53. シャーロット・ロレーヌは愛を知りたい
『殿下に近寄らないでくださいまし!』
その後もウォード伯爵令息とその婚約者、恵みの聖女の話ばかりされ、もう限界だった時、ちょうどあの舞踏会でカーレス男爵令嬢を見つけてしまいました。
そして、私は淑女失格にもヒールを鳴らし、高圧的に言いつけました。
高位の貴族が下位の貴族を虐げるなんて最悪なことをしたのです。けれど、そんなこと痛くも痒くもないようにカーレス男爵令嬢はタルトを頬張っていて。
『田舎者なものでして。粗相をしてしまい申し訳ありません』
何もかも余裕そうに綺麗なお辞儀をしただけ。なんだか自分がとても小さく見えてきて、惨めで。ペースを乱されたところに純粋な善意でワインを差し出され、飲んでしまい、あれだけ妬んでいた相手に醜態を見せてしまいました。
『わ、私だって優秀ですのに。学園では殿下に次いで二位の成績を収めてますし、公爵令嬢として正しい振る舞いをしてきたはずですわ……』
泣き言もワインも溢して散々な私を、カーレス男爵令嬢は優しく諭してくださいました。
『殿下とのことですけどね。そういう時期は誰だってありますよ。親が決めた結婚相手なんて、最初は合わなくて当然』
それはなんだか見た目とはミスマッチなほど達観していて、とても柔らかい口調で。
祖母がいたらこんな感じかしら、なんて失礼なことを思ってしまいました。
『徐々に徐々に、時間をかけて擦り合わせていくものなんです。まずは、共通の話題を探してみてもいいかもしれませんねぇ』
その誰かを見ている眼差しがどなたかと紡ぎ上げてきた深い愛情を語っていました。
それから何度か文通をして、エミリーさんと少しだけ親しくなりました。
ですが、私は一向に愛情がわかりませんでした。愛しているなら、ルイス様のために考えなければならないのに、嫉妬で狂いそうになっていたのです。どうして、と軽く恨みかけていました。
『シャーロット様は、間違ったことを仰ってるんじゃありません。逆にちゃんと窘めて偉いわ』
お茶会で恵みの聖女……ステラさんについて話すと、エミリーさんはまた優しく教えてくださいました。
『でもねぇ、人を変えたいならまずは自分が動いて、変えないと、ダメなのよ』
目から鱗でした。私は、ただただ周りが変わるように願っているばかりで、何もしていなかったのです。こんな私が、ルイス様に相手にされないのは当たり前でした。
『恋は盲目と言いますからね』
反省している私を見て、エミリーさんはお茶目に笑って。この謎の包容力はなんなのかしら、と私が首を傾げたのは未だ記憶に新しい話です。
私は必死にステラさんと距離を縮めようとしました。礼儀作法のなっていないことを教え、お茶に誘い、お菓子を与え……しかしそれは全て逆効果。怖がられて、まるで虐められているかのように逃げられてしまう日々。
頭を悩ませていたちょうどその頃、エミリーさんが学園の相談員として常駐することになりました。
『私教えようとしましたのにっ! 泣きながら逃げられ……て……』
『え!?』
『なっ!!』
その日もうまくいかず、泣き言を溢しに行けば、そこにいたのはステラさんで。
私達はお互いにすれ違いをしていたことを知りました。
『ずっと、私が嫌いなんだと思ってました』
『き、嫌いと思っていたこともあったわ。でも、まずは知ってから、嫌いになろうと思ったの』
私は相変わらず素直に物が言えませんが、それでもステラさんは受け入れてくださいました。
交友を深めていくうちに、庶民と貴族の意識の違い、彼女の努力家な部分、純粋さを知り、だんだんと嫉妬も無くなってきて。
距離の近い友人がいるだけで、こんなにも世界が違うなんて、と私は驚きました。
二人で勉強をしたり、買い物に出かけたりしているうちに、日々が楽しくなってきて。ルイス様とも穏やかに話せるようになりました。
余裕のなかった頃が嘘のようでした。
『いや、ルイス殿下、結構シャーロット様のこと好きだと思いますよ? だってほら、今もこっそり見てる』
なにより恋バナ? というのが一番衝撃的で。
愛というのは、自分だけではわからないものだったようなのです。




