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4. そんな急がなくてもオクラの肉巻きは逃げませんよ



 というわけで数日後。もうニ、三日で食べ頃になるのはオクラ。

 これは絶対にあの頑固者にも食べさせてあげなくちゃいけないわ、と早速ペンを取りまして。


「これをウォード伯爵家に届けてちょうだい」


 とメイドに渡しました。


         *



「うんうん、よく育ったわぁ」


 さてさて今日採れたのは濃く鮮やかな緑色のオクラ。産毛びっしりで育ちすぎずいい塩梅。育ちすぎると味が落ちますからね。


「今厨房をお借りしても?」


 書き終えたので早速お勝手に。いつも隅っこを使わせてもらっているのよね。

 さ、早くしなくては。野菜は鮮度が良ければ良いほど美味しいんだから。

 ふーむ。おかかで和えてもいいけれど……鰹節ってあるのかしら。

 この乙女げぇむとやらの世界はどうにもおかしくて、前世での食べ物があったりなかったり。まあ、細かいことはどうでもいいわね。気にしてもしょうがないわ。


「ああ、鰹節はないけれど醤油はあるのね」


 とゴソゴソと調味料棚を漁っていれば、醤油にみりん、お酢、味噌が。

 よかったわぁ。大抵の料理は作れそうね。


「今日はオクラで何を作ろうかしら」


 オクラ……醤油にみりん……。

 確か豚肉もあったはず……。


「オクラの豚肉巻きね」


 まずは、下処理を。オクラは、ガクをぐるっと一回り削るように取って、どうせ火が通るんだからさっと下茹でをすればいいだけ。

 そしたら豚肉に塩胡椒を振って、オクラに巻きつける。ここでキツく巻きつけるのが大事。

 次にフライパンにごま油を引き、巻いたのを全体に焼き色がつくまで焼く。

 最後にタレをちょちょいと絡めて。タレは目分量で、まあ砂糖一、酒みりん醤油を二くらい。適当よ適当。味が良ければいいの。


「よしできた」


 パッと作れて冷蔵庫なら4、5日は持つから作り置きにできるし、夕飯にもお弁当にも大活躍だったわねぇ。

 ……味見でもしようかしら。

 といい匂いに誘われて箸を取ったところで、


「お嬢様、ウォード伯爵をお連れしました」


 メイドの声と共にお勝手の戸が開きまして。立ったまま大口を開けているところをバッチリ見られてしまいました。

 ……なんて間が悪いの。


「……それは肉じゃないのか?」


 とケネス様は開口一言。

 やれやれとそのまま一口放り込んでから、ケネス様にも押し付けようと背伸びを。まったく大きいんですから。


「……食べろと?」

「そうへふ(です)よ」


 とぐいっとより近づければ、観念したようにケネス様もパクりと。なんだかアヒルに餌やってるみたいね。立ったまま食べさせてちょっとお行儀悪かったかしら。

 それにしてもいい出来だわぁ。これはきっと驚くわね。


「……………!」


 ほら見たことか。

 そんな子供みたいに驚いてしまってもう。


「何か仰ったらどうですか?」

「……これは本当に野菜か?」

「勿論」


 食物繊維も多いですし、特にネバネバはお通じにいいんですよ。コレステロールも下げてくれるし、あの人にもよく食べさせてたわねぇ。好物でしたし。


「肉の食感ととろりとしたこの……」

「オクラですよ、オクラ」

「おくらの相性がいい。まるで肉の一部みたいだ……」


 と嬉しそうにもう一個食べようと手を伸ばすケネス様。お行儀悪いですよ、一言断りなさいなと手を叩きまして。


「お勝手のすぐ裏が畑ですし、見に行きます?」

「…………行く」


 というわけで、素直に興味を持ってくれたようなのでもう一口。あら嬉しそう。

 ふふふ。


「これが、オクラか?」

「そうそう、切ると星みたいな形なんですよ」


 虫の対策と支柱を立てるくらいで他は放っておいてもよく()るしお料理にも色々使えて優秀なのがオクラ。すぐ固くなっちゃいますから採り忘れしないようにしないとねぇ。

 興味深そうに見ているケネス様を尻目にそんなことを考えつつ。


「どうです? 野菜、美味しいでしょう?」

「…………一概にそうとはいえない」

「っまったく強情だこと!」



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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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