32. 白菜のお鍋は疲れにいいですよ
「うーん。ずっしりしていていい白菜だわぁ」
夕方になると、そこ冷えするような寒さになってきた今日この頃。採れたのは白菜。日当たりと風通しのいい畑にずらりと白球が並んでいる。
白菜はよく虫に食われるからどうなることかと思ったけれど大丈夫そうね。こまめに雑草を抜いて、ネットをかけていた甲斐があったわぁ。
重くて、しっかり巻いてあって、弾力もある。上出来上出来。冬の白菜は甘味が増して美味しいのよねぇ。
「おっこいっしょ」
白菜を斜めに押して、根本の芯を包丁でザクっと切って収穫完了。あとでクズを片付けないとね。
「今日使うのはこれくらいでいいかしら」
あとは新聞紙に包んで、日の当たらない涼しいところで立てて保管。これだけで三、四週間は持つのよ。それにしても多いから使用人にお裾分けでもしましょうっと。
「お鍋の下処理でもしていましょうかね」
ケネス様が来るのは早くて夜だもの。あの人本当に忙しすぎるわ。過労で倒れるんじゃないかしら。
「まずはよく洗って」
こんな寒い日は鍋が一番。白菜と豚バラの鍋がいいわね。
具材は、白菜、にんじん、水菜に豚バラ、椎茸、自家製豆腐。
「大変だったわぁ」
やっぱり鍋にはお豆腐だもの。張り切っちゃったわ。
大豆を水に一晩つけて、つけ汁ごと滑らかになるまでとにかく潰す。大きなお鍋でお湯を沸かして、潰した大豆を木べらでかき混ぜて、お豆腐の匂いがしてきたら木綿の袋に入れて濾して絞って、豆乳の完成。
そうしたら温めた豆乳ににがりを入れて混ぜて、分離させて。豆腐の塊を軽く押し固めれば完成。
「さて具材は切り終わりましたし、次は出汁ね」
野菜の水分で薄まるから、濃いめに作るのがおすすめ。めんつゆにみりん、昆布出汁。
「……あらケネス様かしら」
ちょうど準備が終わったところでケネス様が。うわぁ……随分とお疲れね。目が虚ろで焦点が定まってないし、どことなくボロボロだわ。寒いからか鼻と耳は真っ赤ですし。
「…………」
「おかえりなさい。お疲れ様です。寒かったでしょう、早く中に……」
と手を引いたのですが。
「はい?」
抱きしめられまして。おかしいわね、なんだかふわっと懐かしい匂いと感じがするわ。というかなんか吸ってません? 確かに出汁のいい匂いがするかもしれませんが。
ああ、それよりお鍋だわお鍋。
「ちょっと。疲れて眠たいのはわかりますけれど、お勝手の戸口で寝てもしょうがないでしょう? 席を用意しておきましたからそこにしてくださいな」
「…………もう少し」
「風邪ひきますよ、ほら、向こうへ行く」
「………はぁ」
ため息つきたいのはこっちですよ。まったく。さ、あとは最後に煮るだけ。
出汁が煮えたら硬い野菜から入れる。白菜の根元の白い部分やら、葉っぱの厚い部分、人参などなど。
硬い野菜に火が通ったら、お豆腐と椎茸を。
お肉を軽く火を通すだけ。水菜もおおよそ火が通るのが同じくらいだから一緒にドボン。
「はい、できましたよ。ちゃんと手を洗ってきました?」
「……ああ」
「食べましょう」
ご飯もよそいまして。だし醤油にゆず混ぜてつくったポン酢も準備完了。
「「いただきます」」
まずは白菜からアツアツはふはふと一口。出汁が染みていて、凄く甘い。さすが旬。にんじんもほっくり。椎茸の旨みは極上ですし、お肉と白菜一緒に食べたらこりゃ止まりませんよ。なによりお豆腐。大豆が濃いわぁ。さすが自家製。
「…………温かい」
「白菜も豚バラ肉も免疫力を上げてくれますし、冬にうってつけですね」
「……そうなのか」
「ええ、お疲れなのでしょうしいっぱい食べてくださいな」
美味しいそうにたくさん食べているところが見たくて作ったんですからね。あわよくば、これで元気になっていただきたいところですよ。




