40. 一番寒い日はシチューで
「今日はなんの日でしょうか?」
「学園に行かなくていい日だ」
「……違いますよ」
そんな自信満々に言われましても……。
確かに久々にゆっくりできる日ですよ。ですがね、今日は暦の上で行事があるんです。
「今日は冬至です」
「とうじ」
「夜が最も長い日ですよ」
かぼちゃを食べたり、柚子湯に入ったりすると風邪を引かない、なんて言われているんですよ。
「……聞いたことがない」
「遠い国の文化ですからね」
遠い国といいますか前世の世界の文化ですが。混乱させても仕方ありませんし。
「というわけで、今日はブロッコリーを収穫しますよ」
「どうしてそうなった」
「冬至の日に“ん”がつく食べ物を食べると幸運になると言われているんですよ」
ちょっと待てと怪訝そうな顔をしているケネス様。別にこじつけでもなんでもありませんよ。
「かぼちゃは、なんきんとも言いましてね。今日はかぼちゃシチューにしようかと」
「……ほぉ」
「シチューの具材にブロッコリーを入れるんです」
ちょうど採れごろですしね。
ブロッコリーを育てている畑に行けばほら。花蕾が濃い緑色で、触ってみれば硬くてしっかりつまってる。ブロッコリーは寒さに弱いからちょっと管理が大変なのよねぇ。来年はもう少し早く蒔きましょうっと。
「はい、ナイフ。これで、こう切ってくださいね」
こう花蕾を持って、主枝から切り落として。
やって見せた通りにポンポン収穫していくケネス様。これはもうそういう機械ね。あっというまに収穫が終わってしまう。
「助かるわぁ」
「……ふん」
嬉しそうな顔しちゃって。もうすっかり野菜好きじゃないの。収穫するのも食べるのも楽しいくせに。まーだ強がって。
「流石冬至、日が落ちるのが早いわねぇ」
「……そういえばそうだな」
「あなた最近ずっと朝か夜しかうちに来ていませんでしたものね」
さて、お勝手に入ってシチューを作り始めましょうかね。
「とりあえず野菜をよく洗って」
まずホワイトソースから。バターを溶かして、小麦粉を振り入れる。焦げないように炒めたら、牛乳を少しずつ入れて伸ばして。
同時にカボチャも蒸しときましょ。
「ホワイトソースってこうやってつくっていたのか」
「あなた知らなかったの?」
「まったく」
次に鶏肉を炒める。臭み消しにローリエを二枚くらい入れまして。お肉の色が変わったら野菜を入れる。今日はにんじん、じゃがいも、玉ねぎ。この時焦がさないように気をつけること。そうしたら水入れて煮込んで。
柔らかくなったところで先ほど作ったホワイトソース。ここで今日の主役、カボチャを入れる。最後に塩胡椒で味を整えてと。少しおいて、温め直す時に別茹でしておいたブロッコリーを入れる。
「はい完成」
「パンも焼いておきましたし、食べましょうか」
「ああ」
“ん”がつくから、というのもあるかもしれないけれど、とくに栄養があって保存もきくかぼちゃを食べるのは、寒い冬を元気に過ごすための、昔の人の知恵なのかもしれないわね。
「「いただきます」」
さてどれどれと一口。うーん、あったかくてまろやかだわぁ。じゃがいもは滑らかでとろりとしていて、玉ねぎはシャキッとクタッと。にんじんもほっくりと。ああ、にんじんも“ん”ね。
そしてなにより、甘くてとろけるかぼちゃとしゃっくりブロッコリーがいいわぁ。
「……寒いのもいいな」
「おいしさが際立ちますねぇ」
風邪を引かないように、栄養を取らなくちゃね。