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44. 胃に優しくしましょうか



「新年あけましておめでとうございます」

「あけまして……?」

「今年が明けておめでとうございますってことですよ」


 無事に新年を迎えまして。男爵家の我が家でさえ忙しい新年。伯爵家は相当だったようでげっそりした様子のケネス様。それでも落ち着いたらすぐに挨拶に来てくれるところが、マメというかなんというか。


「あけましておめでとう」

「今年もよろしくお願いします」

「……ああ。それで、何をやっているんだ」


 あら、わざわざ裏山近くの原っぱまできてくださっている時点でわかっているものかと。


「何って、若菜を摘んでるんですよ」


 せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ。

 あとは畑で採れたすずな、すずしろ。これぞ七草。


「ご馳走だらけで大変だったでしょう。せっかくだから食べて行ってくださいな」

「その草をか?」

「これで七草粥を作るんですよ」


 七日の朝に病気をしないように願って作る、七種類の菜を入れた粥。それが七草粥。


「これがせり」


 水辺に生えるやつで、若い葉、茎、根が食べられる。まるで競り合うかのように生えているから芹と言われているのじゃなかったかしら。


「そっちがなずな」


 別名ぺんぺん草。ちょっぴり辛くて香りがあるのよね。


「ごぎょうはそれ」


 別名母子草。よく道端で見かける黄色い花のやつ。咳止めにもなるわ。


「ほら、はこべら」


 これも道端によく生えてるわね。柔らかいから鶏や小鳥の餌にもされていたわ。


「そしてこれがほとけのざ」


 これはよく見かけるやつとは別だから注意。紫色の甘い蜜をもつ花を咲かせるやつじゃないの。茎が長く伸びる葉っぱの大きい黄色い花を咲かせる方。今は鬼田平子っていうのかしら。


「あとは畑からすずな、すずしろ……大根とカブを採ってくれば」

「採ってくる」

「汚れないようにお気をつけて」


 さて、採ってきてくださっている間に野草を洗いまして。


「……ん」

「はい、ありがとうございます」


 まずは、すずな、すずしろをさいの目切りにする。その葉と他の菜葉はサッと塩茹で、刻む。


「唐土の鳥が日本の土地へ渡らぬ先に、なずな七草あわせてホトト」


 刻みながらこれを七回唱えまして。


「何を言っているんだ?」

「農作物を食い荒らす害鳥を追い払う呪文ですよ」

「魔女だったのか」

「ちが……そうかもしれませんねぇ」


 長く生きたらみんな魔女みたいなものだわ。図太くしつこく強かに、魔女のように高笑いしてるもの。まあ、さめざめと泣いて愚痴をこぼす人もいたけれど。


「……なるほど」

「何がなるほどなんですかねぇ」

「……別に腑に落ちてなんかない」

「まったく失礼な。ちょっと他のご令嬢とは違うだけです」


 すずなとすずしろは白だしを入れたお湯で煮る。冷やご飯を湯に入れて。柔らかくなったら菜葉を入れる。味を見て、塩気が足りなければ足して出来上がり。


「はい、どうぞ」

「「いただきます」」


 とろっと素朴な味だわぁ。これぞ七草粥。胃に優しい。


「エミリーみたいだな」

「誰が菜葉ですって?」

「あっ」

「……あらそういえば、愛称呼びだなんて珍しい」


 バッと口を押さえて、つい言ってしまったという感じのケネス様。


「……すまない」

「別に構いませんよ。私もケネス様のこと愛称で呼ぼうかしら」


 ケネス様だから……ケンとかかしら?



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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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