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29. サボりはいけませんよ!


 低めの身長と中性的な顔立ちは、なんだかとても印象的。白衣を着ているけれど生徒ね。十六歳くらいかしら。


「こんにちは。エミリー・カー……」

「ああ、噂の。騒がないでくれるならそこのソファー使っていいですよ」


 どうして温室にソファーが?? 毛布まで……さてはこの子ここに巣を作ってるわね。

 というか噂って一体どういうことかしら?


「……ああ、分かってないんだ」

「う、噂って?」

「あの怪物伯爵が急に痩せた上に婚約者までできたんだから、噂にもなるでしょ」


 ああ、なるほど。この間の舞踏会は大人が多かったものね。ケネス様が痩せたのを授業で初めて知った子がいてもおかしくないわ。あの人仕事に関わりのない場には一切出て行かないから。

 なんて納得していたところにため息をつかれた。何かしら。


「自分あの人苦手なんですよね」

「それ婚約者の前で言ってしまうの?」

「どうせこの後会うこともないだろうから」


 この世界の人たちって……こう、変わった子が多すぎないかしら。これもげぇむだからなの?

 

「それは流石に酷いんじゃないの?」

「……考えてみればわかることでしょ。貴女は自分の名前すら知らない、今さっき会ったばっかりの部外者だ」


 小生意気というかひねてるというか。憎たらしい寝ぼけた顔してるわね。


「じゃあ教えてくださいな」

「嫌だよめんどくさい。もう寝るからあっち行って」


 …………。思春期の息子でもまだマシだったわよ?

 婆を怒らせると怖って思い知らせてあげようかしら。


「へぇ……講釈垂れてた癖にお名前すら言えないのねぇ」

「…………は?」

「あら、聞こえてなかったの? 耳が聞こえない人なのかしら。紙に書いた方がいい?」


 こちらがそういえばあんぐりと口を開けて。

 よく覚えておきなさい。婆っていうのはね、しつこくて図太いのよ。長ーく生きてる間にたぁくさん学ばせてもらったおかげでね。


「耳が良くないって気がつかなくてごめんなさいね」

「ちょ、ちょっと待って!」

「めんどくさいし寝るんじゃなかったの?」


 あらまぁ顔どころか耳まで真っ赤にしちゃって。


「な、名前くらい言える!」

「はい、じゃあどうぞ」

「ルカ・イングラム。イングラム男爵家のルカだ!」


 よく言えました。満点、花丸。いい名前ね。

 でもそんな焦って息も切れぎれに言わなくても。

 

「男爵家なら位も同じじゃない。どこがこの後会うこともないですか」

「……本当に知らないの?」

「ええ全然」


 こんなふわふわな髪の毛と態度じゃ会ったら忘れないはずなのだけど。そもそも学年が違いますし、私は社交界に疎いですしねぇ。ご子息までとなるとまったくわからないわ。


「聖樹の愛し子って聞いたこと……」

「ないわねぇ」


 キッパリと言うと何故か打ちひしがれた様子のルカ。どうしたのかしら。


「っなんなんだもう。あの筋肉見せつけて女子生徒に囲まれてるウォード先生の婚約者なんだろ!? なんでこんなおかしいんだ!」

「あの人ったら何してるの!?」


 筋肉を、見せつけて、女子生徒に、囲まれてる???

 まさか。あの人が。


「……ないわね。それ何かの間違いよ、絶対」


 あるわけないない。ケネス様だもの。


「じゃあなんで? あんなに悪く言われていたのに、急に愛想が良くなって意味がわからない」


 何か劣等感でもあるのかしら。そんなに思い悩んで、悔しそうな顔をして。

 話を聞いてあげたいけれど……どうも気になるわ。そのうっとおしげな髪をどうにかしてやりたくてしょうがない。


「ちょっとそこに座ってちょうだい」

「え……ああ」


 さっと高い位置で一つ括りにして、これでよし。床にずってちゃ汚いもの。


「ちょ、勝手に」

「こんな土だらけのところで髪を踏みながら歩きたいの?」

「…………ありがとう」

「よく言えました」


 子供扱いするなと怒っていますが知りません。子供扱いされたくないならまずは態度を直しなさいな。


「……何をやっているんだ?」


 なんてギャーギャー腕を引っ張られているところに、ケネス様がやってきたのでした。

 なんだかこう、ドス黒い泥のような雰囲気を纏いながら。


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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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