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54. 山菜はやっぱりこれでしょう



「それで、たけのこの次はなんだ」

「あら察しがいいですねぇ。今日は山菜です」


 今日も今日とてケンさんを引き連れ裏山へ。春は自然の恵みがたくさんありますからね。

 と思えば案外乗り気じゃなさそうなケンさん。


「そろそろエミリーの作った野菜も食べたい」

「いつも副菜で出しているでしょう? 嬉しいですけど、もう少し後ですかねぇ」


 ほら、裏山とはいえ、山に登るのにそんなぶすくれた顔でいるんじゃありません。神様は冬の間は山にいて、春になると山から下り田の神様になるといわれているように、山は神聖な場所なんですよ。


「それで、山菜ってなんなんだ」

「山菜というのはですね」


 山で自生している植物で、食べられるんですよ。春の初めに山で採れる苦い味の草を食べると、冬の間に溜まっていた毒が抜けると言い伝えがありますね。


「あなたもきっと好きですよ、ほらあった」


 地面からひょっこり顔を出しているふきのとう。春を感じるわねぇ。

 蕾が開きかけけていてちょうどいいわ。

 こうやって、根を残すように捻って手で取るんですよ。


「これはどうやって食うんだ」

「そうですねぇ……色々ありますけどやっぱり天ぷらかしら」


 そういうと首を傾げるケンさん。そうよね、この世界には天ぷらなんてありませんものね。

 あなたが前世で好きだったものの一つですよ。あなたは山菜の天ぷらも好きだった。味噌汁にしてしまうとちょっと不機嫌になるくらいには。


「ま、とりあえず採りましょうか」

「ああ。エミリーの作るものに不味いものはないしな」

「……あなた最近素直になりすぎじゃないですか?」


 こっちの調子が狂うといいますか……ああ、ほらそうやって鼻で笑って。やっぱり素直じゃないし意地悪だわ。


「このくらいでいいか?」

「それだけあれば十分でしょう。日持ちするようなものじゃありませんし」


 私が悔しがっている間にこんなに集めてきて。そろそろ機械よりも仕事ができそうだわ。

 というわけで戻ってさっさと下処理を。


「まずは新聞紙の上に広げて、ゴミやら虫やらを取り除いて」


 このままお勝手に持っていくと大変ですからね。ほら蟻んこが出てきた。

 やっぱり魂が覚えているのか、なんだかうれしそうなケンさん。やれやれ、見覚えがありすぎますよその顔。


「そうしたらまずは一枚剥きます」


 それでお尻の黒ずんでいるところを切って、水にさらす。

 山菜はとにかくアクを抜くのが大事。天ぷらだから今回はそこまでいらないけれど。

 さらしたらしっかり洗って、水気を拭き取ります。


「かわいいわよねぇ」

「そうか?」

「蕾はかわいいでしょうに」


 蕾が見えるように葉を広げて、包丁で軽く上から潰します。油通りは大事よ。

 そうしたら天ぷら粉を用意。薄力粉と冷水と卵でささっとね。卵と冷水を混ぜて、薄力粉も混ぜて。少しダマが残るくらいがちょうどいいわ。


「それはなんだ」

「天ぷら粉ですよ」


 そうしたらさっき開いて潰したふきのとうに全体的に衣をつけてあげていく。

 カラッとするまで揚げたら完成。


「…………」

「そんなにじーっと見なくてもあげますよ。ほら味見」


 んもうそんな雛鳥みたいに。

 ちょちょいと塩を振って。


「熱いから気をつけてくださいね」

「……ん。っ!」


 ほら言わんこっちゃない。水を用意……ああでも嬉しそうだわ。そうですかそうですか、美味しいですか。


「……もう一個」

「味見は味見。ちゃんと皿に盛るまで待ちなさいな」


 どれ私も一口。

 うん、ふきのとうの天ぷらといえば、このほろ苦さと引き立ててくれる塩、さっくりふわっ食感よねぇ。


「ああ、そうだ。結婚式の件だが、ドレスを選んでくれ。今度仕立て屋がくる」

「ドレス、ですか……」


 昔は白無垢を着ましたけどねぇ。娘や孫のように、私も教会でドレスですか。


「金は気にしなくていい。一度しかないものだからな」

「最近じゃ離婚も多いですけどねぇ」


 婚約破棄やら不貞やら。愛人問題なんてしょっちゅうですし。なんて言えば、


「するわけないだろう?」


 と凄まれまして。ああ、そうだわ。この人いつまでも一途で粘着質で……鶏ガラみたいな婆になっても私に執着してましたものね。


「……ハイ、ソウデスネ」



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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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