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58. アスパラガスは梅マヨで



「ただいま」

「あらケンさん。どうしたんです?」

「……今日は何をやっているんだ」


 さて桜が恋しくなってきた五月。五月といえば、この野菜が美味しい季節ですね。


「アスパラガスの収穫ですよ」


 こう根元を持ってサッと切るんですよ。アスパラガスは若芽の部分を食べますからね。若芽が二十センチくらいが食べ頃かしら。

 ……刈り取る時はやはり今までを思い出すわね。アスパラガスは栽培期間が長いの。


「そうか。俺は結婚式の流れについて話しに来た」

「また今度じゃダメですか。アスパラガスは新鮮なうちに食べるに限りますから」


 そう言うとちょっと悩み始めたケンさん。きっと、しっかり資料を用意してきて話す気満々だったのに、食べたくなってしまったんでしょうねぇ。


「……明日も来るからな」

「はい、わかりました」


 さて、この新鮮も新鮮なアスパラガスをどうしましょう。単純に茹でてマヨネーズも美味しいのだけれど……ああ、そうだマヨネーズといえば。


「ケンさんにマヨネーズ食べさせたことありましたっけ?」

「まよねーず?」


 私ったら忘れてたわ。これはアスパラガスのマヨネーズ、いや梅マヨネーズ和えに決定ね。


「よし、じゃあお勝手に入って茹でましょうかね」

「おい自己完結するな。まよねーずってなんだ」

「あなたの好きな調味料ですよ」


 一時期ご飯にかけようとしていたから止めたくらいに。

 とちょっと内心呆れ笑いをしつつ、まずは肝心のアスパラガスを水洗い。


「この三角の褐色をなんていうかわかります?」

「いやわからん」

「はかまっていうんです」


 まるで袴を履いているようだからはかま。確かあの人も剣道を習っていましたっけ。まだ田舎にいた頃は細っこい体で木刀を振っていたわ。剣道四段でしたっけ?


「さ、このはかまを取りますよ」


 包丁の刃先でちょいっと引っ掛けて取りまして。ピーラーがあったらピーラーでもいいわね。


「アスパラガスの美味しい部分の見極めはこう」


 下の硬いところを持ってやさしくしならせると、ポキっと折れるんですよ。この折れた上のところは柔らかくて美味しい上等な部分。下は筋があって硬いけれど、斜めに切っちゃえば大丈夫。捨てるなんてもったいないわよ。


「……エミリーはよくもったいないって言うな」

「あら声に出てました? だって勿体無いんですもの」

「うん。俺も無駄は嫌いだ」


 そうでしたねぇ。……だから夫婦生活がうまくいったのかもしれないわ。適度に違って、適度に似てないと長年連れ添うって大変ですもの。


「それはそうと、お塩をパッパ」


 長いまま折ったものを上下一緒にサッと塩茹で。切った断面から味が落ちますからね。


「はい茹で上がりました」


 次に用意するのは自家製マヨネーズ。簡単にできるのよね。卵黄と酢と塩をよく混ぜて、ちょっとずつ油を混ぜれば完成するの。

 今回は梅マヨなので、梅干しも準備。

 梅のたねを除いて、荒く叩く。んで、マヨネーズと混ぜて。

 アスパラと梅マヨを混ぜれば、戸田家の風物詩、アスパラの梅マヨ和えの出来上がり。


「はい味見」


 とヒョイっと口に入れてあげればこの顔。今世初マヨネーズのお味はいかがです?


「…………なんだ、この、コクは」

「好きな味でしょう?」


 どれ私も一口。

 うんうん、柔らかいアスパラとコクがありつつもさっぱりした梅マヨが合うわぁ。これぞ食べ慣れた味。


「もっと欲しい」

「はいはい、今小鉢によそってあげますから。お土産にもしてあげますよ」

「……エミリーごと持ち帰ればもっと食えるか」

「何を馬鹿な事言ってるんですか」


 阿呆なこと考えてないで。これから毎年食べられるのだからいいでしょう。



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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
― 新着の感想 ―
[一言] 「エミリーごと持って帰れば、、、」 ナイスな発想です、ケンさん。(^o^)b
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