ。
この方は……確か教会で親族席にいた……。
「これからよろしくねエミちゃん」
「ああ、妹さん!」
と頭の引き出しを漁っていた所に後ろから足音が。
ケンさん……。ああ、心底めんどくさそうな顔をしているわ。
「ミア……どうしてここにいるんだ」
「エミちゃん……義姉さんに挨拶しようと思って!」
「不法侵入で訴えた方が良さそうだな」
そうそう、ミア・ウォードさん! ケネス様の妹さんで、今は学園に通ってるんじゃなかったかしら。相談員だった時に噂を聞いたというかミアさんを好きな方々に恋愛相談をよくされたわ。モテモテなのよねぇ。
「ちょ、ちょっとちょっとそれはまずいって!」
「というか学園はどうした」
「え、サボったよ?」
当然のようにいうミアさん。
はー、陽気な子ねぇ。なんか、輝いてみえるわ。ケンさんは、逆に前面に嫌って出しているからか鬱々とした雰囲気を纏っているけれど。
「今からでも遅くない。学園に戻れ」
「いーやーだー。私は義姉さんと仲良くティータイムでも嗜むんだから」
「荷解きがある。後でにしろ」
「荷解きなんて兄坊がすればいいじゃない!」
「兄坊じゃなくお兄様と呼ぶように言っているだろうが」
ぎゃんぎゃんきゃんきゃんと元気ねぇ。なるほどこれが兄弟喧嘩ってやつですか。こういうときは放っておくに限る。さ、農具も運んじゃいましょうかね。
私が人生二度目じゃなかったら面くらわせられてましたよ、まったく。
「エミリーも嫌がって……」
「あれいない」
「やっと終わりました? ちょうど農具は運び終わったので中の荷物だけですよ。早く鍵を開けてくださいな」
やれやれ。まあ慣れていますがね。夫婦喧嘩は犬も食わないなんていいますが、喧嘩全般、当たらぬ蜂には刺されぬですよ。仲裁とかしようもんならこっちが馬鹿を見ますからね。
「あ、ああ。今開ける」
「私、本邸からお茶でも持ってくる」
「……」
やっと静かになった。ええとこっちが料理道具で、こっちが衣服類、んで、これが……。
「……すまない」
荷解きをしていたら袖をちょんと引かれたので何かと思えばしょんぼりして謝ってきたケンさん。
「別に構いませんけどもね。喧嘩している暇があるなら手を動かしてくださいなって話です」
「……そっちか?」
「それ以外何が」
「いや、驚いただろうし嫌だっただろうと」
確かに驚きましたけどねぇ。でも正直前世であなたの従兄弟さんが借金こさえてうちに転がり込んできたときとか、お隣の旦那さんと喧嘩してうちの窓ガラスが割れた時の方がよっぽど驚きましたよ。あなたは覚えていないでしょうけども。
「別になんとも。面白い子じゃないですか。仲良くさせてもらいますよ」
「……肝が座りすぎてないか?」
あなたのせいですよ、とは流石に言いませんけども。
「まあ、なんにせよ。ちゃっちゃと手を動かしてくださいな」
「……ああ」
雑に誤魔化してしまって、部屋の案内を受けて荷解きを終えて。ちょうど一息つこうかと思ったところでミアさんが戻ってきました。
「本邸から遠くない?」
「遠くしたからな」
これはどうやら自分の家族が面白いのを知っていて話す機会を伺っていたってところですかね。もう全部わかってしまいましたからそんな冷や汗かかなくても大丈夫ですよケンさん。
「じゃあ改めまして。愚兄と結婚してくださってありがとうございます! 妹のミアです」
「これからお世話になります。妻のエミリーです」
妻の、に反応して喜んでいる様子のケンさん。本当に浮かれているわねぇと背中をちょんと突けば我に返った様子。
「伯爵家はもっと厳格なのかと身構えていましたけど、話しやすそうで嬉しいわぁ」
「うちは商業を生業にしているからか、家族に対しては口調が庶民に近くてな」
よかったわ。猫被らずに済みそう。