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26. カブの甘酢漬けは唐突に



「ケネス様も今頃頑張っているかしら」


 まったく、仕事、仕事、非常勤、仕事仕事……だなんて忙しすぎるわよあの人。今までよくうちに来れてましたね。

 なんて少々怒りつつ、収穫しているのはカブ。秋に種まきしたのが取りごろなのよね。

 日当たりも風通しもいい畑にカブの白い肩がちらりと。うんうん、取りごろだわぁ。カブは大きくなると繊維が固くなってしまいますからね。

 葉をまとめたら株の元ををつかんで、ぐいと引き抜く。

 小さめでちょうどいいわ。小ぶりの方が生食に向いてるもの。


「明日のお弁当にはこれを入れてあげようかしら」


 カブは汁物でも美味しいのだけれど、お弁当に入れるなら漬物だわね。といっても糠床がないし……甘酢漬けね。そろそろ糠床作りにも手をつけようかしら。冬ですし。あと切り干し大根も。


「すみませーん!」

「はーい」


 冬の間の保存食について考えていたら、子供に呼ばれまして。どなたでしょう。うちの領の子じゃないわ。


「これを届けに来ました!」

「ああ、お弁当箱。ご苦労様」


 執事服を着た小学生くらいの子がお弁当箱を届けてくれまして。ケネス様ったら本当にお忙しいのね。

 何気なくお弁当箱を見れば綺麗に完食。羊皮紙の切れっ端のようなものに、【有難う】とだけ書いてある。律儀なんだか偏屈なんだかどっちかにしなさいな。

 なんてふっと笑みが溢れれば、小さな執事さんが満足気にニコニコ笑っていた。


「そうだわ。届けてくれたんですし、ご褒美をあげなくちゃね」


 どの世界でも子供は同じ。ご褒美と聞いた途端、くりくりとした黒目をキラキラさせて。赤茶色の髪をゆっさゆっさ揺らして期待している様子は、昔うちで飼っていた犬を思い出すわ。


「渋皮煮と蒸し芋、どっちがいいかしら」

「よくわからないけど甘い方で!」

「はいはい」


 戸棚から渋皮煮の瓶を取りだして、牛乳と一緒に出してあげる。


「わーい! あ、甘い!」

「美味しいでしょう? りんごも食べる?」

「はい!」


 なんでしょうねぇ、この気持ち。ああ、あれだわ、孫が来た時にあれを食わせようこれも食わせようってなるあれだわ。

 りんごをささっと切って。皮もちょいと切ってうさぎに。


「なんかかわいい!」

「うさぎりんごですよ」


 ついでに私も一個。しゃっきり甘くて美味しいわぁ。しっとりとしたのも美味しいけれど、それはそれ。これはこれ。


「そこのみふぉい()色のはっふぁ(葉っぱ)何ですか?」

「ちゃんと飲み込んでからからおしゃべりしましょうね。あれはカブですよ」


 どうやらこれからあれをどうするのか気になっている様子。小さい子ってよくわからないものに興味を持つわよねぇ。


「これから甘酢漬けにするのだけど……見ます?」

「見る!」


 といってもやることは少ない。

 まずはよく洗って、爪半分くらいの薄切りに。


「やっちゃダメ?」

「危ないから駄目」


 そうしたら少しの塩で揉んで、あとは甘酢につける。私はゆずの千切りも入れるわね。一つ味見。うん、ポリっとしっとり甘酸っぱくて爽やか。


「はい完成」

「はやっ」

「薄切りだから早く漬かるし、ご飯にも魚にも合うのよ」


 カブは七草粥に入っている通り、生で食べると胃にいいのよねぇ。なんだか精神的にも疲れていらっしゃるようだし、ちょうどいいわね。風邪予防にも効きますし。


「貴方はケネス様の執事は長いの?」

「それなりに。でも正直エミリー様の執事になりたいです。あ、オレはテオって言います!」

「テオね。まったく、それは美味しいもの食べたいだけでしょう」


 もう。お嫁に行ったら積極的に食べさせてあげましょうっと。


「でも、それにしては初めて会ったわね」

「ケネス様、絶対一人で来たがりますから。オレはいつもお留守番です」

「あらどうして?」


 農作業しているところが見られるの嫌なのかしら。


「そんなの好きな人と二人っきりで会いたいからって……酷いでしょう!?」

「……はい?」


 初耳なのだけれど。


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隣国の王太子様、ノラ悪役令嬢にごはんをあげないでください
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