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36. おばあちゃん相談室は穏やか……よね?


「なるほど……その、巻き込んでしまってすまない」

「いいえいいえ、私がお節介焼きなものですから」


 しょんぼりしつつも不機嫌で……変な人。

 それにしても、この人こんなだからあんなに疲れてるのね。馬車でも仕事しなくちゃ終わらないなんておかしいわよ。席が半分書類で埋まってるじゃないの。


「何をそんなにすることがあるのです?」

「…………」

「あ、答えられる余裕がなさそうなのでオレが教えますね」


 まずそこの山が取りまとめている領内の商会の報告書類、床にあるのがウォード家の新事業についてのもの、テオが持っているのが通常事業について、カバンに入っているのが領主としての書類。そして今しているのが学園での教材作成……。

 なんてサラッと言うテオ。

 ちょっと待ってくださいな。おばあちゃんはあまりに過酷な労働量に頭がくらくらしてきましたよ。


「ちなみにその仕事って部下に振り分けとか……」

「できませんね。重要書類が多いので」


 私が早く嫁がないとダメだわこの人。絶対倒れてしまうわよ。今までよく体調を崩さずやってこれましたね。

 馬車でこなす分を終えたらしいところでちょうど学園に着きまして。


「なにかあったらすぐに俺に言うように」

「なぁに言ってるんですか。ケネス様こそ無理はぜっったいになさらないようにお願いしますよ」

「? ああ」


 まあケネス様のことはどうにかするとして。さて、私も仕事しましょうかね。こんなのでお給金をもらっていいのかしら、という感じだけれども。

 学園は校舎と旧校舎、運動場にグラウンド、庭園に中庭、温室、図書館、となりに離れがありまして。私がいることになったのはその離れ。落ち着いた雰囲気で、少し埃の匂いがして、日当たりのいい素敵な場所。


「やめろ、私は相談事などない」

「いいからついてきたまえよ」


 さっそく誰かいらっしゃったようで。もうすぐ授業が始まるのでは?

 そして、なんだか聞き覚えのある声。


「やぁ! 本当に引き受けてくれるとはありがたい」

「おい」


 入ってきたのは殿下と、千種色のおかっぱに丸めがねの……インテリみたいな生徒。凄く嫌そうね。


「ああ、彼はウィリアム・カートレット侯爵令息。生徒会の一員で、学年の主席なんだ」

「あらまぁ、それは凄いですねぇ。初めまして」

「殿下、私は授業に戻らせていただく」


 出ようとするウィリアム様の首根っこを掴む殿下。ここで乱暴はやめてほしいわねぇ。


「まずは私が話す。君はその後だ。隣の部屋で待っていてくれ。逃げたらどうなるかはわかるはずだ」

「……御意」

「今、お茶を淹れましょうかね」

「いや、私の話はすぐ終わるから大丈夫だ」


 ウィリアム様が隣の部屋に入ったところで、殿下はどかっとソファーに座って小さな声で話し始める。


「カーレス男爵令嬢、君に敵意がないのはよくわかったからね。僕の計画について話しておこうと思う」

「あら、これ悪巧みなの?」

「いいや、逆にみんなのためになるさ」


 完全に悪い顔なのだけれど。まあ、とりあえず話を聞きましょうかね。


「まず、僕がケネスを学園の臨時教師にしたところから話そう。これは、ケネスの汚名を払拭し、人脈を広げるために、僕がわざとそうした」


 元はといえば怪物が広まったのは僕が原因でもあるからね、と。なるほど……?


「彼はとても優秀だ。伯爵にしておくには非常に惜しい。しかし陞爵……つまり位をあげるにはそれなりに理由が必要でね。手っ取り早く、領地を豊かにし、より多くの財産を持ってもらいたい」


 ええと、つまり、自分の腹心にしたいから爵位を上げたいけれど、それには今のイメージが悪すぎるから改善のために呼んだ、ということ?


「そして、君は位が低すぎる。男爵家出身の妻なんて侯爵には無相応だ」


 そもそも我が家の場合、伯爵家との婚姻でさえ異例だわ。お金も領地もほとんどない農業男爵ですもの。


「そこで、学園に来てもらった。君にはここでたくさん恩を売って欲しい。そこで足がかりが彼だ」


 そんなこと言われましても。私はただの元おばあちゃんですよ。そんな作戦やら恩を売るなんて無茶です。お裾分けはほんの少しだけ多めに返すのがご近所付き合いの秘訣ですよ?


「ではよろしく頼んだ。ウィリアム、私は終わったから帰る。ちゃんと相談してきたまえ」


 とマントを翻して出ていった殿下。そして隣の部屋から出てきたウィリアム様。

 …………なんてこったい。


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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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