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39. 中庭は落ち着きますね


「お疲れ様です」

「……ああ」


 お弁当を持ったままウロウロとしていたケネス様。どこに向かおうとしているのかしら。中庭は向こうですよ。


「中庭に行くんでしょう?」

「ああ」


 スタスタと隣を歩いていると、なんだか学生に戻った気分。もしも同級生だったらどんな感じだったかしら。立場をわきまえて近づかないでしょうか? それとも今みたいにお節介焼き?


「さ、お弁当食べましょうか。今日はほうれん草のバターソテーですよ」


 夕採れだから甘みと旨みがぎっしりですよ。ほうれん草は寒さにも強くて、秋から冬にかけて育てるのがぴったりな野菜。二十センチ以上葉が育ったら採れごろ。ハサミで根本をチョキンとね。


「……知ってる料理も作れたのか」

「異国の料理しか作れないわけじゃありませんよ。好みと献立の問題です」


 ついつい和食ばかり作ってしまうけれど……たまには洋食でもいいかもしれないわね。ちょうどブロッコリーが採れごろだからシチューにでもしようかしら。

 なんて思いながらお弁当箱を開けまして。

 半熟と硬めの境目の味付煮卵に、バターソテー、きんぴら、カブの甘酢漬け。白米にはゆかりを散らしまして。


「「いただきます」」


 バターソテーの作り方は簡単。

 塩入れた熱湯でよく洗ったほうれん草をサッと硬めに下茹で。よく水気を絞って、食べやすい長さに切る。

 私は焦げるのと風味が飛ぶの嫌だからオリーブオイルでベーコンを炒めてからほうれん草加える。それで最後にバターを入れる。塩胡椒で味付けをして、醤油もちょろっと。


「う……う、うん。まあまあだな」

「まあまあってなんですか。まあまあって」


 ゆかりや甘酢漬けは爽やかに白米を引き立ててくれますし、味付煮卵は味がしみしみで黄身がお弁当にちょうどいいトロッと加減。きんぴらはいつも通り甘じょっぱくて歯ごたえよし。

 しなっとしたほうれん草とベーコンの旨味、バターのまろやかさが最高に美味しい。


「……まあその顔に免じて、許してあげましょう」


 まあまあって顔じゃないですよ。まったく。そんな美味しい嬉しいって全面に出しちゃって。素直になりなさいな。


「ご馳走様でした」

「はい、お粗末様でした」


 ここからでも見える時計塔をふと見れば、午後の授業までまだ少し時間がありそう。

 冬の包み込むような穏やかな日差しで、うつらうつらしているケネス様。お疲れねぇ。


「寝てしまってもいいんですよ」

「いや……寝なぃ……」

「大丈夫ですよ、私がいるんですから」

「………ん」


 結局耐えきれずに寝てしまう。

 ああ、ああ、そんなに大きく船を漕いで、前に倒れても後ろに倒れても大惨事ですよ? あなた体が大きいんだから。


「しょうがないですねぇ」


 そのまま横に倒すようにして、よし。膝の上にちょうど頭が来るようにできたわ。……重いけれど。まあ少しだけですが、ゆっくり休んでくださいな、と髪を撫でればなんだか違和感が。


「あら?」


 私、この感触を知ってるわ。でも、一体どこで? ケネス様とは夏より前に会ったことはないはずよ。

 うーんと悩んでいれば、向こうから芝生を踏み分ける音がしまして。

 しーっと口に指を当てて教えれば、小声で話しかけてくださいました。察しがよくて助かるわぁ。


「ケネスに嘘の場所を教えられた……」

「それは災難でしたねぇ、殿下」

「まったくだ」


 ケネス様ったら……なんだかんだ言って、殿下の事嫌いじゃないくせに。


「彼らにうまく恩を着せられたかい?」

「まー人聞きの悪い。私はただ話を聞くことしかできませんでしたよ。ただの卒業生ですからね」

「嘘だね。全員晴れやかそうだった」

「まさか。それはさておき、軽くなったならよかったわ」


 冬の間だけだから、あと二、三回だけれど、あの二人がもっと仲良くなれるといいわねぇ。午後はどんな人が来るかしら。


 ────こうして、おばあちゃんによって無事に乙女ゲームのストーリーは破綻した。



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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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