55. 新ごぼうは甘酢漬けに
「……呼ばれる頻度が増えた気がする」
「そりゃ使える人は使いますよ。あなたも野菜が好きなようですし」
「………」
強がったって無駄ですよ、口を曲げていても嬉しがっているの滲み出てますから。
さてさて今日も晴天で気持ちのいい朝。毎度の如く収穫日和ね。
目の前の畑には柔らかくも青々とした大きなごぼうの葉がずらり。
間引き、追肥して土寄せ……ごぼうは放っておける野菜じゃないけれど、こんだけ育ってくれれば文句なしよ。
「さてごぼうは二回目ですけども覚えてますか?」
「秋にきんぴらごぼうを食べた」
「流石、よく覚えてますねぇ」
なんて褒めたのに何故か怪訝な顔をするケンさん。一体何が気になっているのです?
「それは、まだ収穫には早いんじゃないか」
とごぼうを見ながら……ああなるほど。そういうことね。
秋に収穫するのと春に収穫するのじゃ違いますよ。
「これは新ごぼうですから」
「また新か」
「今が旬なんですよ」
早い時期に収穫してしまうので長さは短いですが、つやがあって柔らかくて、全体的に白っぽいのが特徴。
「これは穴なんて掘らなくてもスポッと抜けますから。ちゃかちゃか済ましてしまいましょうか」
……聞くや否やスパスパと抜き始めるケンさん。いつも通り、ここは体力のある人に任せておきましょうかね。
と収穫したごぼうを見れば太さも均等でひげ根が少ない。流石上出来。
「これで全部か」
「相変わらず早いわねぇ」
「今日は何が食える?」
うっ……かわいいわ。
妻、母、婆を一通りやったからか、「食べたい」って言われるのに弱いのよねぇ。
新ごぼう……新ごぼうといえばあれね。
「甘酢漬けにでもしましょうかね」
というわけでお勝手に入って、まずはごぼうをよく洗って。
ごぼうの皮をこそげたら五センチくらいの長さに切る。アクを抜くために少し水にさらしまして。
そうしたらさっと茹でる。
「何をしているんだ……ビネガーと……」
「お酢と砂糖を混ぜて、ちょいと塩を足してるんですよ。寿司酢の代わりです」
「すし酢……?」
ああこの世界お刺身もお寿司もないのよねぇ。思い出したら恋しくなってきたわ。今度鮭買ってきて捌こうかしら。
「あとは漬けたら完成」
さて、漬けている間に朝ごはんの支度でもしましょうかね。ご飯とお味噌汁と……目玉焼きでいいかしら。
「朝飯も作るのか」
「ええ。食べていくでしょう?」
「……ああ」
まずはご飯をといで、炊いて……。
「結婚式のドレスの件だが、本当にあれでいいのか?」
「シンプルでいいじゃありませんか。無駄に装飾しても……」
「俺は違う方が似合うと思った」
そう言われましても。精神が婆には白いドレスってだけでちょっとくるものがありましてね。白い着物なら馴染みがありますよ。死装束って言うんですけど。
お味噌汁の具は、大根と油揚げですかね。
「ケンさんこそシンプルじゃありませんか」
「俺は飾るのが好きじゃないし似合わない。エミリーは違うだろう」
「そりゃ……」
見た目は若い頃のものですけど。黒髪に白いドレスはもちろん似合うでしょう。
ハムとキャベツを焼いて、上に卵を落として。
「俺はエミリーのめかし込んだ姿が見たい」
「っやけに素直じゃないですか」
「見れなくなるよりはマシだ」
んもう。そこまで言われて断れる嫁がいるとでも?
火が通りやすいように、蓋をして……。
「じゃああれです。背中の空いたやつ。花柄のレースがたっぷり使われていた」
「あれか。確かにいいな。飾りはどうするんだ」
「なるべく花がいいですかね」
あとは仕上げに塩胡椒。ちょうどご飯が炊けたようなので盛り付けて。味噌汁をよそって、ごぼうの甘酢漬けも小鉢に。
「ほら、朝ごはんできましたよ」
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
やっぱり新ごぼうは柔らかくて美味しいわぁ。甘酸っぱくて、シャキシャキ歯ごたえがよくて。
「……うまいな」
「でしょう」
「うちでも、畑をするのか?」
「しちゃダメなんですか?」
「いやして欲しい」
ダメと言われてもする気ではありましたが。言葉にされると嬉しいものですね。
……ちょうどジューンブライド? とやらですかね、結婚式は。




